秋元通信

感動の仕組み

  • 2018.11.30

実在のバンドQueenと、そのボーカルであったフレディー・マーキュリーを主人公にした『ボヘミアン・ラプソディ』を観てきました。
とても良かったです! Queenの素晴らしい音楽とともに語られるフレディー・マーキュリーを軸としたバンドメンバーたちの人間模様。感動的でした。
同作を観た友人たちが、SNS上で一様にべた褒めしておりましたが、なるほど、確かに名作でした。
 
ところで、人は何故、どのようにして感動するのでしょうか? 今回は感動する仕組みについて考えましょう。
 
まず、「感動」について、あらためて確認をしておきましょうか。
 

【感動】
[名](スル) ある物事に深い感銘を受けて強く心を動かされること。「深い・・・を覚える」「名曲に・・・する」
(出典:デジタル大辞林)

 
分かるような、分からないような説明です。
何か、もうちょっとピンポイントで、「なるほど、確かにそのとおりだ!」と膝を打つような説明ができないものでしょうか。
 
これは、たぶん「感動」という感情の難しさ故のことだと考えられます。
感動とは、誰もが経験したことがある身近な感情でありながら、ある条件を満たさないと発動せず、また共有もしにくい類の感情であるからだと考えられます。
 
 
シルベスター・スタローン主演の名作『ロッキー』を例に考えましょう。
『ロッキー』は、自堕落な生活を送っていたボクサーが、幸運にも世界戦に挑戦する機会を得て、愛する人の助けも借りながら、勝利を得るというストーリーです。
 
『ロッキー』の感動ポイントを挙げます。

  1. 最後に勝利すること。アメリカンドリームを成し遂げること。
  2. ロッキーの努力の経緯が劇中で丁寧に描かれていること。
    (厳しい練習シーンや、大きなビールジョッキに生卵を複数個割り入れて飲むシーンなど)
  3. 「そうは言ってもこいつ、ホントにアポロに勝てるのか?」と不安が常に付きまとうこと。
    (現役チャンピオンであるアポロ陣営とのサポート体制の差や、元々自堕落な生活を送っていたロッキーの能力に対する不安、試合展開など)
  4. 勝利し、「エイドリア~~ン!!」と最愛の人の名を叫ぶところで、これまで感じていた葛藤や不安、期待などがすべて発散されること。

 
例えば、最愛の人を失う悲劇のラブストーリーがあったとしましょう。
例えどんな名優が演じたどんな名作であっても、「最愛の人が死んでしまうラストシーン」だけを観て、感動することはできません。
死に至るまでのエピソードや愛の軌跡が描かれて、初めて感動することができるのです。
 
雄大な風景を見て、もしくは絵画や音楽を聞いて感動するケースは、ここに挙げたケースとは少し違いますが。
ある研究によれば、映画や小説のような、ストーリー性のある感動に共通するポイント「感動の条件」は以下のように分析できるそうです。

「感動の条件」とは

  1. ポジティブ事象(達成・成就・美しさなど)を含むこと。
  2. 結末と、その途中プロセスに関する知識や感応性を有すること。
  3. 結末への期待と不安が伴うこと。
  4. 心身の緊張と緩和を伴うこと。

『ロッキー』の感動ポイントと、上記の「感動の条件」を見比べてください。
合致しているのがおわかりいただけるでしょうか。
 
 
さて、話が変わります。
お客様に対する顧客満足度を論じる際に、「期待を満たして感謝、期待を超えて感動」といったキャッチフレーズを聞いたことがありませんか?
この手のキャッチフレーズ、様々なバリエーションがあるのですが、ポイントは同じです。「お客様の事前期待に応えるのは当たり前ですよ。事前期待を超えたアウトプットを目指し、お客様の感謝を超えた、感動という顧客満足を得てもらいましょうよ!」という点です。
 
これを満たすのは簡単ではありません。
何故ならば、優れた仕事をすれば、必ず感動してもらえるわけではないからです。 最上で最適なものとは、お客様にとって異なるからです。
顧客満足に対する大きな誤解が、ここにあります。
 
