秋元通信

帰り荷が見つかりにくい都道府県はどこ?

  • 2017.11.30

東京都庁が、丸の内から新宿副都心へ引っ越したのは、1991年3月のことでした。仕事を請け負ったのは日通でしたが、都庁引越のせいで日通の引越部門はパンク。繁忙期と重なったこともあり、引越料金は高騰しました。
当時、筆者は引越屋に勤務していましたが、4t車の引越(※標準的な子持ち世帯の引越に相当)で40万円はくだらなかった記憶があります。長距離ではないですよ、市内の引越でも40万円です。

これは極端すぎる例にしても、(引越に限ったことではなく)運賃が20年~30年前よりも低水準に留まっている不満は、運送業界にいる多くの人が肌感覚として抱いていることでしょう。もちろん、運送各社はこの状況を打破するためにさまざまな努力と工夫を凝らしています。代表的な対策のひとつが、長距離便における帰り荷です。
ところが、帰り荷って見つからない時は、とことん見つからないですよね…

今回は、今年5年ぶりに行われた「全国貨物純流動調査」を元に、帰り荷が見つかりにくい都道府県の組み合わせをお知らせしましょう。

本題の前に、少し寄り道をします。
「運賃が20年~30年前よりも低水準に留まっている」と書きましたが、これを証明することは、実は難しいです。私もメルマガを書く必要性、もしくは情報交流会などでお話しする必要性から、10年前、20年前、30年前の運賃を記録した、統計データを探しているのですが、信頼のおけるデータは見つけられていません。なので、数字として「これだけ運賃が下がっているんだ!」と示すことができません。
苦肉の策なのですが、代わりに「トラック輸送の売上が下がっていること」を統計データから示すことで、運送会社の苦境を説明しています。

(1)輸送トンキロの低下
平成19年(2007年)のトラック輸送における輸送トンキロは、988.05。
対して、平成27年(2015年)の輸送トンキロは、594.80。
つまり、8年間で輸送トンキロは約60%まで低下したことになる。重量×距離の運賃を基本とし、かつ運賃が変わっていないとすれば、単純に2007年から2015年の8年間で、トラック一台あたりの売上は、6割まで低下していることになる。

(2)積載率の低下
平成16年(2004年)の積載率は、43.6%。
平成27年(2015年)の積載率は、36.3%。
(1)同様のロジックで比較すれば、トラック一台あたりの売上は、11年間で約8割まで低下していることになる。

11年間で8割か、それとも8年間で6割か?
ふたつのロジックについては差異がありますが、どちらも運送会社の実入りが減っていることを示している点では共通しています。
そして、実入りの減少に対する努力として、帰り荷の重要性は増しています。

さて、本題の「帰り荷が見つかりにくい都道府県はどこなのか?」に入る前に、分析の元とした「全国貨物純流動調査」について、補足をさせてください。
同調査は1970年(昭和45年)から5年おきに国土交通省が行っている、「荷主企業など出荷側から貨物の動きを調査するものとして、全国を対象に輸送手段を網羅的に把握する実態調査」(※国土交通省のガイダンスより転記)です。
今回取り上げるデータは、2015年に調査されたものです。また調査は1年をかけて行われた概要調査と、2015年10月20日(火)~22日(木)の3日間で行われた詳細流動実態調査のふたつに分かれています。今回お届けする分析は、後者の「3日間調査」を元にしたものです。
「全国貨物純流動調査」で得られたデータは総じてとても貴重なものなのですが、物流業界で働く者の肌感覚と照らし合わせると、「あれ…!?」と思うような結果が含まれています。「3日間調査」の方は調査抽出期間が短いこともあり、さらに微妙な結果も存在していることは事実です。
今回の「帰り荷が見つかりにくい都道府県はどこなのか?」については、「3日間調査」を元にしていますので、その点をあらかじめご容赦ください。

ではまず地域別の分析結果を披露しましょう。

(分析1)帰り荷が見つけにくい地域間はどこなのか?
  1. 北海道→中国
  2. 中国→北海道
  3. 甲信越→北海道
  4. 北海道→北陸
  5. 北海道→四国 および 関西→北海道 ※同率

※分析元データはこちらからご覧ください。

すべてに北海道が絡んでいますね。ちなみに、沖縄はデータが少なすぎるため除外しています。
この(分析1)は、地域間の貨物流動量が少ない地域をピックアップしています。貨物流動量が小さければ、荷物を探すのは難しくなるはず、というロジックでランキングしたものです。

別の見方をしましょう。
「届く」荷物と「出す」荷物の差が大きいと、帰り荷の争奪戦が発生するため、帰り荷を探すことが困難になると予測されます。この考え方を採用したのが、(分析2)です。以降分かりやすく説明するため、これを「都道府県間貿易格差」と呼びます。

