秋元通信

ブラック企業が人を集められる理由

  • 2017.6.22

「あんな社長の元じゃ、働く人もいなくなっちゃうわな…」

例えば人使いが荒かったり、人を人とも思わぬような暴言を社員に対し連発する社長に対し、このような言い方をすることがあります。
いわゆる、ブラック企業ですね。
 
最近では、新入女性社員を自殺させた大手広告代理店、店を一人ぼっちで運営させる「ワンオペレーション」で問題となった牛丼チェーン店など、ブラック企業の話題には事欠きません。
 
ところが…
「あんな社長の元じゃ、働く人もいなくなっちゃうわな…」とは言うものの、本当に従業員がいなくなってしまった会社ってご存知ですか?
中小零細企業では、私もそんな会社を知っています。しかし、大企業では聞いたことがありません。実際、冒頭に上げた二社は、今年も採用活動を行っています。
 
筋金入りのブラック企業に勤めていた筆者自身の経験も踏まえ、ブラック企業が人を集めることができる理由を、採用という観点から考えてみましょう。
 
 
理由は、4つあります。

  1. 会社の目指すビジョンやコンセプトが明確であるから。
  2. 採用担当者が、ホンモノの熱意を持って採用活動を行うから。
  3. 社員に対する二者択一の口説き文句があるから。
  4. 育成プロセスが優秀であり、採用基準ハードルを低く設定できるから。

解説しましょう。
 

1.会社の目指すビジョンやコンセプトが明確であるから。

 
「時価総額世界一を目指す!」
これが、私が在籍していたブラック企業(分かっちゃいますかね 笑)が、社内外を問わず掲げたビジョンでした。妥当性はともかく、内容としては実にシンプルで明解です。
 
ビジョンやコンセプトが明確であれば、人はチカラを発揮し、長い労働時間や厳しいノルマなどにも(ある程度)耐えることができます。
部下や同僚、もしくは自分自身を納得(もしくは説得)し、ともすれば落ちそうなモチベーションを鼓舞することができるからですね。
 
 

2.採用担当者が、ホンモノの熱意を持って採用活動を行うから。

 
学生の立場で考えてみましょう。
企業説明会の場というのは、会社が求職者を選ぶ場であると同時に、学生が会社を選ぶ場でもあります。
 
採用担当者の熱意って、必ず伝わるんですよ。
まして学生は、複数の会社説明会、もっと言えば採用担当者を診るわけです。必ず横並びで比較されます。
 
採用担当者は、会社のビジョンを理解し、それを伝える能力が高い人材がアサインされます。ましてブラック企業の場合、採用担当者は自分の会社がブラック企業と世間から言われていることを知っています。その逆風を跳ね返して、学生を口説こうという意欲を持った担当者ですから、相当の熱量を持った人物でないとできないわけです。
 
そもそも、ブラック企業の社員って、ブラック企業である自分の会社が好きです。
なんだかんだ言って、好きじゃないととっくに辞めてますから。その中でも、筋金入りの会社大好き人間が採用担当者になるのですから、これは強敵です。
 
 

3.社員に対する二者択一の口説き文句があるから。

 

「頑張れば、子会社の社長なれるぞ!」
「頑張れば、店長を任せてもらえるぞ!」
「頑張れば、年収1000万円だって夢じゃない!」

例えば、「頑張れば、子会社の社長なれるぞ!」という言葉は、裏を返すと「子会社の社長になるために、君は頑張れるか?」という、Yes/No、二者択一の質問をしていることになります。選択肢をシンプルにすることは、相手に決断を迫るときの常套手段です。
 
俯瞰的に診れば、ブラック企業は「やばい」点がたくさんです。
ところが、近づいてじっくりと診ると、会社のビジョンは明確、採用担当者の言葉は熱く、そして(例えば)「君は年収1000万円、目指したくないかい!?」と迫られるわけです。
 
ちなみに、こういったプロセスを称して、「騙される」と表現する人がいますが、私は違うと思います。心にもない嘘を並べたら騙しですが、夢を語る、しかも社員の大半が共有する夢を語るのは、騙しではないです。
 
「会社が時価総額世界一を達成すれば、年収1000万円なんて、夢じゃない。君だって、そう思うだろ!?」
 
こうして、会社のビジョンを個人の夢にまでブレイクダウンした人生設計図(…?)を熱くプレゼンテーションされた学生の中には、「なるほど!!」と思う人が出てくるわけですね。
 
 

4.育成プロセスが優秀であり、採用基準ハードルを低く設定できるから。

 
仮にですが、人の能力がAからZまでの26タイプに分類されるとしましょう。
ホワイト企業のA社では、タイプAからタイプEまでの5つのタイプを採用するとします。つまり、採用できる母集団は、5/26になります。
一方、ホワイト企業B社では、タイプRだけ、ひとつのタイプしか採用できないとします。採用できる母集団は、1/26となります。
当然、B社はA社に比べて、採用活動は困難になります。
 
対して、ブラック企業であるC社は、タイプA〜タイプTまで、20のタイプを採用します。採用可能な母集団は、20/26となりますから、A社、B社に比べ、圧倒的に採用活動は楽です。
 
なぜ、ブラック企業がこのように採用基準のハードルを下げることができるのか?
理由は、社員を独り立ちさせるまでの育成プロセスが極めて優秀だからです。ここで言う、育成プロセスとは、教育でもあり、営業プロセスでもあり、製品やサービス内容をも含むものだと考えてください。
何百行程にも複雑に構成された業務であれば、教育や育成カリキュラムも複雑になります。人材の適性も必要になりますので、誰でもできるという仕事ではないでしょう。
しかし、みっつしか行程がない業務であれば、どうでしょうか?
教育も簡単、比較的誰でもできる仕事ということになります。
 

4.育成プロセスが優秀であり、採用基準ハードルを低く設定できるから。

4.育成プロセスが優秀であり、採用基準ハードルを低く設定できるから。

 
私はブラック企業にいた時、事業開拓も担当していました。
新たなビジネスモデルを考える上で大切なことは、会社のビジョンに合うかどうか、そして営業社員たちが備えた営業マインドやスキルに合致する営業トークを作り上げ、現場へのスピーディーな展開が可能かどうかを常に考えていました。
新人教育においては、モチベーションアップと会社のビジョンの刷り込みを行う。一方で、技術や知識的な要素は、予めビジネスモデルに組み込むことで、「身につける」というハードルを極力下げていたと言えますね。
 
 
逆説的に言えば、ここに挙げたようなことができない企業は、「筋金入りのブラック企業」になることもなく、消滅してしまうのでしょう。
 
ブラック企業というのは、どう考えても社会悪のひとつと言わざるを得ません。特に現代社会においては、なおのことです。
しかし、ブラック企業がブラック企業として活動できる背景を考えると、いろいろと勉強になることも多いのではないでしょうか。
 
とは言え、あくまで良いところだけ、参考にしてくださいね!


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