秋元通信

倉庫の発祥を探ってみよう

  • 2016.2.29

昨年末、ピラミッドが王家の墓や、宗教的な目的で作られたものではなく、実は穀物を貯蔵するための倉庫であったという説が話題を集めました。

ピラミッド内部の新発見に「倉庫だ」 釘を刺す米大統領選で注目のカーソン氏に考古学者ら猛反発
(産経ニュース)
http://www.sankei.com/world/news/151114/wor1511140004-n1.html

言い出したのは、現在行われている大統領選候補のベン・カーソン氏。
クフ王のピラミッドなど、複数のピラミッド内に、未知の空間の存在を発見されたことが、同氏のピラミッド=倉庫発言につながりました。

果たして、クフ王のピラミッドは、本当に倉庫だったのでしょうか?
今回は、倉庫の発祥について、考えてみましょう。

ジュゼル王のピラミッド(wikipedia)

ジュゼル王のピラミッド(Wikipediaより)

クフ王のピラミッドが倉庫であったかどうかはともかく、倉庫が併設されたピラミッドは現存します。
紀元前2600年後半に建造された、ジュゼル王のピラミッドがそれです。最初の階段ピラミッドであるジュゼル王のピラミッドは、ピラミッド本体に加え、葬祭殿、王宮、神殿、そして倉庫などを含む付属建造物からなるピラミッド複合体を形成していました。

 

 

古代エジプト文明以外では、メソポタミア文明を築いたシュメール人が、同様に倉庫を利用していたとされます。
シュメール人は、貨幣を発明したことでも有名です。紀元前2000年頃、小麦を預ける際の預り証として、袋に詰めた銀を利用したという記録が残っています。また、預けた小麦を引き出す際には、この銀を利用することができました。小麦を預け、そして保管する場所として、倉庫が必要であったわけです。

現代流に言えば、この時の銀は、倉荷証券のような役目を果たしていたことになります。
すでに、倉庫ビジネスの仕組みは、紀元前2000年頃にできあがっていたとも言えますね。
倉庫の発生は、支配階級が支配構造を確立し、安定させるための必然であったと考えられます。

もともとは、広大な農地を所有することが富の地盤でした。
農業の発達は、富の格差を拡大させました。
ところで、古代エジプト文明や、メソポタミア文明における農業は、氾濫農耕と呼ばれるものでした。氾濫農耕とは、河川の氾濫が引いた後の肥沃な沖積土を利用して耕作し収穫する農耕のことです。
氾濫農耕の場合、文字通り定期的に農地が洪水によって水をかぶるわけですから、せっかく実った穀物が、洪水で台無しになってしまうことがたびたび発生しました。洪水による穀物の被害を回避し、安定的な支配を行うため、洪水を避けることのできる穀物倉庫が発生したとされています。

また、穀物倉庫が誕生することで、土地、もっと言えば農業に依存しない、神官や役人といった、支配階層が生まれました。

支配のための道具であり、チカラとして、穀物(主に小麦)を蓄える場所として、倉庫が必要となります。
穀物を流通させるための場としては、市場が開かれます。
市場を囲むように、街が形成されます。
この当時の街は、流通を支えるインフラのひとつである、倉庫と市場を中心に発展していきました。
さて、古代文明は、巨大で肥沃な河川とともにあります。
ナイル川とともに栄えたエジプト文明しかり、チグリス川とユーフラテス川とともに栄えたメソポタミア文明も同様です。
河川は、氾濫農耕の礎であり、同時に物流の礎でもありました。水運の登場です。

河川を舞台に水運が商業(流通)を支える構造は、日本でも古くから存在しました。
「津屋」という言葉をご存知でしょうか?
津屋とは、平安時代に生まれたビジネス形態であり、河川の要港で貨物の保管や、販売を行い,口銭をとった倉庫業者を指します。初めは、津 (船付場) のそばで、運送業、倉庫業を営み、倉敷料を徴収するだけだったそうですが、後に荘園制の発展による貨物輸送の増大に伴って、商業機能を強化していくことになったと言われています。

今でも、「○○津屋」という商号を掲げている商店、会社をお見受けしますが、ここから発祥しているのでしょうね。
例えば、福岡県久留米市に、手津屋正助(林田正助)という人物がいました。活躍したのは、1700年後半から1800年前半。田沼意次が失脚し、間宮林蔵が樺太を探検、間宮海峡を発見した時代です。
手津屋正助は、卵の行商から始まり、後に久留米有馬藩の御用聞商人に出世。大阪と久留米を結ぶ米の回送を行ったとあります。筑後川に育まれ、後にムーンスター、アサヒコーポレーション、ブリヂストンなどの名だたる企業を生み出した久留米経済ですが、その基礎を築いた人物です。
ちなみに、冒頭に挙げた、クフ王のピラミッドが倉庫であったという説は….、筆者は賛同しかねます。これまでさんざん調査が行われてきたピラミッドにおいて、昨年まで見つからなかったような隠し部屋に荷物を入れていたら、入出庫が面倒で仕方ないです。

倉庫の発祥は、経済の発祥でもあった。
これは、きっと間違いのないところです。
考えてみると、倉庫ビジネスって、その基本は紀元前数千年前から変わっていません。

だからこそ、知恵と工夫を凝らす余地があるのも、現代の倉庫ビジネスなのかもしれませんよ。

 

参考:
ジュゼル王のピラミッドについて
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%BC%E3%83%AB%E7%8E%8B%E3%81%AE%E3%83%94%E3%83%A9%E3%83%9F%E3%83%83%E3%83%89

シュメール人と貨幣経済
http://www.kanekashi.com/blog/2013/06/2022.html
http://blog.new-agriculture.com/blog/2009/09/000972.html

コトバンク 津屋
https://kotobank.jp/word/%E6%B4%A5%E5%B1%8B-99507

久留米商人 手津屋
http://www5b.biglobe.ne.jp/~ms-koga/612kouen-010erupia.html


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