秋元通信

優秀なドライバーは、優秀な配車マンになれない?

  • 2017.2.28

ある商社に、とても優秀な営業マンがいらっしゃいました。
社内のみならず、業界内でも名が知れ渡り、その提案力、営業力に対して、一目置かれているような方です。当時、筆者はWeb業界へ転身したばかり。その方から相談を受け、いろいろと知恵を絞った挙句、あるWebシステムを開発することになりました。
 
Webシステムは、今で言えばSNSに商品カタログがドッキングしたようなものです。商社として数万種類のアイテムを扱う同社では、メーカーの技師を訪問し、新商品、新規取扱商品の案内をする御用聞きスタイルの営業が基本でした。
ところが、この方法は商社の営業のみならず、メーカーに在籍する技師の皆さんにも時間的な負担と制約が発生します。いつも会えるわけではない、ということですね。そこで、面談を行う代わりに、Webを介して情報発信とコミュニケーションを取ることも目論んだシステムを考えたわけです。
 
今であれば、それほど斬新な発想ではありません。しかし、時は2004年。ちょうどFacebookが産声をあげた時であり、SNSがまだ一般的とは言いがたかった時期です。
同システムは、開発段階より社内外から大きな話題と期待を生みました。お客様であるメーカー側も前のめりで同システムに大きな期待をしてきました。
 
ところが…
システムは完成したものの、なかなか稼働できません。ちょこちょこと小出しに商品情報がアップされるものの、本格稼働開始とは程遠い状態が続きます。
そのまま、半年、1年と時が経過し、同システムはけっきょく日の目を浴びることはありませんでした。
 
私にとっては苦い思い出です。そして、貴重な経験を与えてくれました。
なぜ、こんなことになったのか?
もっとも大きな理由は、優秀すぎる営業マンが行ってきた営業スタイルを、そのままシステム化してしまったことにあったと考えています
優れた人材の仕事を引き継ぐためには、基本的にはその人材と同じ器が必要です。しかし、件の営業マンの営業スタイルと同じ大きさの器を持った方は、同社にはいませんでした。その方以外の、数百人の営業マンは、誰ひとりとして同システムを有効活用した営業をこなすことができなかったのです。
 
TOP営業マンとそれ以外
 
 
別のエピソードをご紹介しましょう。
ある運送会社でのこと。
それまで、配車マンは同社社長が務めていました。しかし、業績が拡大するにつれ、いつまでも社長自ら配車マンを続けているわけにはいきません。
そこで、ドライバーから配車マンを抜擢しました。ドライバーとしては、極めて優秀であり、かつ仲間からの信頼も厚かった彼が配車マンとして抜擢されたことは、社長はもちろん、社内の誰もが妥当な人事であると考えました。
 
ところが…
彼が配車マンに着任し、数週間が経過した頃から社内がぎくしゃくし始めます。次第に、配車マンである彼に対する不満が社長の耳にも届くようになりました。さらに数週間経過した頃には、彼は完全に社内で孤立してしまいます。
 
「**さん(※問題の新任配車マン)だったら、確かにこの配車でも回れると思いますよ。でも、僕らには無理なんですよ!!」
 
社長に直談判してきたドライバーの言葉です。
 
「『お前ら、もっと頑張れよ!!』って怒られるけど、そもそもあの人みたいに、僕たちは優秀じゃないし…
しばらくの間は、歯を食いしばって頑張ってきたけど、もう限界なんですよ…」
 
優秀すぎる元ドライバーの新任配車マンが、自分基準で配車を組んだ結果、ついていけなくなったのは元同僚ドライバーたちでした。先輩であり、新任配車マンとして頑張る彼を慕っていた同僚ドライバーたちは、なんとか彼の期待に応えようとします。しかし、いかんともし難い実力差が、同僚ドライバーを苦しめます。慕う気持ちは、やがて諦めに、そして怒りへと変わりました。
 
仲間であると思っていた新任配車マンも、次第に自分に反抗的になっていくドライバーたちに苛立ちを隠せません。しかしある時、彼は気が付きます。自分が社内で既に孤立していることを…
かつての仲間は、もはや仲間ではありませんでした。
孤独感に苛まれた新任配車マンは、ついに辞表を提出したそうです。
 
実は、後者のエピソードは、特定の運送会社を元にしたものではありません。
読者の皆さんの中にも、この手の話を聞いたことはありませんか? そうです、運送会社によくあるエピソードをストーリー化しただけです。
 誰もついてきてくれない...
 
足の速い人が、自分のペースで走ってしまったら、他の人はついていけません。
アタリマエのことなんですが、つい忘れがちなアタリマエではないでしょうか?
 
皆さまは、今回挙げたエピソードをどのように感じられましたか?
心当たりのある方は、少し立ち止まって、周りを見渡すことも必要なのかもしれません。


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