秋元通信

過剰サービスに押しつぶされる運送ビジネス【運送ビジネスはいつ破綻するのか!?】

  • 2018.4.10

昨年11月に配信した記事「帰り荷が見つかりにくい都道府県はどこ?」を読んだくれたTwitterユーザーが、興味深いひと言を寄せてくれました。

「そもそも、『帰り荷だから安い』って思うことが間違いなんだよ!』

おそらく、このひと言を寄せてくれた方は、現役トラックドライバーだと思われます。
難しいですね…
『帰り荷だから安い』と発言する荷主側にも問題はあると思いますが、しかしそもそも『帰り荷だから安い』という認識を荷主側に与えてしまったのは、誰なのでしょうか?
 
今回は、サービスサイエンスをご紹介しつつ、「過剰サービスに押しつぶされる運送ビジネス」をテーマに考えましょう。
 
 
以前、ある運送会社の社長に依頼され、商談に同席したことがあります。話が診えないので、アドバイザーとして同席して欲しいという依頼でした。商談相手は、中堅どころの倉庫会社です。倉庫会社が、同社のクライアントである小売店への配送を請け負う運送会社を探していたわけです。
 
倉庫会社の出した条件は、概ね妥当なものでした。しかし、私がとても気になった点がありました。ドライバーによる棚入れが、配送の付帯サービス条件だったのです。そして、棚入れに対する付帯作業料金はありませんでした。
クライアントである小売店は、店舗の広さのわりにアイテム数がとても多いという特徴を持ちます。店舗配送を日常的に行っている運送会社でも嫌がる棚入れですが、同案件における棚入れは、さらに難易度が高く、面倒であることは容易に想像ができました。
 
件の運送会社は、店舗配送の実績がありません。
 
運送会社の社長が言いました。
「店舗配送をやるからには、棚入れも覚悟しないといけないんでしょうね…」
 
倉庫会社の営業が答えます。
「お客さんは、『これくらい当たり前だよ!』って言っているんですけど…」
 
両者とも、その棚入れがサービスの範疇を超えていることを感じつつも、そう言い切る自信がないようです。
 
 
棚入れはもちろん、ドライバー自身が行う荷役作業、手積み手卸し、時間指定など、サービスという甘言によるタダ働き、過剰サービスに苦しめられている運送会社はたくさんいます。
 
過剰な付帯サービスはなぜ生まれるのでしょうか?
 

  1. 荷主側の都合によるケース
    物流センターにおける待機時間や、店舗における棚入れなど、「荷主側の人手が足りない(いない)」ために、運送会社側に作業や時間の肩代わりを求めるケース。
  2. 過剰要求と知った上で圧力をかけるケース
    「嫌だったら他の運送会社に変えるけど?」などと、取引上における優位的立場を悪用するケース。
  3. 運送会社、荷主の双方、もしくはいずれかが、過剰要求であることがわかっていない(もしくは、過剰要求であると言い切る自信がない)ケース
  4. 運送会社側が、過剰な付帯サービスと認識しつつ、仕事欲しさに請け負ってしまうケース

 
ケース1.、ケース2.は論外ですね。そして、これらのようなケースは十分とは言えないまでも、国土交通省等の指導の元、改善への取り組みが開始されています。
問題は、ケース3.、ケース4.ではないでしょうか?
そして、現在指摘されている過剰な付帯サービスの多くは、ケース3.、ケース4.から生まれているものではありませんか??
 