 
あるエピソードをご紹介しましょう。
その時、私はあるお客様のWebサイト制作獲得のため、コンペ資料を作成しなければなりませんでした。会社は、SEのひとりをプランナーとして育成しようと考え、私と共にコンペに向けた準備を進めるように命令しました。仕事を開始すると、私はプランナーとことごとく対立しました。理由はシンプルです。プランナーは、「自分が最高!」と考えていたからです。自分の方針は絶対に間違っておらず、どんな業界のどんな企業でも、自分の方針に従えば間違いはないと考えていました。
 

「最強の矛を作るのではなく、このお客様にとっての『最高』を考えようよ」

 
そういう私に対し、プランナーはこのように言いました。
 

「最強の矛を作って何が悪いんですか? 私のセンスが分からない人は、ほっとけば良いんですよ」

 
 
先の「感動の条件」を思い返しましょう。
顧客満足、つまり仕事において、仕事の内容に感動してもらうことを考えた場合、まず考えるべきは、「2.結末と、その途中プロセスに関する知識や感応性を有すること」です。
お客様が「知識や感応性を有しない」こと、つまりお客様が理解できないことを行っても、お客様は満足してくれません。
「最強の矛」の発想は、お客様目線が欠如している点でNGです。
「私のセンスが分からない人は、ほっとけば良いんですよ」という発想は、(個人的には嫌いではないのですが…)センスという感性の問題を、「良いか悪いか?」という二元論で考えてしまっていることに大きな問題があります。結局のところ感動とは、その人の経験と知識によって産み出される感情です。二元論的に論じられるものではありません。
 
では、「感動の条件」における、1.、3.、4.のような、より感情に訴えてくるような要素をお客様に体験してもらうにはどうしたら良いのでしょうか?
これも、あるエピソードをご紹介しましょう。
 
これはディズニーランドを日本に誘致した時のエピソードです。
当時、ディズニーランドの誘致には、オリエンタルランドが推す浦安のほか、海外を含めた複数の企業および候補地が手を挙げていました。
オリエンタルランドのプレゼンテーションは違いました。
まず、オリエンタルランドはディズニー社のスタッフに食事を供したそうです。場所は某高級ホテル。食事中、オリエンタルランドは一切売り込みをしなかったと言います。
食事終了後、「せっかく東京に来たわけですから、空から東京見物をしましょう!」と言って、ディズニー社スタッフをヘリコプターに案内したそうです。訝しげに思いつつも、ヘリコプターに搭乗したディズニー社スタッフは、浦安上空に連れて行かれます。
 

「さあ観てください。あなた方の夢が、ここに描かれています!」

 
眼下を見れば、シンデレラ城を始めとするアトラクションの配置図が、実物大で浦安の埋立地に描かれていたそうです。
 
プレゼンが功を奏し、現在に至るも東京ディズニーリゾートが繁栄を続けているのは、皆さまご存知のとおりです。
 
美しさ、期待と不安、そして解放。
「感動の条件」がすべて含まれています。私は、日本のビジネス史上に残る(もしくは残すべき)素晴らしいビジネスエピソードだと思います。
 
さて、『ボヘミアン・ラプソディ』からだいぶ話がずれてしまいました。
私は、フレディー・マーキュリーが「ゲイっぽくなってから」(※同作に登場するセリフです)のQueenからリアルタイムで聞き始めた、言わば浅い世代なのですが、それでも感動して落涙しました。
ちなみに感動して泣くことには、ストレス解消やリフレッシュなどのポジティブな効果があるそうですね。
 
年末を控え、忙しくなっていく時期かと思いますが、心の栄養補給を兼ねて同作をご覧になってはいかがでしょうか?
『ボヘミアン・ラプソディ』、オススメですよ!
 
 

参考資料と補足

 
・『観光喚起のメカニズムについて』(戸梶 亜紀彦 / 認知科学 2001年8巻4号)
 
※ディズニーランド誘致に関するエピソードについて
本エピソードは、以前筆者がTOKYO FM のラジオ番組『SUNTORY SATURDAY WAITING BAR AVANTI』で耳にしたエピソードを記憶をたどりながら書いております。
同じエピソードは、『海を超える想像力―東京ディズニーリゾート誕生の物語 (ディズニーストーリーブック) 』(加賀見俊夫 / 講談社)でも紹介されているそうです。
 
 


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