秋元通信

値下げする運送会社 ← 理解できない偉い人【運送ビジネスはいつ破綻するのか!?】

  • 2017.7.31

現在、国土交通省では、「トラック運送業の適正運賃・料金検討会」というワーキンググループ(以下、WG)が活動しています。

昨年7月より現在4回に渡り開催されてきた同WGは、「『トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会』における取引環境改善に向けた議論に資するものとして、適正運賃・料金収受に向けた方策等を検討し、協議会に対し助言等を行うことを目的とする』としています。
有名無実化している標準運賃表を復活させるかどうか、検討しているWG、と言ったほうが端的で分かりやすいかもしれません。

本記事では、このWGの議事録に書かれている、「ある発言」を取り上げて、今の運送業界の根源的な課題のひとつを考えてみます。

問題の発言は、今年2月に行われたWGに登場します。

(運送会社へのアンケートの結果、十分な運賃・料金の収受のために効果がある方法として、もっとも高い支持を受けた)「過剰に安く請け負う業者がいなくなる(こと)」とあるが、トラックが不足している今日において、過剰に安い運賃で仕事を請け負う理由はないのではないか。

「トラックが不足しているんだったら、運賃は上がるはずじゃないの?」

このWG委員は、このように言っているわけです。理解できないのでしょう、この悲しい(情けない、と言うべきでしょうか)現実が…

ひとつ、具体的な例を挙げましょう。
 

WebKITにおける、運賃指数と成約率の関係

WebKITにおける、運賃指数と成約率の関係 ※クリックで拡大します。

 
WebKITにおける、2013年12月から2017年6月までの成約率と運賃指数の関係を、散布図にプロットしてみたところ、興味深い傾向が診えてきました。

  • 運賃指数は、年々下降傾向にあること。
    • 2014年平均:116.75 → 2015年平均:116.5 → 2016年平均:114.9 → 2017年平均:114.7
  • 成約率が上がっても下がっても、運賃があまり変動しなくなっていること。

そもそも、これだけドライバー不足が叫ばれ、運送業界の苦境が報道されているにも関わらず、WebKITにおける運賃指数が下がっているわけです。もちろん、WebKIT運賃指数が、イコール運送業界全体の運賃傾向を表すわけではありません。

しかし、例えば秋元通信読者の皆さまにおかれても、「トラックが不足しているって言っているんだから、運賃はどんどん上がるんじゃないの?」という至極まっとうとも言える問いに対し、「そう単純なものでもないんだよなぁ…」と言うのが、運送に係る、多くの人が感じる肌感覚ではないでしょうか。

「瞬間的には競争会社を追い出すためにそういった(著しく安いダンピングのような)価格設定をすることはあるが、ずっと原価割れするようなダンピングが続くというのは一般的には考えられない」

これは、第二回WGに記録されている議事です。
この発言の背後には、このような思考が背景にあります。

『価格というのは、原価計算を行った上ではじき出されるものである』

そして、この発言をする人の頭のなかには、原価計算も行わず、フィーリングだけで価格設定をするような運送会社が存在するという悲しくも情けない現実は、想像もできないのでしょう。

筆者も、まったくの場違いながらも、「業界の重鎮」たちが未来を考えるワーキンググループに参加した経験があります。物流業界ではない他業界のことではありましたが、その時に痛切に感じたことは、絶望的とも言える認知限界の壁が存在することでした。

ある種の人たちは、一ヶ月一万円のお小遣いで四苦八苦するお父さんがいるということを理解できないんです。
ある種の人たちは、PLもBSもまともに読めない人が役員としてお給料をもらっている会社が存在することを理解できないんです。

そしてその人たちは、自分たちが身につけた経済合理性やら、マーケティングという判断基準の枠外において、経営を行う会社の存在を認めることができないんですね。

 

運送業界は、運送事業者62,637社の99.9%が中小零細企業という、特殊な業界です。
はっきりと言ってしまえば、偉い人たちが在籍しているような大企業、大組織とは、まるで異なる世界が、ここ運送業界には存在しています。
「そんなわけがないだろう!」と思うかもしれません。でも、その「信じられない」という心持ちこそが、まさしく認知限界の表れなのです。この現状を知らずして、いくら議論を進めても、運送業界にとって本当に有用な施策が生まれるとは思えません。

そしてもうひとつ。
一方で、運送事業者側も、変わらなければいけないことを、しっかりと認識するべきです。
「うちの業界はさぁ、外の人には分からないんだよな!」という言葉は、外部からの理解を拒むポーズともとられかねません。

業界外の人にも、分かりやすく理解される門戸を開かなければ、現状を打破することは望みにくいのではないでしょうか? だって、もう自浄作用ではどうにもならないところまで追い込まれているわけですから。

理解されることの大切さを、今だからこそ物流業界にいる多くの方々に再認識して欲しいと、切に願います。

 

 
 

【参考】認知限界とは

 
認知限界とは、人間の認知能力や情報処理能力の限界のことをいう。
もともとは組織論において、「一人の人間が安定した関係を維持できる人数には限界がある」という文脈でハーバード・アレクサンダー・サイモン(経営学者、認知科学者・アメリカ)が用いた。人には誰でも認知限界があるので、複雑な情報処理をする際には組織が力を発揮する。処理対象となる情報を細かく分け、組織として対応することで、一人の人間では実現できない高度な情報処理を実現することができる。
https://www.idia.jp/report/cognitive-limitation/
 
 

【運送ビジネスはいつ破綻するのか!?】

 
赤字だらけの運送業界?【運送ビジネスはいつ破綻するのか!?】
https://amlogs.co.jp/?p=2884
 
 


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