秋元通信

例外処理から考える組織論

  • 2018.10.30

『SAP』というERP(Enterprise Resources Planning)パッケージ・ソフトウェアがあります。SAPは、ドイツに本社を置く企業が開発したシステムであり、日本国内でもそうそうたる大企業が基幹システムとして導入しています。
 
SAPが日本に進出した際、ドイツのエンジニアたちは驚いたそうです。
 

「なぜ、日本の企業は、こんなに例外処理を受け入れているんだ!?」

 
ドイツならびに欧米諸国において、SAPを導入するということは、すなわちSAPが提供する(もしくは矯正する)業務フローに従うということです。これは、システム導入の基本思想でもあります。
ところが、日本企業はSAP導入を承諾しておきながら、あれやこれやと例外処理の追加をリクエストしてきます。SAPが日本法人を設立したのは1992年のことですが、当時のドイツ人エンジニアたちは、面食らったそうです。
 
さて今回は、例外処理について考えましょう。
 
 
ところで、システムとはどういう意味でしょうか?
 
「今さら何を言っているの?」
 
いえいえ、ちょっと確認しておきましょうよ!
 
◇システム【system】の意味

  1. 制度。組織。体系。系統。
  2. 方法。方式。「入会のシステムを説明する」
  3. コンピューターを使った情報処理機構。また、その装置。コンピューターシステム。
    (出典:デジタル大辞林)

 
 
多くの方は、システムと聞くと、上記3.に該当するコンピューター上で可動する情報処理機構のことが頭に浮かぶことでしょう。システムとは、人間の処理能力を超える高速処理や自動化処理を行うための道具であると認識している方は、とても多くいらっしゃいます。しかし、これはシステムの一面であっても、システムの本質ではありません。
 
SAPを始めとする優秀なソフトウェアやシステムは、上記「1.制度。組織。体系。系統。」に強みを持っています。
優秀なERPを導入するということは、すなわち健全かつ品質の高い経営を行っている企業であるという証でもあります。優秀なシステムにおける最大の売りは、高い処理能力ではなく、その仕組みにあります。システム導入とは、(例えば経営における)優秀な仕組みを自社内に取り込むことなのです。
 
 
優秀なシステムに、例外処理をたくさん追加したらどうなりますか?
優秀なはずの仕組みに、ほころびが生じていくことになります。
 
「なぜ日本人は、我々が考えた優秀な経営システム(仕組み)にケチを付けるのだ!?」
 
冒頭のエピソードに登場するドイツ人エンジニアたちは、きっと狼狽しつつも、幾分の怒りを同時に感じていたことでしょうね。
 
 
では、例外処理は悪なのでしょうか?
例えば、経費処理のことを考えましょう。社内期限では当月中に処理すべき交通費を、翌月に持ち越してしまったこと、経験した方も多いのではないでしょうか?
例えば、社内規定に添った領収書をもらうことを忘れ、経理担当者に平謝りし、なんとか処理してもらった経験の持ち主も、いらっしゃるのではないですか?
 
これって、悪ですかね?
確かに、ルール違反という意味では悪かもしれません。しかし、仲間のちょっとした失敗を受け入れることは、組織運営の上では決して悪いこととは言い切れません。
 

「日本企業における例外処理の多さとは、それすなわち『おもてなしの心』のあらわれである」

 
これはある方からお聞きした言葉なのですが、この言葉を聞いた時、私は「なるほど!」と思わず膝を打ちました。
 
秋元通信では、不定期連載で「アメとムチはどちらが効果的なのか?」を考えてきました。
先の例のような、ひとの失敗を受け入れる例外処理は、アメであると同時に潤滑油でもあります。
ルールでしか動くことのできない組織は、どこか硬直化するからです。
 
 
さて、ここまでは例外処理の好ましい側面について取り上げてきましたが、ここからは例外処理のデメリットについて考えます。
 
例外処理のデメリットは、いくつも考えられます。
 

  • 業務効率を下げ、職場における労働生産性の低下要因となること。
  • 属人化しやすいこと。
  • 標準化を阻む阻害要因となりやすいこと。
  • 手間がかかること。
  • ルールや規則に対する遵守意識の育成を妨げること。

