「『名刺をたくさん集める』という営業スタイルは、今も有効なのかね?」
これは、筆者が営業会社にいた時に、当時の副社長から言われた言葉です。
私が当時在籍していた会社は、数字を上げられない奴は生きている資格がない、とみなされるゴリゴリの営業会社でした。対して、件の副社長は当時既に60歳を超えており、かつては三菱商事に在籍していたエリートです。基本的に営業畑を歩み続けてきた大ベテランとは言え、これまでとは異質の企業文化に少し不安を感じたのかもしれません。
さて、昨今ではネット、とりわけSNSの普及により、営業の方法論も変わってきたように感じます。今回の秋元通信では、今も昔も変わらない営業スタイルがあるのかどうかを考えてみましょう。
話が変わりますが、先日、物流ウィークリー紙において、営業に関する特集記事が組まれました。「営業職『置く』『置かない』それぞれに理由が」と題し、営業職社員が存在する会社、存在しない会社それぞれから行ったインタビューをまとめた、考えさせられる記事でした。
弊社も、大滝、西田、小畑の三名が、「営業職は必要である」という立場からインタビューに答えています。その記事の内容はこちらをご覧ください。
物流ウィークリー紙の今回特集を読むと、営業職を置いていると答えた企業の多くが、ネットやSNSを活用した営業を取り入れていると答えています。御存知のとおり、弊社も企業ホームページだけでなく、Facebook、Twitterなどを用いていますし、そこで発信した情報は、子会社のアルケミートレードやイーカーゴのSNSも含め、横断的にリンクさせることで相乗効果を図っています。
特にSNSの存在は、企業(商品やサービスを含む)のファンをつくるうえで、とても強力な武器になっています。日清食品「カップヌードル」が今秋に仕掛けた「謎肉祭りW」は、TV、ラジオといった旧来のメディアを用いず、SNSを中心に強烈な宣伝効果を生み出した好例でしょう(詳細はここには書きませんので、興味のある方はネット検索してみてください)。
もうひとつ、営業の方法論を変えたツールとして、CRM(Customer Relationship Management)やSFA(Sales Force Automation)の存在を忘れてはいけません。セールスフォース・ドットコムなどが代表的なベンダーです。
SFAとは、(誤解を恐れずにざっくりと説明すると)「営業がやるべきことを手取り足取り指示し、考えてくれるシステム」のこと。いつ、どのタイミングで、どんな風にお客様(候補)に対しアプローチするべきなのかを監督してくれるツールです。
中小企業ではまだまだ導入半ばのSFAですが、ある統計によれば従業員1000名以上の企業の約半数、101名以上1000名以下の企業の2割強が既に導入しているんだそうです。
ところで、営業、もしくは営業マンという職種には、足で稼ぐというイメージがありませんか? とにかくたくさんの人と会い、話し、情報を仕入れてくるというイメージです。
一方、SNSやSFAなどのツールを活用する現代的な営業職は、PCの前に構え、Webで情報を発信、メールやチャットでコミュニケーションを行うという、カウンターセールス的な「構えて待つ」パッシブなイメージがあります。
足で稼ぐ、つまり「攻めて獲得する」アクティブな営業を心がけてきた人には、今の若い人の営業スタイルは物足りなく感じることもあることでしょう。
言い訳ではありませんが。
昔の営業は足を運び、人と会うしか情報を入手する方法がありませんでした。
ところが、Webがこれだけ進化・普及した時代では、人と会うための移動時間を浪費することなく、PCを、もしくはネットを介して、より多くの情報を取得することが可能ですし、そのほうが効率的ともいえます。営業としての活動方法に対する選択肢が増えているわけです。
「『名刺をたくさん集める』という営業スタイルは、今も有効なのかね?」
かつての三菱商事では、年間に万単位の名刺を集めるような強烈な営業マンがいたそうです。しかし現代では、例えばTwitterで万単位の相手に情報を発信することは、簡単とは言わないまでもPCの前で頑張れば実現可能です。
セブンイレブンは、約280万。ローソンは240万。任天堂は90万。セコムは75万。
これは、有名企業のTwitterフォロワー数です。Twitterを営業に結びつけるのは、実はそう単純なことではありませんが、SNSの爆発力を知るための目安にはなるでしょう。
PCやネットなどのツールの発展と普及により、いわゆる昔ながらの「足で稼ぐ」営業スタイルよりも、情報収集力、情報発信力のいずれも、はるかに効率良くこなすことができるようになった現代の営業スタイル。
では、「足で稼ぐ」営業スタイルは、もはや時代遅れなのでしょうか??
私は、Noだと考えます。
実は私は2013年ごろ(前職)の約1年半、ほぼ毎日飛び込み営業をしていました。運送会社や倉庫会社、荷主企業など、その数は約4300社におよびます。
- 本当に大事な情報は、ネット(SNSを含む)には上げない。
- 当人(会社)が、「大した情報じゃないし」という情報でも、こちらからすると価値のある情報はたくさん存在する。
- そうやって集めた情報は、次の情報を集める時に必ず役に立つ。情報は、情報を持つ者のところに集まる性質を持つ。
4300社を飛び込みして、私が得た気づきです。当たり前といえば当たり前のことばかりです。
ところが、ネットやPCの前で営業をすることに慣れてしまうと、見えなくなってくるんですよね、この「アタリマエ」のことが…
そして、大事なのは3番目です。
「情報を情報で贖う(あがなう)」
これ、冒頭の副社長が言った言葉です。解説すれば、こんな感じでしょうか。
- 大事で有益な情報とは、情報同士の物々交換で獲得していくものである。
- 「『名刺をたくさん集める』という営業スタイル」とは、単に名刺を集めれば良いというものではなく、情報を集めるという営業活動を、端的に表現したものである。
「名刺交換だけして帰ってきたって?バカじゃないのか、お前は!? 名刺交換だけして、お行儀よく『はいサヨナラ』って、子供のお使い以下だろうが!!」
言葉は汚いですが、件の副社長が言っていた言葉を思い出します。
情報があふれかえる今だからこそ、本当に価値のある情報を入手するのは難しくなっています。あふれる情報に、溺れてしまう人もいます。たくさんの情報から、価値ある情報を見つけるのは大変なことです。
時代の流れとともに、さまざまな営業ツールが開発され、営業手法も進化しました。筆者が若い頃よりも、ある意味では現代のほうが、スーパー営業マンになるのは困難になってきたように思います。
何故って?
私の頃は、ガムシャラにやっていればある程度は結果がついてきましたが、今は営業の仕組みが整っているだけに、差をつけにくくなってきているからです。
「『名刺をたくさん集める』という営業スタイル」というのは、「情報を情報で贖う」営業の準備段階と言えます。もしくは、「情報を情報で贖う」営業になるために必要な筋トレのひとつと言っても良いでしょう。
営業という人種は、一朝一夕には育ちません。
だからこそ、現代のマーケットも理解した上で、大事に育てたいものです。