秋元通信

守られないルール。そのルールはOK?

  • 2018.4.25

事故を起こすたび、ルールが増えていく…
そんなお悩みを抱えている会社はいらっしゃいませんか?
 
ある運送会社の話です。
同社は、商品破損や遅延、誤配等、事故の多発に悩んでいました。ある時、同社のドライバー会議に出席したことがあります。
その会議におけるメインの議題も、やはり事故でした。商品の破損事故について、事故状況の報告があり、お客様との対応進捗の報告があり、社長からのお叱りがあり…
どんよりとした重苦しい空気に、部外者である私もげんなりしましたから、当事者である社員たちの表情は、一様に暗く重たいものでした。
事故対策について、報告と確認をしている時でした。今回の事故の対策として、指差呼称を行っていこう!、という方針を打ち出すと、リーダー格のドライバーが、その対策についてこのように指摘したのです。
 
「それって、**の指差呼称と被りませんか?」
 
続く別のドライバーの発言に、私は耳を疑いました。
 
「それ、いつ決めた指差呼称のこと?」
 
あーだこーだと発言するドライバーやら配車マンを見ていると、つまりは安全対策のために、もっと言えば事故を起こすたびにルール化した指差呼称が、ひとつふたつではなく、複数あるようです。
 
「すいません、ちょっといいですか。指差呼称に限らず、過去に事故対策として定めたルールって、いくつあるんですか?」
 
私の横槍に、場は静まり返りました。
バツが悪そうに、最初に発言したドライバーが、こう言いました。
 
「それがね…、分かんないんですよ。まとめていないし」
 
 
物流業界に限らず、事故対策、もしくは安全対策として、ルールを定めることがあるでしょう。
その、ルールが守られない、破られてしまう…
以前、「ルールが守れない」として、合意性推定をテーマにしたことがありましたが、今回はルールそのものの妥当性を考えましょう。

あくまで一般論としてですが、ルールが守られない理由としては何が考えられるでしょうか?

  1. ルールの難易度が高すぎるケース
  2. ルールそのものを知らないケース
  3. ルールを守る必要性が希薄なケース

代表的なこれらの理由について、個別に考えましょう。
 
 

1.ルールの難易度が高すぎるケース

 
「難しい」、「多すぎる」、「手間(工数)がかかる」など、ルールを遂行することが難しいケースです。
冒頭のエピソードの場合、「ルールが多すぎる」ことが課題のひとつです。
逆に、品質を保証する規格、例えばISOなどは、ルールの難易度こそが、ルールの価値を高めているケースもあります。
しかし、このようなケースは、安全対策や事故対策のため日常的に履行することを求められるルールには不適切です。
 
なお、ここで言う「手間」や「難しい」は、業務全体とのバランスで決定されることを忘れてはいけません。
例えば、駐車禁止。
一般の買い物客が駐車禁止を守ることの難易度と、限られた時間内に何件もの配達を行う必要がある宅配業者が駐車禁止を守る難易度には、たいへん大きな差があります。
業務全体とのバランスを考慮せずに定められたルールは、悲劇的に滑稽でしかありません。
 
 

2.ルールそのものを知らないケース

 
冒頭のエピソードでは、過去に定められたルールを従業員が理解していませんでした。ルールは管理され、そして周知、教育されなくてはいけません。知られていないルールは、守られなくとも致し方ありません。
 
法律違反にあたる行為でも、それが法律違反だと知られていなければ守られることはありません。最近何かと問題になる自転車を例に挙げましょう。夜間の無灯火走行が法律違反であることはほとんどの人がご存知でしょう。しかし、点滅灯だけでは前照灯とは認められないことは、自転車の交通法規にかなり詳しい人でないとご存知ありません。
 
 
ルールは定めればOK!、というものではありません。
逆に言えば、定めた時点で満足してしまい、ルールを忘れてしまう会社のなんと多いことか…
ルールは、周知徹底、そして教育されなければ価値を失ってしまうことを忘れてはいけません。
 
 

