秋元通信

ボスザルは必要なのか? 野生のニホンザルにボスザルがいない理由

  • 2018.10.30

動物園でも人気のニホンザル、その群れにはボスザルがいます。
ボスザルは観賞と研究の対象として注目され、またさまざまなエピソードが観察されています。
 
ボスザルの役目をご存知ですか?
ボスザルは、飼育員が配給する餌を優先的に食べたり、サル山における好きな場所に陣取ることができます。他のサルたちはボスザルを敬い、恐れ、ボスザルが移動する際には、道を譲るような行動を取る時もあります。このような、優先的なポジションを得る代わりに、ボスザルは仲間同士の喧嘩を仲裁したり、他の群れとの縄張り争いの先頭に立って、自身の縄張りを守るなど、群れを守る役目を担います。
 
…と、このように考えられてきたのですが。
ニホンザルの群れに対する研究が進むにつれて、どうもボスザルの存在というか、役割が曖昧になってきました。
ボスザルが群れの中で発生する争いを仲裁する、というこれまでの認識なのですが、まずこれが怪しいです。何というか、仲裁行為に公平性も一貫性もないんですね。「公平性」と言ったところで、所詮は人間の目から見て、ということであって、サル社会での公平性など私どもには理解できないのかもしれませんが。観察していると、ただ単に喧嘩に加わりたいだけのように見えることもありますし、そもそも必ず仲裁に入るというものでもなく、仲間同士の喧嘩を眺めていることもあるそうです。
 
 
ニホンザルの研究は、さらに予想外の事実を明らかにしました。
実は、野生のニホンザルの群れには、ボスザルがいないことがわかったのです。
 
不思議ではありませんか?
実は、野生のニホンザルにおいて、群れ同士が争うという機会はほぼないそうです。野生の場合、例えば餌場が重なることで争いが起きそうになると、どちらかの群れが自ずと違う餌場に移動するのだとか。豊富に餌がある自然環境の場合は、わざわざ特定の餌場に固執する必要はないからです。
ボスザルが生まれるのは、動物園などの閉じられた空間において、人間が餌付けを行う結果だそうです。
 
群れを構成するニホンザルたちにとって、餌や縄張りなどを確保したり、独占することに意味がない環境であれば、サルの間に順位は生じず、したがってボスザルも生まれません。
また、餌や縄張りを確保・独占することで生じるリスクがとても高い環境においても、サルの間に順位は生じず、したがってボスザルも生まれないことも分かりました。
 
ボスザルであり、「強いサルと弱いサル」といったサル同士の順位であり優劣は、争いが起きるような、適度に不自由な環境において生じるということが分かってきたのです。
 
 
ニホンザルの群れは、社会や組織を研究する素材として、観察され、そして研究されてきました。
もし、ニホンザルの社会学が人間にも適応可能なのだとすれば、ボスという存在は、争うために生み出されたものであり、さらに言えば、「もっと欲しい!」という欲望が生み出した必要悪なのかもしれません。
 
 
そう考えると、納得できるようでもあり、納得出来ないようでもあり…
さて皆さまは、どのようにお感じになるでしょうか?


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