秋元通信

障がい者とともに働くということ

  • 2016.6.30
アイエスエフネットハーモニー社では、名刺制作も行っています。

アイエスエフネットハーモニー社では、名刺制作も行っています。

「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)が改正され、従業員50人以上の民間企業においては、障がい者を2%以上雇用することが義務付けられました。とは言え、昨年の法定雇用率達成企業の割合は半数に届かない47.2%。
残念ながら、弊社も未達成企業の1社です。

義務付けられた…、と言っても、障がい者雇用を実現するのは、現実的には大変です。もっと言ってしまえば、障がい者雇用に関しては、どのように進めればよいのか皆目見当がつかない、というのが弊社としても本音でありました。

 

今回は、障がい者雇用の実例と、障がい者雇用を進めるISFネットハーモニー社の施設見学の様子をお届けしましょう。
 

筆者が以前勤めていたWeb制作会社は、従業員の1割強が障がい者でした。
率直に言えば、同社に転職した当初は、障がい者と働くということに強い戸惑いを感じたのは事実です。困惑と、多少の怯えを感じていたと言っても良いでしょう。それまで日常的に障がい者と接したことのない人は、筆者にかぎらず同じような感情を持つのではないでしょうか?

当時、私は営業兼ディレクターであり、下肢麻痺、筋ジストロフィーや精神障害を抱えたHTMLコーダー、視覚障害のシステムエンジニアなど複数の障がい者とともに仕事をしていました。最初の頃は相手が障害を持っているということもあり、仕事上言うべきことも躊躇してしまうようなことがありました。
とまどう私の様子に、直属の上司が言った言葉は今でもはっきりと覚えています。

「健常者だろうが障がい者だろうが、同じように接しなさい。気後れする必要はないし、それはむしろ相手に失礼だ」

上司の奥様も障がい者であり、だからこそ彼はそのような気持ちを強く持っていたのかもしれません。

そうは言っても、人間そう簡単割り切れるものではありません。ふとしたところで接し方に戸惑うことはたびたびありました。
例えば、会社で飲み会で、筋ジストロフィーの女性が私の隣に席をとった時。彼女の手は、ごく限られた動きしかできないため、飲む、食べるといった動作ができません。乾杯の際、どうしたものかとオロオロする私に、彼女はにっこりと笑いながら、このように言いました。

「気が利かないなぁ、早く飲ませてよ!」

言われてみれば当たり前です。自分では飲めない/食べられないわけですから、例えばストローを刺した飲み物を口元まで運んだり、お箸で食事をとってあげる必要があるわけです。
当たり前なんですが、その当たり前のことを躊躇する私がいて、その私の緊張を、彼女はおどけた口調で解きほぐしてくれたわけです。
 
 
別の事例をご紹介しましょう。業界紙「臨床作業療法」(青海社)からのエピソードです。
「キングコング」は、沖縄市内において焼肉食べ放題を提供するお店。沖縄県内では飲食業は3年もてば上出来と言われるそうで、20年続く同店は、老舗と言っても良いでしょう。
とは言え、かなり厳しい時期もあったらしく、一時は13店舗あった店も、2006年には10店を閉店、倒産の危機に陥ったそうです。経営が悪くなれば、社内の雰囲気も悪くなります。コックはホールスタッフの接客が悪いと言い、ホールスタッフは店長の采配が悪いと言い、店長は経営者が無能だからと言い募る、「他責の文化」が会社全体を支配していたそうです。

そんな最悪の時期に、ある高校生(以下、A君とします)がアルバイトの面接に来たそうです。
「面接に来たA君は大きな身体を丸くしてうつむき加減、上目遣いで目線は合わせない。非常に違和感があったが、四の五の言っていられない状況で、彼を雇った」
自らA君を面接した社長は、当時をそのように振り返ります。

違和感は的中し、A君は不始末を起こします。物覚えも悪く、同じミスを繰り返す。目線を合わさず接客をし、コミュニケーションもうまく取れず、お客様からもクレームが入る始末。
経営が傾き、人不足故に混乱する現場に、さらに仕事量を増やすA君を雇ってしまったものだから、既存の従業員やアルバイトには不満が溜まっていきます。
ついに、「A君と同じ給料だったら、この職場を辞める」という人が現れ、またそれが連鎖し、実際に辞めてしまった人もいたそうです。

ところが、やがて不思議な現象が発生します。
「A君は絶対に仕事を休まない」
「いつも決まったように、30分前には出勤して身支度を整えるという安定感がもたらす、この安心感はなんなんだろう」
A君の評価は次第に変わっていき、そして彼のあり方も変わっていきます。やがて、彼は店舗のムードメーカーになり、お客様にも好かれ始めます。