 

「そもそも、『帰り荷だから安い』って思うことが間違いなんだよ!』

 
いや、そもそも帰り荷だから安く運べる、っていうふうに荷主に知恵をつけてしまったのは、歴史的に考えれば、運送会社側のサービストークだったものと考えられます。
 
冒頭に挙げた棚入れのエピソードにしても、「そんな棚入れ、タダ働きじゃできませんよ!」と言い切れない倉庫会社、運送会社の双方にも課題があります。
 
 
サービスサイエンスとは、属人化しがちな、もしくは属人化せざるをえないと思われていたサービスという概念を、科学的に研究する学問であり手法です。IBMが顧客に対して行うコンサルティング手法として概念化したことが発祥とされています。
 
顧客満足度という言葉、皆さんはどのようにお考えになりますか?
サービスサイエンスにおいて、顧客満足度とは、行われたサービス(実績であり内容)とお客様の事前期待との差であると定義されます。
事前期待よりもサービス実績が大きければ、お客様は満足し、顧客満足度は上がります。
逆に、事前期待よりもサービス実績が小さければ、顧客満足はマイナス、つまりお客様には不満が残ります。
 
サービスサイエンスにおいて、顧客満足度を上げるために重要なことは、サービスを向上させる(サービス内容を充実させる)ことよりも、事前期待をコントロールすることにあるとされます。
これは当たり前といえば当たり前の話です。
サービスは赤字にならない範囲で行わなければなりませんから、サービスを向上させるのは限界があります。対して、事前期待を下げることは、簡単であるとは言いませんが可能です。
 

サービスサイエンスにおける、顧客満足度と事前期待の関係

サービスサイエンスにおける、顧客満足度と事前期待の関係


 
運送ビジネスにおいて、「事前期待を下げる」とはどういうことでしょう。
例えば、運送契約の書面化は、お客様の事前期待をコントロールする有効な方法のひとつと言えます。仕事の範囲を共有する、つまりできることとできないことを明文化する運送契約の書面化は、サービスサイエンスの観点からも有効なのです。
そもそも、運送サービスの向上は、安全品質、輸送品質や、ドライバーが行う挨拶等の接客などで行われるべきであって、棚入れをタダ働きすることではないはずです。挙句の果てに、棚入れ場所を間違うなど、サービスの範疇でクレームを発生させてしまったら…、目も当てられません。
 
 
店舗における棚入れはもちろん、車上渡しと言いながらのドライバーによる荷役作業、時間指定を要求されながらの待機発生など、「これはサービスの範疇なのか?」という事例は、枚挙に暇がありません。
運送ビジネスにおける事前期待の相場感というものがあるとすれば、それは運送業界の実力を超えて高止まりしていると言って良いでしょう。
 
これを解消するのは生半可な努力では無理です。
ただし、やるべきことはシンプルではないでしょうか。
 
できないことはできないということ。
労働に対する対価はきちんと求めること。
そして、運送会社自身が、自分ができること、できないこと、対価を求めるべきことを知ることではないでしょうか?
 
 

「運送会社の49.0%は、従業員10名以下の会社。20名以下まで広げると、72.1%の会社が該当する。運送会社の98.3%は従業員が50名以下であり、対して従業員が1000名を超える会社は0.1%しかない」

 
以前も書いたことですが、運送業界は中小零細企業の集合体です。
そして、中小企業における最大の弱点のひとつは、情報力です。
冒頭の棚入れの例もそうですが、「なんでこんな仕事を請けちゃったかなぁ…」という運送会社のなんと多いことか…
「運送ビジネスにおける事前期待の相場感」が共有されていれば、こういう悲劇(喜劇と言うべきでしょうか??)は回避できたのではないでしょうか。
 
 
物流業界、とりわけ運送ビジネスが直面する課題は深刻です。
その深刻さの一部は、昨年のヤマト運輸さんが値上げを発表したことで世間にも広く認知されました。しかし、まだ足りません。
 
「過剰サービスに押しつぶされる運送ビジネス」
反論を恐れずに、あえて言ってしまえば、これは自爆です。
そして自爆しないためにはどうすれば良いのか、その対策でありヒントとして、事前期待のコントロールを考えてみてはいかがでしょうか。
 
 
人気の不定期連載「運送ビジネスはいつ破綻するのか!?」、今回のテーマはいかがでしたでしょうか。
また次回をお楽しみに!
 
 

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