秋元通信

物流業界と女性活用

  • 2016.5.31

前号記事「本音は別? 女性の退職理由を考える」においては、女性が退職(転職)を行う背景を考えました。

なぜ、このようなテーマを取り上げたのか?、スタート地点を確認しておきましょう。

現在、物流業界は人不足に悩んでいます。
特に深刻なのが、トラックドライバー不足。
「ドライバーがいなくて、トラックを余らせている」という運送会社の存在、ひいては「商品が運べない!」という製造業の悲鳴は、物流業界内だけの課題ではなく、日本経済の重要課題として認識されています。

昨年6月、首相官邸で行われた「サービス業の生産性向上協議会」では、小売業、飲食業、宿泊業、介護業と並んで、運送業における労働力不足の克服が、「アベノミクスの最大の課題」と名指しされました。

昨年10月、経団連は、提言「企業の競争力強化と豊かな生活を支える物流のあり方」を発表。
「本格的な人口減少・高齢化社会のもとで物流が新たな産業構造に適切かつ迅速な対応を取らなければ、物流業界のみならず、わが国産業全体の競争力を弱体化させてしまう」として警鐘を鳴らしました。

物流業界の就労者モデルについては、特徴がふたつあります。

  • 高齢化が進んでおり、40歳未満の就業者は、全体の約3割しかいない。
  • 女性就労者が著しく少ない。
2015年の産業別男女就労者数の統計。物流業界の男女割合は、全産業平均に比べて著しく男性社会に偏っている。

2015年の産業別男女就労者数の統計。物流業界の男女割合は、全産業平均に比べて著しく男性社会に偏っている。 ※クリックで拡大します。

2015年度統計の就業者数総数は、6388万人。
男性が3622万人、女性が2765万人であり、全就業者における男女比率は、男性57%、女性43%となっています。
ところが、運輸業・郵便業(※統計における産業分類)の男女比率は、男性81%に対し女性19%。もし、物流業界における女性比率が他産業並みの水準になれば、物流業界の人不足問題など、一気に解決してしまう可能性があるわけです。
 
 
もっとも、事がそうそう簡単に進むわけもありません。
もともと、物流業界には女性就業者が少ない理由、もっと言えば女性が物流業界で働きにくい理由が存在するわけですから。
前回、そして今回のテーマは、物流業界で女性が働きやすくなり、結果として女性就業者が増えるためにどうすればよいのか、その議論を行うことを目的としています。
 
そもそも、物流業界に女性が少ない理由は、なぜなんでしょう?

  1. 重い荷物を持つなど、元々は肉体労働的な要素が高かったため、筋力に乏しい女性が働きにくかった。
  2. 乱暴な言葉づかいをするトラックドライバーなどの男性従業員も多く、女性が働きにくい雰囲気があった。
  3. 男性がほとんどの職場であったため、女性用のトイレ、更衣室、休憩室などの整備がおざなりにされてきた。

過去の経緯を整理すると、このような流れであったかと思います。
次に、「運送会社に対するイメージ」から考えてみます。

  1. 3Kのイメージが強く、全般的にイメージが悪い。
  2. 「女性トラックドライバー」というと、特別な職業であるというイメージがある。自分自身がトラックを運転することなどできるわけがないと考える女性も多い。
  3. トラックドライバー = 肉体労働であり、体力、もしくは筋力的な側面から女性には向かないというイメージがある。
  4. 早朝からの勤務、もしくは深夜の勤務があり、育児などと両立させにくい。

 

先日、企業見学に訪れた高校生たち。興味津々で、小林所長の説明に聞き入ります。

先日、企業見学に訪れた高校生たち。興味津々で、小林所長の説明に聞き入ります。


 
余談ですが、先日高校生が企業見学に来た際、このような質問を受けました。
「運送会社で働く叔父に、『お前みたいなひょろひょろが運送業界で働けるわけがない!』と言われたのですが、やはり重い荷物を持てる筋力がないと、運送会社で働くのは難しいのでしょうか?」

筆者などは、こういうことを言ってしまう叔父さんに、いらだちを感じてしまうのですが…
筋力問題に関しては、取り扱う荷物の種類によって、大きく事情は様々であることを、物流業界の中の人達は知っていることと思います。筋力を必要とする荷物においても、ウン十年前と比べれば、そのような懸念は大きく減ってきていますし、またそもそも事務などであれば、関係のない話です。
 
