秋元通信

SNSに心理状態を操作される!?

  • 2017.5.31

「SNSに心理状態を操作される!?」
 
そんなことあるんでしょうか?
それとも、心当たりがありますか?
 
前号では「デマに騙される人の心理」と称して、SNSにおいて情報に踊らされない方法を考えました。
今回も、SNSとの上手な付き合い方を考えたいと思います。
 
 
本題に入る前に、サブリミナル効果について考えましょう。
サブリミナル効果とは、意識と潜在意識の境界領域より下に刺激を与えることで表れるとされている効果のことを指します。「意識と潜在意識の境界領域より下に刺激」という表現が分かりにくいですが、「見た」、もしくは「聞いた」と気がつくことができないレベルのメッセージを指すと考えていただければよいです。
 
有名なエピソードです。
1957年、アメリカのある映画館において、実験が行われました。
映画が上映されているスクリーン上に、「コカ・コーラを飲め」、「ポップコーンを食べろ」というメッセージを1/3000秒づつ5分毎に二重映写したところ、コカ・コーラについては18.1%、ポップコーンについては57.5%の売上増加があったそうです。
 
人は、自分が意識する、もしくは意識可能な範囲以上に、外部刺激に影響されます。
現在、サブリミナル広告は、多くの国で禁止されていますが、Facebookでは過去、別の方法で心理実験を行い、そして非難を浴びたことがありました。
 
コトは、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された論文(2014年6月17日付)で発覚しました。
Facebookは、2012年1月11日~18日、無作為に選んだ約69万人のユーザーを対象に実験を行いました。
 
実験内容は、以下のとおりです。

  1. 「ニュースフィード」に表示する友人らの投稿をFacebook側で操作し、肯定的(ポジティブ)な印象を与える投稿を減らしてみた。
  2. すると、実験対象のユーザー自身が投稿する内容も、否定的(ネガティブ)な内容が増えた。
  3. 逆に、ネガティブな投稿を減らしたところ、実験対象ユーザーの投稿もポジティブな内容が増えた。

共同で論文を執筆したFacebookのデータサイエンティストは、自らのFacebook上で「友人のポジティブな投稿を見ると、落ち込んだり自分が取り残されていると感じたりするという説が本当かを調べるためだった」と説明し、「実験が不安をかき立てたことについては、大変申し訳なく思っている」と謝罪しました。
さすがに、良心が咎めたのでしょうね。
 
このような現象を、感情伝染と言います。
そして、先の例のように意図的に操作せずとも、Facebookを始めとするSNSはロジックとして感情伝染を引き起こす機能を備えています。
 
SNSのタイムラインにおいて、投稿が表示される友人と、表示されない友人、もしくは表示される頻度が少ない友人がいることに、疑問を感じたことはありませんか?
設定等の話はおくとして、SNSには下記のようなロジックが備わっています。

  • 「コメント」、「いいね!」、「お気に入り」、もしくは「シェア」などをしてくれる友人(フォロワー)の投稿を、優先的にタイムラインに表示する機能
  • 自分が、「コメント」、「いいね!」、「お気に入り」、もしくは「シェア」などをする友人(フォロワー)の投稿を、優先的にタイムラインに表示する機能

なぜ、このようなロジックを採用するかと言えば、それは「自分に(もしくは自分の考え方に対し)肯定的、もしくは近しい趣味嗜好および思考の投稿を多く表示する」ためです。つまり、ユーザーにとってSNSを居心地の良い場所にするためのセッティングと言えます。
極端なたとえですが、ネコが大嫌いでイヌが大好きな人のタイムラインに、やたらと「ネコ大好き!」とか「ネコってかわいいよねぇ」という投稿が表示されたら、げんなりしますよね。気持ちよくSNSを利用してもらうためには、イヌに関するポジティブな投稿を増やすべきです。
 
そして、このロジックが結果としてユーザーに対する心理操作、もしくは感情伝染を引き起こすのです。
 
「トラックドライバーが嫌いだ!」という人がいたとします。
 
「先日トラックに、幅寄せされて怖い思いをしたよ」
ある日、こんな投稿をします。すると、いくつかの「いいね!」と、コメントを貰いました。
 
『私の投稿、気持ちに同意してくれる人がこんなにいたんだ!』
 
「私」は次の投稿をします。
「この間、トラックドライバーがコンビニの駐車場でタバコを吸っていました。私のクルマの隣りで…、です。喫煙場所で吸って欲しい」
また、「いいね!」とコメントが付きます。
 