(分析2)帰り荷が見つけにくい地域間はどこなのか?
  1. 関西→東海
  2. 関東→東海
  3. 甲信越→東海
  4. 関東→関西
  5. 関西→四国

※分析元データはこちらからご覧ください。

このランキングには、ちょっと注意が必要です。今回分析における地域別の「届く荷物と出す荷物の差」についても、東海地方は圧倒的な流入超過になっています。名古屋港が、貿易額で東京、横浜、神戸を上回る輸出をマークしていることから、当然のこととも言えます。

「流入超過になっているのであれば、つまりは東海行きの荷物が多いということなのだから、ホントは帰り荷が見つけやすいはずだよね?」

確かにそうなのですが、流入貨物と流出貨物の差分を取るこの分析ロジックだと、このような結果になることをお踏まえ置きください。

では、都道府県別に見ましょう!

(分析1)帰り荷が見つけにくい都道府県間はどこなのか?
    ※都道府県間の貨物流動量がゼロの組み合わせをピックアップ

以下都道府県から、北海道行きの組み合わせ

      新潟、富山、福井、長野、三重、滋賀、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、大分

北海道から以下都道府県行きへの組み合わせ

    鳥取、山口、徳島、高知、長崎、大分

    島根→青森
    大分→岩手
    秋田→和歌山
    島根→宮崎
    青森→高知

※分析元データはこちらからご覧ください。

やはり北海道はキツイですね。

(分析2)帰り荷が見つけにくい都道府県間はどこなのか?
    ※「届く荷物と出す荷物の差」が大きい組み合わせをピックアップ(都道府県間貿易格差)
  1. 東京→神奈川
  2. 東京→埼玉
  3. 奈良→愛知
  4. 広島→岡山
  5. 愛知→三重
  6. 長野→愛知
  7. 岐阜→愛知
  8. 埼玉→静岡
  9. 埼玉→千葉
  10. 山梨→埼玉

※分析元データはこちらからご覧ください。

関東域内、東海域内の都道府県間貿易格差が大きいことは興味深いです。

続けて、都道府県間貿易格差が「マイナスに大きい都道府県(=帰り荷が見つけにくい)」ランキングと、「プラスに大きい都道府県(=帰り荷が見つけやすい)」ランキングをお届けします。

帰り荷が見つけにくい都道府県(都道府県間貿易格差がマイナスに大きい)
  1. 東京
  2. 広島
  3. 奈良
  4. 埼玉
  5. 長野
帰り荷を見つけやすい都道府県(都道府県間貿易格差がプラスに大きい)
  1. 千葉
  2. 岡山
  3. 三重
  4. 愛知
  5. 兵庫

※分析元データはこちらからご覧ください。

帰り荷の相談は、物流に関わる方であれば身近な相談でしょう。親しい運送会社同士では、挨拶のように、「◯◯県からの帰り荷、無いかな?」なんて言葉も交わすこともあることでしょう。

現実問題にあえて目をつぶって申し上げれば…
帰り荷というのは、プラスアルファの利益を、いわばボーナスとして稼ぐための手段だったはずです。帰り荷がないと成り立たないような片道案件であれば、本来は手を出すべきではありません。
何週間も何週間も、ものすごくピンポイントな帰り荷を探している運送会社(配車マン)を時折見かけます。時間の無駄ですよ、はっきり言いますが。
本記事で挙げたように、帰り荷を探しにくい経路というのは存在するわけですから。だったら、多少クルマを走らせても帰り荷の取れそうな近隣地域に目を向けた方が時間を無駄にせずに済みます。

私見ではありますが。
冒頭に述べた運送会社の売上が低下してきた原因のひとつは、帰り荷というボーナスに期待しすぎた運送会社の責任もあると考えます。
ブログの方には、分析の元となった各表/データを掲載しておきます。帰り荷を期待できる運送案件なのかどうか、判断する材料として本表がわずかなりともお役に立てば幸いです。

 

出典および本記事の分析元データについて

本記事は、国土交通省が5年毎に行う実態調査「全国貨物純流動調査(物流センサス)」を元にしています。
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/butsuryu06100.html

同調査は日本国内の貨物の動きを知る上でとても貴重な調査であり資料ですが、その精度については疑問を呈する専門家がいることは付記しておきます。また同調査の結果については、他統計における同対象の結果と一致しないことがあります。

本記事では、同調査がもたらした大量のデータから、「都道府県間流動量(代表輸送機関別) -重量-」だけをピックアップして分析したものです。
筆者が行った分析結果については、以下リンク先よりGoogleスプレッドシートにまとめています。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/e/2PACX-1vSjpY9PWcCIXWdrrlKBA5MpX3-Mwc3wsYWj391EChJoEveTdAm82yCVQYhheqJLYGG5EC0kHADiOMjh/pubhtml

MicrosoftExcel形式でのダウンロードは、こちらから可能です。

※分析結果の例


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