秋元通信

テクノロジーの進化は、ひとの仕事を奪うのか?

  • 2018.7.19

筆者は当社に来る前、配車システムの営業でありコンサルティングをしていました。これは、その時のエピソードです。
 
あるファストフードチェーンからご相談を頂戴したときのことです。同社では毎月、配送コースを変更していました。ところが、その配送コースを考えること、つまり配車作業に毎回1週間以上かかっていると言います。配車担当者が抱える一ヶ月の仕事における、なんと四分の一が、配車業務に費やされていることになります。
 
配車システムの導入シミュレーションをしたところ、システムの効果は抜群でした。
各配送車両の走行距離および配送時間は、今までよりも平均20~25%減少すると試算されたのです。さらにシステムの効果が発揮されたのは配車作業にかかる工数削減です。それまで1週間以上を費やしてきた配車作業が、数時間で終了したのですから。
 
当然、私はシステムを採用してもらえるものと考えました。営業としては、当然期待しますよね。
ところが、1週間経過し、2週間が経過し、一ヶ月が過ぎても採用の返事が来ません。それどころか、私が連絡すると配車担当者は逃げ回り、居留守を使っている気配すらあります。二ヶ月を過ぎた頃、業を煮やした私は、配車担当者に少々キツめのメールを送りました。
すると、向こうから恐る恐る電話がかかってきたのですが。
システム不採用の理由を聞いて、私はこれまでの怒りを忘れ、呆れ果てました。
 

「私は、導入を主張したんですよ…、でも上司に言われたんです。『じゃあ、お前はシステム導入によって空いた月の四分の一をどうやって過ごすんだ? お前、居場所なくなるぞ!』って…」

 
 
このエピソードは極端にしても、似たような話はよく聞きます。
私自身、業務改善および効率化のために、(配車システムに限らず)システム導入を提案したところ、「仕事が減ってしまったら、従業員を解雇しなきゃならないじゃないか!? 俺は、そんなことしないぞ!!」と発言する社長に何度か出会っています。
 
先日、テレビを見ていた時も、同様のエピソードが出てきました。
海外で活躍する日本人を紹介する番組において、ある発展途上国で活躍する方が紹介されていました。安全で衛生的な水を作り続けるその方は、現地での雇用を生み出し、貧困からの脱却を支援するために、あえて機械化を進めず、手作業での生産を続けていると話していました。
 
雇用を守るために、システム導入や機械化を行わない。つまりあえて業務の効率化を目指さないという考え方。
これは美談なのでしょうか?
 
 
少し前、『雇用の未来-コンピューター化によって仕事は失われるのか』という論文が話題になりました。これは、2014年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授、カール・ベネディクト・フライ研究員によって発表されたものです。
同論文では、「あと10年で消える職業」、「10年後も消えない職業」が挙げられています。
 
 
◇あと10年で消える職業

  • 電話オペレーター
  • 証券会社の社員
  • レジ係データ入力作業員
  • オフィス事務員
  • ホテルの受付係
  • 農業労働者
  • スポーツの審判
  • 銀行の融資担当
  • 歯科検査技師

◇10年後も消えない職業

  • ソーシャルワーカー
  • 聴覚訓練士
  • 外科医
  • 内科医
  • 看護師
  • セールスエンジニア
  • 小学校教員
  • 心理学者
  • 聖職者
  • 経営者

 
 
私自身のビジネステリトリーで言えば、ここ10年で「Web制作者」という仕事が大きく変わってきたことを実感しています。
10年前は、ホームページビルダーなどの専用ソフトウェアを用いてホームページを編集するHTMLコーダーと呼ばれるプログラマーがたくさんいました。ところが、最近ではHTMLの知識を持たない(ないし最小限でOK)人でもWeb制作が行うことを可能とする環境が整ってきました。WordPressJimdoWIXといったCMSと呼ばれるツールが普及したことによって、プログラムに関する専門知識を持たない人でもWebサイトを制作することが可能になってきたのです。
 
私のかつての仲間だったHTMLコーダーも、すでに何人かがHTMLコーダーを辞めています。
一方で、今もWebサイト制作を生業としている仲間もいます。
 
この違いって、なんでしょう?
端的に言ってしまうと、「作業員であり続けた人」は仕事(HTMLコーダー)を続けられず、「作業員から脱却した人」は、今もWebサイト制作の仕事を続けています。
結局、Webサイト制作を続けられなかった人は、「コレコレこういう風にWebサイトを作ってね」といった指示をされないと仕事ができなかった人。
今もWebサイト制作を続けられている人は、「あなたの会社のWebサイトは、こうあるべきです」という提案ができる人です。
 