3.ルールを守る必要性が希薄なケース

 
このケースは難しいです。というのも、「ルールを守る必要性」は、守ることを求められる当人たちの価値観に依存するからです。
例えば、私が通っていた大学の学科は、マニキュアが禁止でした。
その理由を知らされていなかった(私を含めた)学生たちは、「中学や高校の校則じゃあるまいし…」とバカにしており、入学当初、女子の中にはマニュキュアをしている者も少なからずいました。ほどなくして理由はすぐに分かりました。化学実験の際、マニュキュアが変色したり、爪に固着していまうなど、化学変化による被害が生じたからです。
 
「だからね、マニキュアするなよ~って言ったのに…」
 
いや、そんな怖いこと、あらかじめちゃんと説明しておけよ!
泣きそうな女子たちを見ながら、他人事のようにのんきにつぶやく教授や助手に対し、私は理不尽を感じました。
 
価値観は、ひとによって異なります。
私が以前勤めていた運送会社で、指差呼称を怠っていることを配送先の物流センターから指摘されたドライバーがいました。リーダーに叱られる彼女(女性ドライバーでした)を見ていて、ふと私の心に疑念が湧きました。
 
 
「もしかして、指差呼称って格好悪いとか、恥ずかしいと思ってない?」
 
「…、駅とかで、駅員さんの真似して指差呼称する鉄道オタクとかいるじゃないですか。一緒にされたくないと言うか…」

 
ルールには、そのルールが定められるに至った理由と経緯、ルールそのもの価値などの付帯情報があります。ルールに付帯する情報を教えず、ルールを「ルールだから守りなさい!」と押し付けることは、守られないルールを生み出すことに繋がりかねません。
 
少し話がずれますが、私どものような世代と違い、若手世代は理不尽を理不尽として受け入れることに慣れていません。理屈をもって、理路整然と説明できないルールは、受け入れてくれない可能性があることも留意すべきでしょう。
 
 
最後に、私がシステム開発に携わっていたときのエピソードをご紹介しましょう。
 
あるシステム開発案件で、かなり深刻なバグを発生させてしまったことがありました。バグの原因は、人為的なミスによるもの。またそのバグは、ダブルチェックでも見逃したことから、トリプルチェックを行うことを今後の事故対策として、私はお客様に謝罪とともに説明しました。
 
私が提出した事故対策に対し、お客様の返事はNGでした。
理由は以下のとおりです。

  • トリプルチェックなど手間のかかることをしたら、結局その分の工数は今後のコストに反映するんでしょ?
  • ダブルチェックで見逃されたバグが、トリプルチェックだったら見逃さないという保証は、どこにあるの?

お客様そのものが大手SIerであり、担当者もプロジェクトマネージャーを務めていた方です。言わば、私にとっては業界の大先輩です。
 

「ルールで何かを守ろう、というのは手間もかかるし、結局属人化するんですよ。そして、ルールは増えれば増えるほど、あなたとあなたの会社を縛ります。

『安易にルールを増やしちゃいけない』

私も、お客さんから過去そう言って叱られたことがありました。

仕組みを考えてください。二度と、このようなバグを起こさない仕組みを。
仕組みを生み出すのは、ルールを考えることよりも数段難しいです。でも、信頼度は桁違いです。
そして、私も、そしてあなたも、より安心できるのは、ルールではなく仕組みで守ることなんですよ」

 
 
ルールという安全対策には、どうしても抜け道や漏れ、もしくは「想定外な事態」が生じます。また、環境の変化等によっては劣化が生じることがあるでしょう。

だからこそ、ルールを定める際には、そのルールがきちんと守ることが可能であるかどうか、検討を尽くす必要があります。
また、仕組みとしてルールを強制させるような方法があるのであれば、それに越したことはありません。逆に言えば、安易にルールでことを済ませようと考えるのはよくありません。

読者の皆さまの中にも、守られないルールにお悩みの方もいらっしゃるかもしれません。
もしかしたら、ルールが守られないのは、守らない人だけではなく、そのルールそのものにも課題があるのかもしれませんよ!
 
 
 

【補足】自転車の前照灯について
自転車に限らず、前照灯は常時点灯が基本です。点滅灯を使う場合には、常時点灯するライトとは別に、補助ライトとして使用することが基本です。
ただし、過去の判例では、点滅灯だけしか装備していなかった自転車の関係する交通事故において、前照灯相当の要件を満たしていると判断されたケースもあります。

なお、自転車の前照灯については、道路交通法に加え、各都道府県等の条例によって規定が定められてるケースがあります。


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