普通のアルバイトが、平均5ヶ月で辞めていく中、彼は3年働いたそうです。
彼が辞めてしばらく経った頃、あるお客様が社長に声をかけます。お客様は、A君が入所する障がい者施設の職員だったそうです。そう、社長はそれまでA君が障がい者であることを知らなかったのです。

社長は、とても困惑したそうです。今まで障がい者と接したこともなく、また社長の認識では、障がい者とは一緒に働くことができないと思っていたからです。
そこで、社長は気が付きます。
自分の中での偏見は、障がい者に対してだけのものではなかったと。
従業員とはこうあるべき、管理者とはこうするべき、経営者とは…、と自分の中で勝手に仕事のやり方を価値づけしている自分がいた。つまり、社風をダメにしていたのは経営者である社長自身の偏見であったと。

「キングコング」を経営する株式会社NSPは、現在では障害者総合支援法に基づく福祉事業所の登録を行い、障がい者雇用を行っているそうです。
 
 
先日、弊社取締役本部長:鈴木と筆者は、中野にある株式会社アイエスエフネットハーモニー(http://www.isfnet-harmony.co.jp/)本社の見学会に参加しました。同社は、障がい者の雇用や派遣、そして障がい者雇用のサポートを行っています。毎月行われる見学会では、障がい者雇用の実際を観ることができます。

アイエスエフネットハーモニー社の事務所の様子。健常者と障がい者が一緒に働いています。

アイエスエフネットハーモニー社の事務所の様子。健常者と障がい者が一緒に働いています。

障がい者には、身体障害者、知的障がい者、精神障がい者に大別されます。
見学会では、特に知的障がい者、精神障がい者の方々が、健常者とともに仕事をし、また時に仕事をリードする様が印象的でした。

「障がい者雇用は、福祉の領域を超えた経済活動である」

厚生労働省の統計によれば、平成28年3月の生活保護受給者数は、約216万人/163万5千世帯。うち、世帯数の26.6%(約43万3千人)が、傷病者および障がい者世帯とされています。
障がい者に仕事に就く機会を与え、生活保護を受給する立場から税金を納める立場へと変換することができれば、国の財政は大きく好転します。
アイエスエフネットハーモニー社が、「障がい者雇用は、福祉の領域を超えた経済活動である」と言い切るのは、このような背景と信念に基づいてのことです。だからでしょうか、同社の活動は地に足が着いた、とても説得力に満ちたものです。

梱包作業やピッキング、入力作業などの単純作業においては、健常者よりもむしろ一部の知的障害者のほうが優秀で正確な仕事を行うとの事例紹介も受けました。見学会の内容をつぶさに紹介することは避けますが(ぜひ、実際にご覧になってください)、弊社:鈴木の心のなかで、冒頭の「障がい者雇用に関しては、どのように進めればよいのか皆目見当がつかない」という状態から、「うちでも障がい者雇用は進められるんじゃないか!?」という感触をつかむことはできたようです。

障がい者雇用に関しては….、(もっと言えば)障がい者と一緒に働くということに関しては、「実際」を見ることなく不安視する方(企業)が多いのではないでしょうか。弊社においても、障がい者雇用を始めるまでには、まだまだ多くのハードルがあります。しかし、「実際」を見たことで、障がい者雇用を実際に行う感触をつかむことができました。

興味のある企業様は、ぜひ一度アイエスエフネットハーモニー社の見学会など、障がい者雇用の「実際」を見ることをお勧めします。

 

フォトギャラリー


どちらが健常者で、どちらが障がい者か、分かりますか?
紙を手に、指示を仰いでいるのが健常者、チェックをしているのが障がい者です。


左側の男性が障がい者。右側の男性が健常者です。
同社では、障がい者は赤色のネックストラップを、健常者は緑色のネックストラップをしています。


一日の作業内容は、ホワイトボードで管理され、誰もがひと目で分かるように共有されています。
また、左側には各自の目標が記載されています。


作業手順書のようなもの。
事務所内には、このようなドキュメントや注意書きをあちこちに見ることができます。

同社の見学会は毎月行われています。

障がい者雇用に取り組むことを考えている企業は、ぜひ見学されてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

資料および統計データ等 出典:
平成27年障害者雇用状況の集計結果 (厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000105446.html

臨床作業療法 青海社
Vol.13 No.2 2016年5月6日号


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