『RhマイナスAB型の血液の方を探しています。福岡県の大川に住む高校球児の血液が足りません。佐賀の病院に入院していますが、採血して3日以内の、新鮮血が必要です』
『千葉県京葉地区の石油工場で大爆発が発生し、有害物質が大量に大気中に飛散した』
『熊本地震で動物園からライオンが逃げ出した』
こんな噂を聞いたことはありませんか?
また、こんな噂をSNSで見て、ご自身もシェアしてしまった人はいませんか?
念のためお断りしておきますが、これらはすべて悪質なデマです。ひとつ目は昨秋、ふたつ目は東日本大震災の時、みっつ目は熊本地震の時に発生したデマです。
今、こうして眺めてみると、どれもバカバカしいデマです。
ところが、その当時には、かなり多くの人がこのデマを信じ、そしてFacebookやTwitterなどのSNSでシェアし、デマの拡散に加担してしまいました。
今回は、デマに惑わされず、SNSにおいて情報の真贋を見極める方法を考えましょう。
先のみっつのデマを振り返ってみましょう。
ある共通点があることに気が付きませんか?
- 「危険」や「危機」に関するものであり、読み手の感情を揺さぶられる内容であること。
- 「緊急性が高い」情報であること。
「血液が足りない!? じゃあ、うかうかしていたら、高校球児は死んじゃうじゃないか!!」
そうです、そのように思わせることが、デマの発信犯の目的なのです。
人の善意につけ込み、また時間的余裕のない緊急性の高い危険や危機といった非常事態を演じることで、デマを素早く広く拡散させること。これがデマの特徴です。
実はこれ、典型的な詐欺の手法だそうです。ありがちなアサルトサイトの架空請求のパターンを例に解説します。
カモ(被害者)がアダルトサイトにアクセスすると…
「カシャ!」というシャッター音とともに、「あなたの顔を記録しました」とメッセージが表示される。
「会員登録完了」と表示される。
「情報利用料金10万円をご請求します」と表示され、OKボタンしか押下できないようになっている。
OKボタンを押すと、(スマホの場合)電話の発信画面が表示される。
あわてて元のアダルトサイトに戻ってもOKボタンが表示されていて、一見、逃れようが無い、「騙しの無限ループ」にハマったように見える。
「騙す仕掛け」のポイントは明確です。
- 被害者の感情を揺さぶる
- 被害者を急かす
いわゆる架空請求の被害者に話を聞くと、「なんで騙されちゃったんだろう?」って自分自身で後から不思議がる人が結構いるんだそうです。
先の「騙しの手順C」にしても、ブラウザを閉じれば騙しの無限ループから逃れることは可能です。スマートフォンを再起動してしまえば良いんです。ところが、慌てているから冷静な判断ができない。いま目の前に突きつけられた脅しから、一刻も早く逃れたいがために、ついお金を払ってしまう…、こうやって騙されるわけです。
SNSでデマ情報に騙される心理も、とても似通っています。
ひとつ違うとすれば、「シェアすること」が善意の行為につながると思わされることです。冒頭の献血デマに関しても、このような言葉が添えられていました。
「この記事は本当に拡めていただきたいので、シェアではなくコピー、ペーストして掲載していただいたらありがたいです。ご協力お願いします」
なぜ、シェアではなくコピー&ペーストが「本当に広める」ことになるのか、冷静に考えると意味不明です。これは、デマを作成した犯人が、自分を突き止めにくくするため、デマの発信源を探求されにくくするための方便です。
ところが、騙されちゃうんですよね…
「シェアくらい、別にいいじゃないか?」
そう思う人もいるでしょう。これは大きな間違いです。
デマ情報を拡散することに加担した人、つまり、FacebookやTwitterでデマ情報をシェアなどして拡散した人は、デマ情報に騙された被害者であるとともに、デマ情報を拡散した加害者でもあるのです。厄介なのは、騙された側であるがゆえ、もしくは「たかがシェアしただけだし…」と自身の行為を過小評価してしまうため、加害者である意識が極めて低くなってしまうことです。デマのターゲットにされた人や企業からすれば、とんでもない話なのですが、やらかした本人は、そのことに思いが至りません。自分自身が騙されたという屈辱感だったり怒り、イライラが心を占領していることも一因でしょう。
ネット犯罪は、被害者であると同時に加害者になってしまうところに特徴のひとつがあります。ウィルス感染などは分かりやすい例ですが、デマの拡散も同様です。
だから、SNSでシェアや拡散を行う際には、必ず気をつけなければなりません。
- 「シェア、拡散希望」という情報には注意すること。特に「コピー&ペーストで拡散希望」とある場合は、デマである可能性が極めて高い。
- 「いますぐシェア」など、急がせる文言が書かれていたり、暗に急かすような内容には注意すること。
- 情報の発信源はどこなのか? 信頼できる発信元なのか、必ず確認すること。
- 情報の裏付けを取ること。少しでも怪しいと思ったら、ネット検索して裏付けを取る習慣をつけましょう。
- 常識的に考えて、不審な点がないかどうか冷静に考えること。
- SNS上で、同じ情報が頻繁にシェアされていたらデマでないかどうか疑うこと。(「皆がシェアしているから安心だろう」には、何の根拠もありません)
冒頭の例であれば、まず佐賀県の赤十字や石油会社のWebサイトを確認すればよかったことです。本当の情報であれば、Webサイトに掲載されています。
「いや、赤十字も慌てていて、Webサイトに掲載する余裕なんてないかもしれないぞ!」
そうですね、たしかにその可能性はあります。
しかし、よく考えてください。
- その情報は、あなたがシェアすべき情報ですか?
シェアする前に、冷静に考えてください。これがもっとも大切なことです。
シェアは、ボタンひとつでできます。その簡単さ故に、そのシェアが誰かを傷つける可能性を忘れてはいけません。逆にシェアするのであれば、あなた自身がその情報の真贋に責任を持つべきです。
筆者もSNSを楽しんでいます。
確かにSNSは便利で楽しいものです。しかし、数年前には存在しなかったツールですから、これまでには考えもしなかったような問題や危険性もあるのです。
正しくSNSとお付き合いし、楽しく過ごしましょうね!
- 独立行政法人国民生活センター 2016年4月号
「架空請求とだまされる心理」秋山学 - SNSで拡がる「AB型Rhマイナス血液不足」は誤情報?
赤十字「足りています」(BuzzFeed Japan) – Yahoo!ニュース
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161018-00010003-bfj-sci