秋元通信

経団連発 物流産業への提言

  • 2015.11.16

先月20日、経団連が物流産業への提言を発表しました。
経団連が、物流をテーマに提言を発表したのは、2013年4月の「次期総合物流施策大綱に望む」以来、約2年半ぶりとなります。

今回は、本提言についてご紹介いたします。

「企業の競争力強化と豊かな生活を支える物流のあり方
~官民が連携して、「未来を創る」物流を構築する~」
http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/093.html

本文は42ページにおよびますが、内容を要約した概要も用意されています(本文3ページにも、概要が用意されています)。

提言は、以下の様な書き出しから始まります。

「企業の事業活動や日常生活は、一般的に様々な製品や原材料、それらを利用したサービスを常に消費・利用することによって成り立っている。(中略)
『物流』を介在させることなく、事業の効率性を維持し、円滑に活動していくことや、満足度を下げることなく日々の暮らしを送ることは、今日的には事実上、困難であると考えられる」

物流の重要性を認めたうえで、「物流には、さらなる事業革新が求められて」おり、それが成されない場合は、「自社及び物流業界のみならず、関連する産業全体の競争力も弱体化させてしまうことにもつながりかねない」と釘を差しています。

この論調は、今年6月内閣府がスタートさせた「サービス業の生産性向上協議会」でも語られました。同協議会では、「労働力不足の克服がアベノミクスの最大の課題」としたうえで、その課題に直面し、アベノミクスのボトルネックとなりうる業界として、小売業、飲食業、宿泊業、介護業、運送業が挙げられました。
※本件に関しては、秋元通信7月16日号 「運送業界って、そんなに魅力ないかな?」で取り上げています。

物流企業の事情については、このように言及されています。
・取引先企業や消費者のニーズ、事業環境の変化等に対して、対応力の強化に最優先に取り組んできた。

荷主企業の要望に応じ、様々な無理や付帯サービスを諾々と受け入れることが、「最善の方法と評価されてきた面がある」という物流企業側のこれまでの事情に理解を示しています。

一方、荷主企業側の事情としては、「自社単独で進める物流効率化はそろそろ限界に達しつつある」と指摘。
物流コストの削減に取り組んできた荷主企業に対し、「かつてのように物流コストの削減が競争上の優位を確保する有力な手段ではなく、むしろ商品の付加価値そのもので競争する比率が高まっているとの指摘もある」と論じています。

荷主側企業が今後取り組むべき課題として、「適正な運賃」の必要性と、物流企業に負担を強いる「サービス」に見直しを図るべきと言及されています。

「『収益性のある物流』を実現するには、産業界を挙げた取組みを通じて、物流事業における対価の適正収受を前提とした適切な競争環境を整備する必要がある」

「輸送と付帯作業の区分を『サービス』として曖昧にしたまま、実質上ドライバーが荷役作業を担い、ドライバーの負担が増している現状は、女性がドライバー職を敬遠する要因にもなることから、契約書面化の徹底とその遵守は、物流の現場における女性の活用という観点からも重要と考えられる」

「サービス」に関し、女性雇用を例に挙げ、運送契約書面化に言及する流れは、説得力があるようで、反面問題の本質を歪めているようにも感じます。
本提言においては、このようにこれまで公にはあまり省みられてこなかった物流業界の苦境に関し、いくつか言及されています。

「今日に至るまで、製造業や卸売業・小売業等の荷主企業の間では、経営層の物流効率化の重要性に対する理解が十分に高まってきているとは言いにくく、また消費者サイドでも、物流コストを常に意識することなく、『送料無料・即日配送』を当然視する風潮がみられるなど、社会基盤としての位置づけへの理解も深まっているとは必ずしも言える状況にはない」

通販サービスにおける「送料無料」に関しては、TV等でコメンテーターとしても活躍する精神科医:香山リカ氏が、「送料無料って、ホントは無料じゃないんだね」という趣旨の発言をTwitterで行い、炎上したことがありました。

経団連が、「送料無料」を問題視したことがきっかけで、今後の世論形成の上でも大きな意味を持つことを期待したいところです。
ここまでは、どちらかというと物流産業の苦境に理解を示し、物流企業を擁護するような記述をピックアップしてきました。
では、物流企業に対し、どのような課題を示しているのでしょうか。

「物流事業者が、こうした時代の新たな要請に確実に応える力を身に着けていくためには、既存の事業環境・取引慣行を望ましい姿から見直し、変化への対応力に磨きをかけるだけでなく、物流として何ができるかを追求し、関係者のみならず、広く社会に提案していく革新力が求められる。例えば、自ら『時代に対応する』に加え、官民が連携して、『未来を創り出す』物流を目指すべきである」

また、「実運送事業者の真の競争力」の条件は、以下であると断じています。
「荷主企業の要請に対し現場から迅速かつ丁寧な対応を行うなど、ワンストップでありながら、下請け物流事業者を含むグループの総合力を活かし、末端物流まで質の高い物流が担保されることにある」

運送事業者の57%が車両20台以下であり、49%が社員10名以下という、中小零細企業の集合体である運送事業者に、「関係者のみならず、広く社会に提案していく革新力」が求めるというのは、とても厳しい課題にも思えます。

例えば、提案型営業という言葉は、様々なビジネスにおいて、広く浸透しています。提案というビジネス活動の重要性は、すでに広く周知されていると言って過言ではないでしょう。
荷主企業側の要求に、唯々諾々として従ってきた物流企業にも、自ら考えるチカラを手に入れるよう、経団連は物流企業に対し革新、もしくは成長を迫っているようにも受け取れます。
本提言では、自動運転などの技術革新、共同配送や共同配送を実現するための情報システムなどのビジネスプロセスの変革、港湾/空港/道路といったインフラの整備を、「企業の競争力強化と豊かな生活を支える物流」には必要であるとしています。
提言内には、「貨物専用ルート」、もしくは「貨物専用道路」に対するインフラ整備の必要性も謳われています。これらは、今まであまり検討されてこなかったテーマと思います。提言だけで終わるのか、それとも検討が活性化するのか、興味深いところです。
最後に、提言内のある言葉を紹介しましょう。
「これまで述べてきた『収益性のある物流の確立』と『産業構造の高度化を支える物流への変革』を両立するには、従来の『行き過ぎた顧客対応』ではない、デマンドチェーン視点のロジスティクスを確立することも重要である」

デマンドチェーンとは、消費者、需要者側から得られる情報を基点に、商品開発、生産、流通、物流などを構成する考え方です。
物流企業は、流通を支えるインフラとなる物流の担い手ではありますが、消費者/需要者といったユーザーとの関わりは、基本的に希薄です。プレイヤーに徹することの多い物流企業に、「デマンドチェーン視点のロジスティクスを確立」することはできるのでしょうか?

以下、筆者の私見です。
全般的に、産業界からの目線で物流産業と物流に関係する関係官庁、機関に対する要望色を強く感じる本提言。
言われるだけではなく、物流産業目線での情報発信、もっと言えば反論/反証も必要なのだと感じました。
冒頭に取り上げた、内閣府の協議会の例を挙げるまでもなく、これまでになく物流ビジネスが注目されることが多い今だからこそ、物流の担い手側からの意見発信が求められており、またその重要性であり、必要性も増しています。

一事業者である私どもも、情報発信力を増やす試みが必要なのかもしれませんね。


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