筆者は、とても怒りっぽい上司のもとで働いていたことがあります。
それは、社運をかけた展示会の10日ほど前に発生しました。
筆者は展示会の準備全般を統括しておりました。概ね順調でしたが、展示会用の製品カタログだけが完成していません。直属の上司が多忙を理由に、カタログの最終レビューをしてくれないことが原因でした。入稿期限はとうに過ぎ、印刷屋からは急かされ、ついに「今日入稿しなければ展示会までに印刷することができない」と言われました。
問題の上司にレビューを催促する私ですが、上司は相手にしてくれません。それでも詰め寄る私に、上司が激怒したのです。
「うるさいな!! お前の100倍、俺は忙しいんだ!」
さすがに私も頭にきました。とは言え相手は上長です。言葉を探す私に、問題の上司は、このようにかぶせてきました。
「俺の仕事を邪魔するような展示会なんだったら、出なくていい!!!」
さて、今回は怒りとうまく付き合う方法を考えてみましょう。
人気不定期連載「アメとムチはどちらが効果的?」の番外編としてお届けします。
アンガーマネジメントという言葉をご存知ですか?
アンガーマネジメントとは、1970年代にアメリカで始まったアンガー(「anger」[怒り]であり、イライラ、怒りの感情を指す)と上手に付き合うための方法論を指します。
本記事では、「『怒り』のマネジメント術/できる人ほどイライラしない」(安藤俊介/朝日新聞出版)の内容を軸に、アンガーマネジメントのさわりを紹介いたします。
ところで皆さん、刺し身は好きですか?
日本人が好む刺し身、特に活き造りは、外国人にとっては恐怖や嫌悪、怒りの対象となることがあります。
例えば…
外国人を日本に招き、日本文化を経験するさまを紹介するTV番組、よくありますよね。ある番組で、外国人一家を日本の漁師一家にホームステイさせたそうです。漁師一家が夕食に振る舞ったのは伊勢海老の活き造り。腹を割られても髭をグリグリと動かす様子を見た外国人一家の子供は泣き叫び、お父さんは怒りで家族を連れて出ていってしまったそうです。
そして、その様子を見た日本人漁師家族のお父さんは、「あいつらは失礼だ!!」と怒っていたそうです。
アメリカ西海岸では、活き造りを提供した寿司屋が、多くの非難を浴びたこともあります。動物愛護の観点から、活き造り=残酷だとして、怒りの抗議が殺到したばかりか、「活き造りの提供を止めなければ、お前の店を爆破してやる」なんていう脅迫文も届いたんだとか。
怒りとは、自分自身の中にあるものです。
怒りの対象に原因があるわけではありません。正確に申し上げれば、怒りとうまく付き合うためには、そのように考える必要があります。
例えば、活き造りに怒りの原因があるわけではありません。原因は、あなたの中にある、刺し身や活き造りに対する認識にあるのです。だから、日本人は活き造りに対して怒らなくとも、外国人(の一部)は活き造りに怒るわけです。
第一段階:できごととの遭遇
第二段階:できごとの意味付け
第三段階:「怒り」の感情の発生
怒りは、このような段階を経て発生します。
もうひとつ。
「私は正しい。相手は間違っている」
これも怒りの原因です。そして、あなたの中にあるものです。人は、「私が正しい」と思っているから怒ります。例えば部下に対し間違いを指摘する時、本来は怒る必要はないわけです。間違いを正せば良いだけなのに、怒ってしまうのはなぜか?
それは、「私は正しいのに、君(部下)はなぜ間違うのか!?」と思うから怒るわけです。
「私は正しい」をスキップして、「間違いがある」と事実認識だけを行えば、怒りという感情は伴いません。
とは言っても…
怒りは湧いてきますよね。筆者は人間ができていないので、例えば通勤電車において、どうでもいい怒り(隣の女性の香水がキツイとか、後ろのおじさんが押してくるとか…)がポコポコと発生してしまいます。
「怒りはアレルギーに似ている」、これは冒頭紹介した本に登場する言葉です。花粉症には、対処療法や体質改善で対策します。目のかゆみや鼻水発生を抑える目薬や飲み薬が対処療法、そして漢方などで花粉に強い体質をつくる、もしくは外科的な処置で鼻粘膜を焼くなどが体質改善にあたります。
アンガーマネジメントでは、対処療法と体質改善に分けて、怒りに対する対応を説明しています。
本記事では、対処療法のさわりだけをご紹介しましょう。
怒りが発生したら、その怒りを10段階評価で数値化します。
「怒りを数値化する」という行為そのものが、怒りを沈静化する効果がある上、さらに「あれ?、たいして怒っていないよね、私…」と気づきを得ることもできます。
自分の心を落ち着かせるための言葉を用意しておく方法です。
「まあ、明日には忘れているから」
「たいしたことない」
「いまは止めておこう」
立場のある方であれば、「(例えば)『社長』の自分が相手にすることじゃない」。
某アニメのファンの方であれば、「ザクが…」(※量産型、つまり雑魚の意味)もいいかもいしれません(分からない…ですよね 笑)。
前述のとおり、怒りは自分自身の中にあります。だから、怒りに思考が囚われてしまうと、怒りがヒートアップしてしまいます。それを防ぐために、思考を一旦停止させるわけです。
具体的には以下のような方法が考えられます。
- 一枚のまっしろな紙を強くイメージする。
- 数字を英語で数える。100から3づつ引き算をして数を数えても良い。
- 携帯電話の傷を数える。
「思考を一旦停止させる」と言ったって、仙人じゃありませんから。一瞬で、しかも怒りを感じている時に頭をまっしろにすることなどできないです。だから、他のことで気を紛らわせるわけです。
『走る車をおさえるようにむらむらと起こる怒りをおさえる人。かれをわれは<御者>とよぶ。他の人(衆生)はただ手綱を手にしているだけである。<御者>と呼ぶにはふさわしくない』
これは、ブッダの残した言葉です。ここでは<御者>と訳しましたが、現代風に言えば「運転手」のことであり、リーダー、勝利者、英雄という意味も含むそうです。
冒頭の筆者の体験に話を戻します。
「俺の仕事を邪魔するような展示会なんだったら、出なくていい!!!」
このように言われた私がとっさに感じたのは、件の上司に対する哀れみでした。
この人は、できもしないことを言ってしまった。
社運をかけた展示会に出ないなんて、あなたが言って良いことではない。
怒りというのは、時として重大な誤りを生んでしまいます。
上司は、やってはいけない誤りに足を踏み込んでしまったのです。
日常生活を送る中で、怒りをまったく感じてない、というのはとても困難なことです。それはそうなのですが…
怒りを爆発させた結果、大事なものを失う失態は避けたいものですね。
「怒り」のマネジメント術 できる人ほどイライラしない
著:安藤俊介 朝日新聞出版
怒らないこと 役立つ初期仏教法話1
著:アルボムッレ・スマナサーラ(スリランカ初期仏教長老) サンガ新書
本記事は上記2著作を参考に、筆者の見解も含めて作成したものであり、アンガーマネジメントを学びたい方は、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会など、しかるべき教育を受けることをおすすめします。
「怒りと付き合う方法論」については、他にもさまざまな方法があります。関連本も多く出版されているのでご参考にしてください。
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