秋元通信

【共配の現場】横浜元町ストリート ~歴史を守る共配

  • 2017.7.18
元町は、クルマとともにある商店街でもある。逆説的に思えるかもしれないが、だからこそ共同配送のニーズが存在したと言える。

元町は、クルマとともにある商店街でもある。逆説的に思えるかもしれないが、だからこそ共同配送のニーズが存在したと言える。

 
横浜元町ショッピングストリート。
 
横浜を代表する商店街のひとつであり、年間の訪問者数は5百数十万人という、日本屈指の商店街のひとつでもあります。
ここ元町は、単なる商店街に留まらず、「ハマトラ」(※ヨコハマ・トラディショナルの略)など、数々の文化を発信し続けた街でもあります。そして、実は日本国内で初めて共同配送を実現させた街でもあるのです。
 
今回は、横浜元町ショッピングストリートにおける、共同配送の取り組みをご紹介します。
 
※記事中の画像はすべてクリックで拡大します。
 
 

本編に入る前に、元町の歴史について確認しましょう。
幕末、ペリー率いる黒船が来航するまで、横浜は静かな漁村でした。現代のみなとみらい地区はもちろん、横浜駅も、当時は陸地ではなく海でした。黒船来航、そしてその後締結された日米修好通商条約において、横浜は太平洋航路の拠点として開港、現代に続く都市開発が始まりました。
 
1859年、横浜村に外国人居留地区を設けることになり、翌年(1860年)横浜村の住民90戸が現代の元町地区に強制移住させられました。「元々横浜だった」という意味を込め、「横浜元町」と移転先を地名変更したことが、元町の始まりです。
外国人が多く住む山手や山下、対してビジネスや公務の場となった関内の間にあった元町は、明治に入り次第に外国人相手の商業地として発展し始めます。
こうして、日本国内にはかって存在しなかった、和洋の文化が集うハイカラな街が形成されていったのです。
 
 

元町は、例えば惣菜の匂いが漂うような下町の商店街とは異なります。
整備された歩道、敷き詰められた石畳の街並みには、瀟洒なお店が並びます。デザインされた案内標識や街のあちこちに設置されたベンチ、元町では郵便ポストすらも見慣れた朱色ではなく、元町の街に溶け込むダークブラウンにデザインされています。元町のWebサイトに掲載されたショップリストによれば、掲載356店舗(※2017年6月28日現在)のうち、食料品カテゴリのお店は16、対してファッション、バッグ・シューズ、貴金属・時計・メガネのカテゴリは計174あり、約半分を服飾系店舗が占めていることになります。
 
元町ショッピングストリートは、日常から離れた、上質を演出する晴れの場なのです。


 
元町における共同配送の取り組みについて、具体的にご紹介しましょう。
お話を伺ったのは、協同組合元町SS会 事務局長の加藤祐一さんです。
 
なぜ、元町は共同配送に取り組んだのでしょうか?

「排気ガスの問題、安全性の問題も踏まえ、お客様に安心して買い物ができる空間を確保したいと考えました」
 

加藤事務局長は、共配へ取り組んだ理由をこのように説明します。
 
最初の取り組みは、平成11年に始まりました。
 
平成11年から12年にかけて、横浜市とともに社会実験プロジェクトとして共同配送が行われました。官民双方の取り組みにより、プロジェクトは一定の成果を得るものの、終了とともに共同配送への取り組みも一旦ストップします。
準備期間を経て、現在につながる本格的な共同配送が開始されたのは、平成16年6月のことでした。実施までに3年かかったのは、神奈川県警、道路局、横浜市、そして運送会社(※神奈川県トラック協会)はもちろん、商店街や地元住民との調整が必要だったからです。
  

「商店街が一丸となり、『共同配送を実現しよう!』と地域住民、行政、運送会社の合意を形成すること、これに苦労したそうです」
(加藤事務局長)

 
共同配送を実現すれば、その代価として個々の運送会社が提供するきめ細やかなサービスは、犠牲にせざるを得ません。それでも共配を実現しようとした奮闘された元町の皆さんの熱意には、頭が下がります。
 

横浜元町ショッピングストリートにおける共配の仕組み。

横浜元町ショッピングストリートにおける共配の仕組み。

 
元町に配送される荷物は、一旦近隣にある共同配送センターに集められます。
共同配送に供されるトラックは3台。横浜元町ショッピングストリートの看板を背負ったトラックです。東西約600mにのびる横浜元町ショッピングストリートには、三ヶ所の専用の駐車スペースが用意されています。駐車スペースから配達先までは、カゴ台車によって横持ちされます。
 