話は変わりますが、女性の労働力率を表す、M字カーブをご存知でしょうか。
これは、年齢を横軸に、就労率を縦軸に設定した折れ線グラフであり、女性が年齢/世代別の就労状況を診る上で、直感的かつわかりやすく表現されている図表です。

「女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合)は,結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し,育児が落ち着いた時期に再び上昇するという,いわゆるM字カーブを描くことが知られており,近年,M字の谷の部分が浅くなってきている。
女性の世代ごとの労働力率を見ると,若い世代ほど,M字カーブの2つの山が高くなると同時に谷が浅くなり,かつ,谷が右方向にずれている」

出典:内閣府男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/zentai/html/honpen/b1_s00_02.html

働く女性が増える一方、結婚や出産を機に仕事から離れる女性が多いため、M字の谷が形成されます。また、晩婚化や高齢出産の増加によって、谷の部分が右にずれる、つまり職を離れる女性も高齢化しているのでしょう。

ちなみに、海外では同様の統計をとっても、M字カーブは存在しないそうです。唯一存在するのは韓国。韓国の場合は、そもそも女性の就労率が低い上、M字の谷も深くなっています。
女性の就労を妨げる一因は、仕事を再優先と考える企業側の考え方であったり、就業条件であると言われています。家庭のために残業をしない勤務を行いにくいことであったり、子供の急な病気などによって会社を休む、早退するなどが行いにくいことであったり…、という社会事情です。先の理由7.をクリアできるような、女性が働きやすい就業条件を物流企業で実現するためにはどうしたら良いのでしょうか。
 
 
ある運送会社の話をご紹介しましょう。
その運送会社は、ある特殊な配送を請け負うことになりました。荷物は総じて小さく、最大サイズでも両手サイズ。配送エリアは狭いものの、配送箇所は多く、かつ棚入れも要求されています。

「とてもうちのドライバーでは、こなせない…」
そう思うも、断ることのできない筋からの依頼でもあり、配車担当は頭を抱えました。
「だったら、女性パートを使おうよ」
悩む配車担当に、社長はこのように声をかけたそうです。もともと、同社では仕出し弁当の配達を行っていたことから、スーパーロングのワゴン車を数台保有していました。荷物も小さいことから、トラックを用いる必要はなく、ワゴン車でも配達可能です。
クルマはマニュアルのみだったので、最初はマニュアル免許を持つ女性を募集しました。(トラックに比べれば)積載量の少ないワゴン車であるため、コースによって荷物が積みきれない場合は、午前便、午後便に分けて配送センターに戻るコースも設定しました。

当初は、トラックで一般貨物の配送を行っている男性ドライバーが8割、女性パートドライバーが2割ほどの割合でスタートしましたが、しばらく日が経つと、女性ドライバーのほうが圧倒的に、この仕事に向いていることが分かってきます。棚入れの精度も女性のほうが高く、何よりも配送先の事務所内に入室することから、愛想が良く、清潔感のある女性のほうが受けが良かったのです。
 
本格的に女性活用を考えた同社では、オートマ車の導入を行います。また、ワゴン車のサイズも、スーパーロングではなく、標準サイズ・ボディを導入しました。
車両が小さくなったため、一度に積みきれる荷物の量は減ります。そのため、配送は、午前、午後、夕方の時間帯に分割しました。
配送時間帯をみっつに分けたことで、女性パートが集まりやすくなりました。家庭を優先したい女性にとって、働きやすくなったわけです。女性パートが集まりやすい理由は、他にもあります。レジ打ちなど、女性が働きやすい他のパート職種に比べれば、時給を高く設定できたことです。
もちろん、お子様の急病などを原因として、ドライバーの欠員が生じることも多くなりました。本点は課題として残っているものの、配車担当が配送に出る、通常業務の終わった男性ドライバーに応援を頼む、また時には女性事務職員が配送に出ることで、カバーしているそうです。
 
 
物流業界の人不足は確かに深刻な問題です。
しかし、人不足と言いながらも、きちんと採用に成功している物流企業もあります。そして、採用に成功している企業は、必ずと言っていいほど、採用活動に対する工夫と努力を行っています。
 
女性活用も同じではないでしょうか。
ただし、物流業界における女性活用に関しては、まだまだ方法論に対する議論も、そして成功事例も不足してることが実情であると考えます。
 
 
7月14日に開催予定の情報交流会では、物流業界の女性活用に関して考えます。
ご興味のある方、ぜひご参加をいただければ幸いです。

 

出典:
「労働力調査結果」(総務省統計局)
http://www.stat.go.jp/data/roudou/


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