 
今回議論している例外処理とは、業務遂行における本来のルールや方針、日常ないし商売上の慣習などから外れた処理や業務などを指します。
先に挙げた5つは、例外処理における代表的なデメリットですが、私は「手間がかかる」がもっとも大きなデメリットだと考えています。
 
例えば配車業務を考えます。
私は前職において、配車システムの営業とその導入支援を行ってきました。多くの運送会社における配車業務を見てきましたが、配車業務というのは言わば例外処理のデパートのような業務です。多くの配車マンは、8割の配車作業を2割の時間で行い、残り2割の例外処理を行うために8割の時間を費やします。
そして、配車業務における2割の例外処理とは、先に申し上げたとおり、(良く言えば)おもてなしです。誰に対してのおもてなしかと言えば、荷主であり、配送先であり、そしてドライバーに対するおもてなしです。
文脈上、「おもてなし」と言いましたが、要は忖度です。
忖度とは、「他人の心情を推し量ること、また、推し量って相手に配慮すること」を意味しますが、配車業務の場合は相手の強い立場におもねり、嫌々ながら行っているケースが多いことでしょう。
 
運送会社は、長時間労働が課題のひとつとなっています。それは、ドライバーのみならず、配車マンなどの内勤者も同じです。
 
もし、この忖度が不要になり、配車業務における例外処理がなくなったら、配車マンの残業時間は年間数十~数百時間レベルで削減されると思うのですが…
一般論として、例外処理にかかる時間と手間というのは、配車マンに限らず、経理や人事など、多く間接部門における共通の悩みなのかもしれません。
 
つまるところ、例外処理って必要悪の一種ではないでしょうか。
少量であれば、組織内の潤滑油として良い影響もありますが、総体的には悪影響の方がはるかに大きいものです。例外処理を求める人の中には、柔軟さを例外処理の正当性を主張する人がいます。「なんだ、お役所仕事は融通が利かないな!! (- -メ)」などと怒るタイプの人ですね。
しかし、なんでも受け入れることって、決して組織の強さにはつながらないです。
結局、それはルールを形骸化し、組織統治を弱くするだけです。
 
強固なルールを持つ組織は、強いです。
それはすなわち仕組みの強さだからです。
そして、仕組みの強さこそが、例えばSAPなどに代表される優秀なシステムの強みなのでしょう。
 
さて、話が一巡しました。
まとめましょう。
 
強固なルール(=システム)を持つ組織は強いですが、硬直化を招きます。
例外処理を許す組織は人に優しいですが、ルールを形骸化させ、結果として組織としての強さを失います。
例外処理の適度な容認は、組織の潤滑油として機能しますが、行き過ぎた例外処理の容認は、ルールを形骸化し、結果として組織を弱体化させます。
つまり、どこまで例外処理を許すのか、というのは組織運営の上で、とても大事なバランス感覚と言えるでしょう。
 
何事にも、ほどほどが大切ということですね。
 
 
ところで、私がかつて勤めていた企業で、融通の効かない総務のステレオタイプのような女性がいました。私も何度泣かされたことか…
ところが、ある時人事異動があり、彼女と私は共に新設された営業部に配属されました。
 
ルールがないと動けないような彼女に、営業部での職務が務まるものかと心配になったのですが。
半年ほどが経過し、部で開催した飲み会で彼女が行った挨拶をよく覚えています。
 
「総務の時の私のことは、もう忘れてください。やりすぎていたことを、営業部に来てから思い知りました…」
 
過去、「これもダメ!」「あれもダメ!」と社内規定外のお願いを、バッタバッタと拒否しまくっていた自身の行動を、反省したうえでの発言です。
消え入りそうな声で話す彼女ですが、実は営業部に来てからの彼女の活躍は目覚ましいものでした。社内規定、つまりルールの価値を誰よりも尊重していた彼女は、ルールの適切な運用、そのさじ加減を知った時、とても優秀なネゴシエーター(交渉人)となったのです。
 
さて、今回は例外処理から組織論を考えました。
テーマとしての組織論は、またいずれ別の角度から考えましょう。
 
では、次回をお楽しみに!


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