共同配送を始めた当初は、様々なクレームが入ったそうですが、今はすっかりおさまったそうです。


 
共同配送は、横浜市内のある運送会社が請け負っています。
路線業者を始めとする各トラック事業者と、同運送会社がラストワンマイルの配送を担う契約を結ぶことで、元町の共同配送は成立しました。興味深いのは、加藤事務局長のいる協同組合元町SS会が、契約に加わっていないことです。住民や商店からの受け皿は元町SS会が行っているにも関わらず、共配に関して元町SS会は一切の収入を得ていないことになります。
  

「共配の見学にいらっしゃる方々も、この点は驚かれますね。元町のブランドを高めるための取り組みですから…。私どもは主体的に設立にかかわったものの、SS会として収入を得ているわけではありません」(加藤事務局長)

 加藤事務局長に、共同配送のメリットについてお聞きしたところ、苦笑されながらこのようにお答えいただきました。
  

「新しく来られた方にはメリットが、分かりにくいんじゃないかと思っているんですよ。
例えば、元町にトラックが並んでいない景観が保たれている、そしてその価値というのは、共配を止めて、再びトラックがメインストリートに並ぶような状態が再現されて、初めて実感されるのかなと思います」

取材中にも一般トラックが駐車しているさまを目にした。見かけると共配への協力を呼びかけるとのことだが...

取材中にも一般トラックが駐車しているさまを目にした。見かけると共配への協力を呼びかけるとのことだが…

 
順調に見える元町の共同配送にも問題がないわけではありません。
 
例えば、たまに入り込んでくるトラックの存在。見かけると共同配送に参加するように声をかけるとのことですが、反応は芳しくないそうです。
 
取材中、大手宅配事業者が台車を押していく姿も見かけました。調べてみると、元町商店街から少し離れた場所に、ひっそりと配送拠点を構えています。午前便だけは共配に載せるものの、午後以降は独自で集荷配達を行っているそうです。
 

共配に関し、苦情はほとんどないものの、最近建ったマンション等の住民からは、たまに不満の声が聞こえてくることもあるそうです。理由は、例えば時間指定など、各運送会社が提供する細かな運送サービスとの差異。対応するようにしているものの、どうしても宅配事業者直接の運送サービスに比べると脇の甘さが出てしまうのは致し方がないところです。
さらに言えば、プライムナウ(Amazon)等のスピード配達サービスが普及した時にどうするのか、といった課題もあります。
 
 

以下、私見です。
 
運送事業者側から診た共配のメリットは、例えばドライバーの頭数等、人的/物的な運送資源の効率化が挙げられます。
アジア某国から来た視察団は、渋滞の緩和をメリットとして挙げられたそうです。これは行政側のメリットでしょう。
 
第二次世界大戦で街は焼けました。復興の際、元町は未来を見越して旧来より1.8mセットバックして店を再建するよう、協力を呼びかけたそうです。結果、現代に至る元町商店街の景観が創り上げられました。
元町は、この規模の商店街には珍しく、路面パーキングが多数整備されています。
そのため、クルマを店舗前に停めて、さっと買い物をして帰る、という粋な姿が維持されています。むしろ、メインストリートに停められた高級車は、街のブランディングの演出要素にもなっています。
はっきりと言ってしまえば、メインストリートにトラックが並んでいたら、元町の雰囲気は台無しになってしまいます。
 
元町という、国内有数のハイクラスな商店街のブランディングに、共配というシステムがマッチした類まれなる事例が、ここにあります。
 
私ども物流サイドの人たちは、どうしても私どもの都合で共配を考えてしまいます。
元町は、商店街、行政、そして物流事業者がそれぞれメリットを享受できる接点を見つけ、実現したからこそ、共同配送が実現しているのでしょう。
 
これは鳥肌が立つほど、迫力があることではないでしょうか。
また、この接点を見つけるチカラこそが、私どもに欠けているチカラであるような気がしてならないのです。
 
 

共同配送に関しては、今後も取り上げていきたいと考えております。
今回取材にご協力いただいた、協同組合元町SS会 事務局長:加藤様、ありがとうございました。

 
 
 

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※記事中の画像は、一部加工しています。
 


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