秋元通信

人はなぜ、暴言/失言を繰り返すのか

  • 2016.11.30

「なんであんなこと、言っちゃたんだろう….」
 
お酒がすすみ、つい軽くなってしまった口から、思わず発してしまったあのひと言。
過去に時間を巻き戻せるのであれば、なかったコトにしてしまいたい…
 
酒席に限らず、何気ない会話でふと発してしまったひと言や、SNSに投稿した書き込みや画像に後悔したことはありませんか。
今回は、暴言/失言を考えてみましょう。
 
 
筆者が以前勤めていた職場には、お酒の大好きな部長がいました。
部下の面倒見も良く、子煩悩な彼は、たびたび部下を自宅に招いては、奥様の手料理を振る舞ってくださいました。やはりお酒が好きな筆者は、何度も部長の自宅に遊びに行き、当時小学生だったひとり娘さんとよく遊んだものです。
 
久しぶりに自宅にお招きいただいたのは、娘さんが中学生になってから。私だけでなく男女部下10名余の大人数で伺いました。
いつも以上にお酒が進み、饒舌になった部長。その場に、娘さんが挨拶に顔を出しました。
親バカっぷりを発揮する部長が、発したひと言がその場を凍りつかせます。
 
「カワイイだろう、うちの娘。ま、胸がないのが欠点だけどな!」
 
顔をこわばらせ、見る見る間に目に涙をためる彼女。思春期の女の子にとっては、どれほど辛い瞬間だったことでしょう。そんなひとり娘の様子に気がつかないのは部長だけで、奥様はもちろん、私を含めた部下一同も表情を引きつらせています。特に女性部下たちはシラケ、また侮蔑を含んだ表情を浮かべています。
結局、その場に居づらくなった我々は、いぶかる部長への挨拶もそこそこに退散しました。
翌朝、所在なげな部長の姿がオフィスにありました。おそらくは奥様からこっぴどく叱られ、自分の失言にいたたまれない気持ちだったのでしょう。その後、部長が自宅に部下を招くことは二度とありませんでした。
芸能人、政治家、そして経営者など、過去に暴言/失言のために、その身を危うくした人は枚挙にいとまがありません。
「他人の振り見て我が振り直せ」とも言います。いくつか挙げてみましょう。
 
 

「5万円なんて夕食代にもならない」(神田うの)

(ブラック企業問題に関して)「そんな会社に入ったお前が悪い」(千原せいじ)

(某飲料企業の甘酒新商品発表会にて)「犬のゲロみたい」(西川史子)

(高齢出産について)「羊水が腐る」(倖田來未)

「日本ほど安全で治安の良い国はない。ブサイクな人でも美人でも、夜中に平気で歩けるのだから」(麻生太郎)

「黒人は知能が低い」(中曽根康弘)

「仙台遷都などアホなことを考えてる人がおるそうやけど、(中略)東北は熊襲(くまそ)の産地。文化的程度も極めて低い」(佐治敬三)

 
熊襲(くまそ)とは、古代日本において反朝廷派勢力などを指して呼んだ言葉であり、文明の低い「未開人や蛮族」という蔑視を含む言葉です。
名経営者として名を残す佐治氏(発言当時の1988年はサントリー社長)ですが、こんな暴言を吐いたこともありました。この暴言をきっかけに、東北地方を中心に不買運動が起こり、サントリーは大きな経営打撃を受けました。
続いて、不祥事を起こした企業の経営者たちが、火に油を注ぐかのように更なる暴言/失言を重ねてしまった例をご紹介しましょう。

「私は寝てないんだよ!」
雪印乳業社長。集団食中毒事件を引き起こした記者会見にて、詰め寄る記者たちに逆ギレ。2000年6月。

「そもそも、なぜ、西武鉄道を上場しなければならなかったか」
西武鉄道・コクドグループの堤義明会長。西武鉄道の株偽装問題に際して。2004年6月。

「手付かずの料理は食べ残しとは違う」
船場吉兆の女将であり女社長。食べ残した鮎の塩焼きや刺し身の添え物を使いまわしていたことを記者会見で詰問され逆ギレ。2008年5月。

「社長は本日、大切な要件をキャンセルしてここにおいでになっているのです」
三菱自動車広報部長。リコール隠しが発覚、記者会見において、殺到する質問を強引に打ち切ろうとして発言。2000年。
こうやって書き出してみれば、どの発言も、「なぜ、こんな馬鹿なことを…」と呆れるものばかりです。
なぜ、ひとは暴言/失言をしてしまうのでしょう。

 
 
精神科医の香山リカ先生は、暴言/失言をする心理的メカニズムを以下のように分類しています。
(香山先生自身も、過去にさまざまな暴言/失言で炎上騒ぎを起こしている方ではありますが)
 

  • 「自己愛型」
  • 「脱抑制型」
  • 「失錯行為型/うっかり本音タイプ」
  • 「失錯行為型/無意識の本音タイプ」
     

各々解説しましょう。

・「自己愛型」
自分が持っている能力や権力を万能だと勘違いし、「何を言っても許されるはず」と思い込むタイプ。

・「脱抑制型」
不慣れな環境やシチュエーションについつい舞い上がってしまい、軽い躁状態となって口を滑らせてしまうタイプ。

・「失錯行為型/うっかり本音タイプ」
・「失錯行為型/無意識の本音タイプ」
「失錯行為型」は、本人も自覚に乏しい本音が、ポロッと顔を出してしまうタイプ。
本タイプは、さらに「うっかり本音タイプ」と「無意識の本音タイプ」に分類される。
本音をつい口にしてしまう「うっかり本音タイプ」に対し、「無意識の本音タイプ」は本人も忘れているような葛藤やトラウマ、深層心理に起因するため、いろいろと難しい。

 
香山先生は、ネット社会、とりわけSNSの普及によって、「失錯行為型」暴言/失言が増えていると指摘します。
現実社会、例えば相手と直接対面している場合は、暴言を言いかけた瞬間、相手の表情や反応によって、「あっ!!、これ以上言葉にしたらマズイ!」と気がつくことができます。これを「社会的手がかり」と呼ぶそうです。
ところが、FacebookやTwitterなど、ネット上での発言(投稿)では、相手の反応=「社会的手がかり」を瞬間的に把握するのは困難です。相手の反応が見えたときには、すでに炎上状態になり、事態が収拾不能な状態になってしまっていることもあります。
ちなみに、過去にやらかしてしまったネット上での炎上行為のことを、「デジタルタトゥー」と呼ぶそうです。ネット上に残った過去の暴言や失言は、消せない、消しようがない…ってことですね。
暴言や失言は、名言と紙一重のところがあります。
 
「ちょっとおもしろいこと、注目を浴びるようなことを言ってやろう」
そんな下心が、災いすることもあるのでしょう。
 
 
「人生はクローズアップしてみると悲劇だが、引いて見ると喜劇である」
チャップリンの言葉です。暴言や失言の火消し、後始末に追われる姿は、本人からすれば悲劇かもしれませんが、俯瞰的に見れば、チャップリンの言うとおり喜劇なのかもしれません。
 
お酒を召し上がることの多いこの季節、暴言や失言をやらかしてしまい、「苦い酒」にならないよう、最後の一線だけは守りましょうね!

 

参考/出典:

トピック「失言」まとめ
https://matome.naver.jp/topic/1LwPk

「会社を潰す経営者の一言 『失言』 考現学」
村上信夫 / 中公新書

「こころの時代」 解体新書 / 失言・暴言の心理を紐解く
香山リカ / 月刊「創」 2013年8月号 有限会社創出版


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