物流業界に目を向けましょう。
物流業界は、労働集約型産業の典型です。
Wikipediaによれば、「存在している産業の中でも人間による労働力による業務の割合が大きい産業のことを労働集約型産業と言う」とあります。先に挙げた「あと10年で消える職業」を診ると、そのほとんどが労働集約型の業務であると言えます。
 
トラックドライバーとか、倉庫作業員は、典型的な労働集約型と言えます。これらの業務は、無人運転技術の実現や、自動倉庫の普及によって、将来消えて消滅する可能性の高い仕事です。「あと10年で消える職業」に挙げられた「レジ係」、「データ入力作業員」、「オフィス事務員」、「農業労働者」も、技術の進化によってなくなる可能性が高いものと考えられます。
 
でも、配車マン、もしくは「あと10年で消える職業」に挙げられた「スポーツの審判」と、「銀行の融資担当」は、労働集約業務とは少し違います。これらの仕事には、判断が必要であり、例えば「サッカーの審判って、将来は消えてなくなる職業なんだよ!」って言われても、少し受け入れがたい気がしませんか。
 
実は今、テクノロジーの進化によって、「これは機械化(ないし自動化)するのは無理だよね!?」と考えらていた業務、仕事も、システムによって代替可能になりつつあります。
 
RPA(Robotic Process Automation)というシステムが、今とても高い注目を集め始めていることをご存知ですか? RPAとは、簡単に言うと社内の業務を自動化するシステムのことです。
倉庫作業員の仕事を自動化する仕組みが自動倉庫だとすれば、事務員や営業といったホワイトワーカーの仕事を自動化する仕組みがRPAと考えると分かりやすいかもしれません。
 
RPAの実例を挙げましょう。
例えば、ある会社では見積もり作成がRPAによって自動化されました。営業が、「○○株式会社宛に、商品□□10セット、見積もりランクはAレートの見積書を作成して!」と社内のロボット専用メールアドレスにメールすると、ほんの数秒で見積書が作成され、PDF化されて営業のメールボックスに届きます。
これはごく単純な例でしかありませんが、RPA、つまり自動化テクノロジーはどんどん進化しています。そして、安価になり、同時に使いやすくなっています。
数年前まで無理だと思われていた業務の自動化は、もはや夢ではなくなってきました。
そして業務の自動化は、作業の部分だけではなく、知的労働の範囲にまで拡大し始めているのです。
 
今ある仕事の多くは、いずれ機械化されて消滅するのかもしれません。
では、ひとはどうすればいいのでしょうか?
答えはかんたんです。
機械化できない業務をすればいいのです。言い方を変えれば、機械にはできない仕事を行うように、自らを成長させればよいのです。
 
発展途上国で安全な水を作る方の例は別です。
何故ならば、その国では仕事が足りないわけですから。日本は違います。足りないのは仕事ではなく、ひとなのですから。
 
冒頭に挙げたエピソード、ファストフードの配車マンについて考えましょう。
実は配車業務の大半は、(私が扱っていたシステムに限らず)いま市井にあるシステムで代替できるようになっています。積み合わせを考え、配送コースを考えて…、という点に関しては、もはや人間はコンピューターに勝てません。
では、配車マンにできて、配車システムにできないことは残っていないのでしょうか?
そんなことはありません。とても大切な仕事が残っています。
それは、トラックドライバーに対するメンタルケアであり、マネジメントです。もし件の配車マンが、配車システム導入によって空いた、月の四分の一におよぶ時間をドライバーの皆さんとのコミュニケーションや安全対策に充てることができれば、そのファストフードチェーンにおける物流業務は大きな改善を果たしたのではないでしょうか。
 
18世紀に起こった産業革命の歴史を紐解くまでもなく、テクノロジーの進化は社会全体を巻き込んでいきます。そこに「待った!」はありません。
 
「仕事が減ってしまったら、従業員を解雇しなきゃならないじゃないか!? 俺は、そんなことしないぞ!!」と発言する社長は、従業員を守る以前に、会社の競争力を失う危険性を考えるべきです。
 
テクノロジーの進化は、旧来の仕事を奪います。しかし、新たな仕事を生み出します。これは歴史が過去何度も繰り返してきたことです。
進化したテクノロジーを受け入れることを恐れ、新たな仕事へ踏み出すことを恐れる社員、そして会社がいるとしたら、それは自らの寿命を縮めることになるのかもしれません。
 
 


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