秋元通信

「楽しい仕事」はNGなのか? 【アメとムチはどちらが効果的なのか?】

  • 2018.10.11

20代後半のある一年間、私は新しく入社するアルバイトたちの導入研修を担当しておりました。
当時、私はブラック企業を絵に描いたような営業会社におり、アルバイトたちはアポインターとして、アウトバウンドのテレマーケティング営業部隊に配属されます。毎週火曜日と木曜日の午後、30人から多い時は100名近い学生やらフリーターを相手に、教育を担当していました。
 
ある時、私の導入研修をたまたま見に来た営業部マネージャーに、私は叱られました。
 

「お前さぁ、ヘラヘラした研修してんじゃねーよ!研修で笑いが出るとか、ありえねぇだろうが!!
営業の厳しさを叩き込むのが研修だろ?お前が軟弱な研修してっから、すぐ辞めるんだろうが!?」

 
『仕事とは厳しいものである』、確かにそれは事実です。しかし、『厳しい』=「楽しくてはダメだ」という考え方は正しいのでしょうか?
 
人気不定期連載【アメとムチはどちらが効果的なのか?】、一年ぶりの新作は、楽しいという感情と、労働の関係を考えます。
 
 
冒頭のエピソードに戻ります。
私が行っていた研修は、「社長いらっしゃいますか!?」と皆さまの都合を無視し、突然かかってくる売り込み電話のアポインターを育てるための研修です。
コピー機やら電話機やら、もしくは保険や投資など、あのような電話をかけてくるテレフォンアポインターってどれくらい稼いでいるかご存知ですか?
私の在籍していた会社では、時給が当時の最低賃金の倍程度。加えて成績による歩合給が加わるため、全国TOP50位以内入るようなアポインターであれば30万円以上、全国TOPを争うアポインターだと月給80万円以上を稼ぎます(あくまで当時の話です)。
 
こういった高額のアルバイトであるわけですから、応募者たちは皆不安を抱えています。
「自分にできるんだろうか?」
「しんどいんじゃないかな?」
「怪しくないか??」
 
実戦の場(=営業部)に立つことができるだけの最低限の知識を身に着けさせることも、確かに導入研修の大切な目的です。しかし、もっと大切なのは、実戦の場に立つことのできる勇気を与えることです。
そのために私は、「君たちならできる!」というメッセージを、時に笑いとともに導入研修において、発信し続けました。
 
 
ふたつ、ポイントとなるキーワードを挙げましょう。
「感情労働」と「ポジティブ感情」です。
 
19世紀の工場労働者は肉体を酷使することを要求されました。対して、現在のサービス労働者は心を酷使することを要求されていることから、感情労働という概念が生まれました。
接客業などは、不愉快な客に対しても、自身の感情を押し殺して労働を継続することが求められます。
このように、肉体や頭脳だけでなく「感情の抑制や鈍麻、緊張、忍耐などが絶対的に必要」である労働のことを感情労働と呼びます。
 
感情を押し殺して働くことは、接客業ほど顕著ではないにせよ、働く上で多かれ少なかれ求められる要素です。感情労働の研究においては、感情を抑制しなければならない状況下に置かれると、労働生産性が下がることが確認されています。
難しい言い方をしましたが、客にブーブー文句を言われながら、素晴らしい仕事をするのはしんどいですよね。たやすく想像できるかと思います。
 
楽しい、嬉しい、おもしろいなどのポジティブ感情は、個人の生活に留まらず、仕事を含めた人生のすべてを豊かにする効果が認められています。
 
怒り、恐怖などのネガティブ感情は、心拍数の増加、血圧の上昇といった身体的影響や、思考能力や判断能力の低下など、脳の活動にも影響を及ぼすことがあります。
対して、ポジティブ感情は、以下のようなプロセスで人の活動全般に好影響を与えることが分かってきました。

  1. 人の思考や行動の範囲を一時的に拡張する効果。
  2. これまで行っておこなかった新たな経験や知識を身につける効果。
  3. 前の2.が蓄積されていくことで、身体・知能の両面で成長し、社会的にも本人の価値が認められていく。
  4. このプロセスが繰り返されることで、人としての成長が促されていく。

少し分かりにくいですね。
ごく簡単に言えば、楽しいとかおもしろい、嬉しいという感情は、やる気が増し、結果につながる、というイメージです。
 
さらに言えば、ポジティブ感情は人の免疫機能を向上させる効能もあるんだとか。
アニマル浜口さんが、「気合だー!」と叫びながら、ワハハワハハと笑うさまは、ポジティブ感情を活性化させる効能があるのかもしれません。(あの方の場合、目が笑っていないので、本当に効果があるのか疑問ですが…)
 
アメとムチは、どちらが効果的なのか?
このテーマを取り上げる際、私はさまざまな文献、論文を探しました。私が探した限り、「ムチのほうが効果的だ」という研究は見当たりません。
こと教育論で考えると、ムチというのはアメとの関係性の中でしか存在しないものなのでしょう。
ムチを単体で求めると、つまるところデメリットのほうが大きいのだと考えられます。
 
楽しい/嬉しい/おもしろいといった正の感情は、人の能力を拡大します。これを職場に適用できれば、社員の能力拡大を期待することができます。
 
ただし、例えば「楽しい」ということの定義は必要でしょう。
ここに甘えは必要ないと考えます。
「楽しい」とは、例えば知的好奇心に対する満足感であったり、会社の目標に対する達成感であったり、自身のアイディアが会社のチカラで現実化する喜びであったりすべきです。
決して、業務中にサボったり、会社の備品をちょろまかしたり、同僚の失敗をあげつらい足を引っ張ることではありません。正しくない「楽しい」を求める輩には、ムチとしての罰が必要となります。
 
とは言っても、楽しい仕事を実現するのは簡単ではありません。
楽しい仕事、楽しい職場環境を実現するためには、会社の努力だけではなく、個人の努力と素養も必要だからです。
 
仕事に厳しさを求める姿勢は、勤勉さでありまじめさの現れかもしれません。
しかし、そんなドMさんのような、ムチを求め続ける働き方は窮屈ですよ。
 
笑って楽しんで、そして仕事もプライベートも充実させるような、そんなアメに満ちた
働き方であり人生が、いま真剣に議論されています。
ワーク・ライフ・インテグレーションという考え方なのですが、これはまたいずれ取り上げましょう。
 
では、不定期連載「アメとムチはどちらが効果的なのか?」、次回をお楽しみに!
 
 
 

参考・出典

 

バックナンバー「アメとムチはどちらが効果的なのか?」

 


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