秋元通信

信号無視はなぜいけないのか?

  • 2017.8.31

先日、ある母子の会話が耳に入ってきました。
 
場所は小学校の前の交差点。筆者が信号が変わるのを待っていたところ、小学校低学年と思われる女の子が、信号を無視して道路を横断しようとしました。
 
「赤信号だよ!渡っちゃダメ!!」
返す女の子の言葉に、筆者は驚きました。
 
「だって、クルマ来てないよ」
驚きはさらに加速します。
 
「ママだって、この間、赤信号でも道路渡ったじゃん。『クルマが来てないから大丈夫!』って…」
 
別の話をしましょう。
弊社本部のある芝浦地区は、信号が多いわりには交通量が少ないです。さらに言えば、総じて信号が長いんですね。そのためでしょうか、信号無視をする自転車、歩行者の多いこと多いこと…
場所柄、芝浦付近にいる人は、半分以上が物流関係者だと思うのですが、会社では安全を謳いながら、自身は平然と信号無視をしてしまうんですね。

ここで質問です。
あなたの知人が、赤信号を無視して道路を横断しようとしたら、どのように注意しますか?
もしくは、あなたの部下、同僚、もしくは上司が赤信号を無視しようとしたら、どのように注意しますか?
もっと言えば、信号無視は、なぜいけないのでしょうか?
 
今回は、信号無視、特に自動車以外の自転車、歩行者などの信号無視がなぜダメなのかを、あらためて考えてみましょう。
 
 
歩行者や自転車の信号無視については、自動車の信号無視よりも、「良くないこと/ダメなこと」という悪質性を低く評価されてしまうことが、各種の研究によって明らかにされています。感覚的に、なんとなく共感できる人も多いのではないでしょうか。
 
余談です。
筆者は自転車乗りたちのルールやマナーの啓蒙活動をプライベートで行っています、安全啓蒙活動イベントなどに参加するスポーツサイクリストで信号無視をする人は、まずいません。ところが、そのようなサイクリストの中にも、歩行中は「赤信号でも横断歩道を渡る」ということを日常的に行っている人がいます。もっと興味深いのは、例えば50万円するロードバイクに乗っている時は信号無視をしないけれども、1万円のママチャリに乗っている時は信号無視をついしてしまう、という人がいることです。
乗り物の値段が高いと、信号遵守意識が高まる?
それとも、速度が上がると、信号遵守意識が高まる?
不思議なところです。
 
赤信号無視については、4パターンの行動グループが存在することが分かっています。

  • 一番初めに信号無視をする「首唱者」
  • 赤信号無視をしている人に同調して信号無視をする「模倣者」
  • 信号を守る(赤信号無視をしない)「尊守者」
  • その他

 
 
某所にある信号無視をされやすい信号(交差点)において、歩行者の観察が行われました。その交差点を利用する歩行者を対象に、行動グループを分類し、グループごとに道路の幅や交通量をどのように評価しているのかを観察したところ、興味深い結果が得られました。
 

クルマの交通量に関しては、首唱者、模倣者は、尊守者に比べて、「ここの交差点は、クルマがほとんど来ないんだよ」と主観評価を下していることがわかりました。
さらに、道路幅については、首唱者<模倣者<尊守者の順番で、実際の道路幅よりも短く認識していました。ただ、尊守者においても、実際の道路幅よりも短いと認識していたとのことです。

 
乱暴な言い方をしてしまえば、信号無視をする人ほど思い込みの勝手判断的傾向が強いということです。
エッシャーのだまし絵に代表される錯視で確認できるように、人間の知覚は決して正確ではないことは周知の事実です。例えばタイムキーパーのような特殊な職業の場合は時間の感覚が、例えば測量士の場合は距離や空間感覚が、かなり正確に研ぎ澄まされることはあっても、すべての知覚が定規のように正確である人間などいません。
 

錯視の例(明治大学 錯視の心理的・数理的アプローチの融合研究プロジェクト)

※画像はクリックで拡大します。


 
 
 
 
平成28年度に発生した交通事故約50万件のうち、クルマとひとの交通事故件数はおよそ1割でした。その内容を診ると、6割が横断中の事故であり、さらに言えば3割が横断歩道で発生しています。3割のすべてが歩行者側の信号無視とは限りませんが、横断歩道という場所の危険性、横断という行動の危険性を正しく知覚できていれば、赤信号無視などできないと思うのですが、いかがでしょうか。
 
話が少し変わります。
例えば、安全対策のため、あるいは4Sなどの品質管理を目的として、ルールを定めたとしましょう。にも関わらず、事故が発生しました。その原因は、どこにあるのでしょう?
 
「想定外の事態が発生した」/「ルールに従ったが、事故は発生してしまった」
これは、ルールの設定が間違っていたことになります。ただし、実際には意外とこういうことは少ないのではないでしょうか。
 
多いのは、これですね。
「ルールはあったら、守られなかった(ただしく運用されなかった)」
 
信号無視をする時に、まったく左右を確認せずに横断歩道に突っ込んていく人は、ほとんどいないでしょう。そんなことを日常的にしていたら、命がいくつあっても足りません。ほとんどの人は、左右を確認し、安全を自分なりに確認した上で、信号無視をしています。
ここに、信号無視の根本的な問題、そして安全管理や品質管理にも通じる課題が潜んでいます。
 

  • ルールを守らない。
  • ルールを自分都合/自己判断で改ざんしてしまう。
  • ルールを破るために、わざわざ無用な判断(知覚)プロセスを追加している。

 
赤信号をきちんと守っていれば事故に合わなかったのに…
信号無視をするために、わざわざ左右確認をした「つもり」になって、でもその確認が間違って事故にあってしまう。
ちなみに、左右の安全確認が目をキョロキョロさせるだけで十分であれば、指差呼称なんて必要ないですよね。人間の知覚、注意力には限界があるから、指差呼称を行うわけです。指差呼称の効用とフェーズ理論については、過去記事「指差呼称は脳に良い!」も参照なさってください。
 
人間は、残念ながら弱い生き物です。
弱い、というのは肉体能力も然り、知覚能力も然り、そしてメンタルも然りです。「これくらい大丈夫!」という甘えは、どこかでほころびを生じさせてしまうのですよ。
先のお母さんの例、自転車乗りの例も、その弱さの一例です。定められたルールに対し、自分が勝手に定めた除外事項を追加した挙句、その行為の愚かさにすら気が付かないのです。
 
ルールは守らなければなりません。だって、それがルールであり社会なのですから。
信号無視をする人は、きっとあなたの会社の品質管理ルールや安全対策ルールも、遅かれ早かれ破ります。
 
「信号無視はなぜいけないのでしょうか?」
もう答えは出ていますね。「それがルール(法律)だから」です。
せめて、物流に関わる人は、基本的な交通ルールは守るべきではないでしょうか。
物流にとって、安全は絶対正義なのですから。
 
 
 

参考

交通心理学研究 Vol.15 No.1(1999年)
「歩行者の信号無視と交差点の認知バイアスとの関連について -主観的評価と推定認知の観点から-」
(北折充隆)
 
平成28年における交通事故の発生状況(警察庁)
https://www.npa.go.jp/news/release/2017/20170322002.html
 
指差呼称は脳に良い! 注意力を高めるフェーズ理論の話
https://amlogs.co.jp/?p=1082


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