「私」は思います。
『私以外にも、トラックドライバーを疎ましく思っている人はいるんだね』
 
「私」はさらに投稿します。
「この間、ファミレスに行きました。そしたら汗だくで汚い格好をしたトラックドライバーが横で食事していました。気分悪かったです」
今回も「いいね!」が付きますが、コメントに関しては肯定的なものばかりでなく、否定的なものもありました。
「トラックドライバーは、ファミレスに入っちゃいけないんですか?」
気分が悪いので、その人のコメントには「いいね!」はしませんし、返事もしませんでした。
 
同じように、トラックドライバーに否定的な投稿をする人がいました。もちろん、「私」は「いいね!」をして、コメントもしました。
逆に、トラックドライバーに肯定的な投稿をする人がいました。「私」は無視し、「いいね!」はせず、コメントもしません。
 
「私」は、トラックドライバーに対するアンチな投稿を続けます。
すると、「私」の投稿に否定的なコメントをする人は減りました。それどころか、同じようにトラックドライバーに否定的な投稿が、タイムラインで目につくようになってきました。
 
『私の感じていることは、間違っていないし、むしろ皆同じようにトラックドライバーのこと、嫌いなんだね』
 
むしろ、厳しいことを言うほど、「私」に対する注目が集まっている…ような気もします。
「私」は、自己肯定感を高め、さらに投稿を過激化させていきます。
 
SNSはコミュニケーションツールであると同時に、自己承認欲求を満たしてくれる場です。
そして、SNS運営側は、ユーザーのSNSに対する満足度を上げるため、自己承認欲求を満たすロジックをシステムに組み込んでいきます。
 
一般的には、過激な発言を繰り返せば、多くの人は離れていきます。その発言が正しいか間違っているかではなく、強く激しい主張は人を疲労させるからです。ところが、それは全員ではないんですね。過激な発言であっても肯定してくれる、同意賛同してくれる人は必ずいます。いなければ、そういう人が集まるSNSに移動すれば良いんです。
自らの過激な発言は、自分にとっては自信であり心地よい刺激でもあります。
だから、SNSという場でかりそめの信奉者を得て過激な発言をする人は、その過激さを加速させることがあるのです。
 
心理操作をすることが、SNS運営側の目的ではありません。
しかし、結果的に心理操作されてしまう人が出てしまうのが、SNSの現実です。
 
サブリミナルの例を挙げるまでもなく、人間は外的環境、とりわけ他者の発言や振る舞いに影響を受けやすい存在です。それは、人間が備えた社会性の良い面でもあり、悪い面でもあります。
 
ただし、影響を受けやすいことをあらかじめ認識していれば、備えもできるのではないでしょうか。サブリミナル効果についても、「サブリミナルが挿入される」と分かっている状態では効果がないと言われています。
 
「確かにSNSは便利で楽しいものです。しかし、数年前には存在しなかったツールですから、これまでには考えもしなかったような問題や危険性もあるのです。
正しくSNSとお付き合いし、楽しく過ごしましょうね!」
 
これは前回記事「デマに騙される人の心理」のクロージングです。
今 回も、申し上げたいことは同じです。

SNSは楽しいものですが…、でもたかがツールのひとつです。
間違ってもSNSに踊らされたりすることのないよう、楽しく過ごしたいものです。
 
 
 

補足

※サブリミナル効果について、世の中で喧伝されているほど効果があるものではない、という研究結果があることも添えておきます。
※本記事で書いたSNSのロジックは、公式に公開されている(SNSが認めている)とは一概に言えません。しかし、外部設計、つまりSNSで行われる見かけ上の動作より、こういったロジックの存在が推測されています。
 
 
 

参考・出典

米フェイスブックが謝罪、投稿操作し心理実験 (日本経済新聞) http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM0100I_S4A700C1000000/

Facebook、無断で行った情動感染実験について謝罪・釈明 (ITmedia エンタープライズ) http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1406/30/news044.html

サブリミナル効果 (Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%AB%E5%8A%B9%E6%9E%9C


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