秋元通信

再注目される「ワークライフインテグレーション」とは?

  • 2018.12.20

先日、ある広告代理店の方と雑談をしていたときのことです。
 

「広告代理店の社員って、なんとなく遊んでいるイメージがあるでしょ?(笑) だから皆さん、うちの社員は『遊びの達人』だと思っているけれども…、実は『遊び方を知らない広告マン』が増えているのが、実はとても頭が痛くて…」

 
彼曰く、広告マンにとっては、例えばTVを観るのも仕事の肥やしだと言います。確かに、TVを観ない広告マンの作ったCMなんて、おもしろくなさそうです。
 
 

ワークライフインテグレーションとは

 
皆さま、「ワークライフインテグレーション」という言葉をご存知でしょうか?
 
インテグレーション(integration)とは、「統合」とか「集大成」と訳されます。
ワークライフインテグレーションとは、「会社における働き方と個人の生活を、柔軟に、かつ高い次元で統合し、相互を流動的に運営することによって相乗効果を発揮し、生産性や成長拡大を実現すると共に、生活を質を上げ、充足感と幸福感を目指すもの」と定義されますが…
 
やさしく言い換えると、「仕事もプライベートも、両方とも頑張って、収入もガッツリ、幸せな生活を実現しましょう!」というのが、ワークライフインテグレーションの目指すものだとお考えください。
 

ワークライフ・インテグレーションの概念図。2008年5月に経済同友会が発表した『21世紀の新しい働き方 "ワーク&ライフ インテグレーション"を目指して』にて示された。 

ワークライフ・インテグレーションの概念図。2008年5月に経済同友会が発表した『21世紀の新しい働き方 ”ワーク&ライフ インテグレーション”を目指して』にて示された。 ※クリックで拡大します。

※クリックで拡大します。
 

実はこのワークライフインテグレーションという考え方は、最近生まれたものではありません。2008年に経済同友会が発表した働き方への提言なのですが、ご存じない方が多いことと思います。
ところが10年も経過した今、ワークライフインテグレーションが再注目されています。
 
なぜでしょうね?
今回は、その理由を紐解きながら、私どもがこれから直面していく、働き方の変革について考えていきましょう。
 
 
 

ワーク・ライフ・バランスを確認しよう

 
ところで皆さま、ワークライフインテグレーションは知らなくても、ワーク・ライフ・バランスはご存知の方が多いことと思います。
 

「ワーク・ライフ・バランスとは、『仕事と生活の調和』と訳され、『国民一人ひとりがやりがいや充実感を持ちながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる』ことを指す」(出典:Wikipedia

 
 
これまた小難しい説明なのでかいつまんで説明すると、「仕事と生活の両立を目指しましょう!」ということです。その裏には、「仕事だけじゃ駄目ですよ!」という、仕事重視の生き方に対する反省が隠れています。
 
現在でも働き方改革などを議論する上でたびたび登場するワーク・ライフ・バランスですが、ちょっと皆さま、考えてみてください。
 
ワーク・ライフ・バランスって、正しいですか?
この答えを出す前に、日本人の働き方を考えてみましょう。
 
 

実は国際的に低い、日本の労働生産性について

 

国民一人あたりの労働生産性の国際比較(2017年)。日本は、ここ50年ほどずっと20位付近を推移しており、生産性の向上がずっと課題であると認識されてはいるものの、改善はされていない。

国民一人あたりの労働生産性の国際比較(2017年)。日本は、ここ50年ほどずっと20位付近を推移しており、生産性の向上がずっと課題であると認識されてはいるものの、改善はされていない。

※クリックで拡大します。

 
世界的には働きすぎと揶揄されることもある日本人ですが、実は日本の労働生産性は高くありません。
2017年の統計では、先進国の中で日本人の労働生産性は21位です。1位のアイルランドと比較すると、生産性は半分以下、3位:アメリカ、8位:フランス、13位:ドイツ、19位:イギリスなどに、先進7カ国の中では最下位に位置しています。
さらに言えば、ここ50年近く日本の労働生産性順位はほぼ変わっていません。
 
「要領が悪い」
日本人の働き方を世界的に診れば、こういうことですね。
 
 
ワーク・ライフ・バランスは、長時間労働から日本人を開放します。
しかし、要領の悪い働き方をしている(とあえて言いましょう)日本人が、単純に労働時間を減らしたら、生産性は下がりますよね。
 
誤解のないように言えば、ワーク・ライフ・バランスを理想的に実現すれば、生産性は上がります。それは、ワーク・ライフ・バランスを実現するために工夫をするからです。
しかしそれは、ワーク・ライフ・バランスにおける、おまけ的な効果でしかありません。ワーク・ライフ・バランスの主たる目的は、労働生産性を上げることではないからです。
これが、ワーク・ライフ・バランスに欠けた点なのです。
 
 

ワークライフインテグレーションが注目される理由

 
話が変わります。
先日行われたソフトバンクの決算発表において、孫正義氏は以下のように発表しました。
 

「(さらなる増収と新規収益の創出を目指した構造改革への取り組みとして、社内AI・RPA化を進めていく理由として) ソフトバンク本社の業務の中でもルーティンワークになっているものがたくさんある。これをデジタルロボットなどでの業務プロセスに置き換える。さらに通信事業に関わる社員数の4割を成長する新規領域へ配置転換したい」

 
ソフトバンクでは、2000件ものAIおよびRPA関連プロジェクトを走らせていることを明らかにした上で、RPAやAIに積極的に取り組む理由として、

「世界の企業と戦うには時短だけでなく、社員1人あたりの生産性を科学的に高める必要がある」

としています。
 
 
RPAについて補足しましょう。
RPAとは、ロボティック・プロセス・オートメーションの略語であり、簡単に言えば事務作業のための産業用ロボットのことです。例えば自動車工場をイメージしてください。工場内では、溶接、組み立てなどを行う様々な産業用ロボットがあります。RPAとは、産業ロボットの事務所版と考えると分かりやすいでしょう。
 
ワークライフインテグレーションが再注目された背景には、RPAやAIが普及し始めたことと関連があります。
少し考えてみてください。読者皆さまにおける日々の仕事の中で、単純作業やルーティンワークと呼ばれるものはどれくらいありますか?
経営者やアナリスト、コンサルタントといった特殊な職に就いている人を除けば、営業や事務職といったホワイトワーカーの皆さまにおける仕事のうち、3割から8割ぐらいは 単純作業やルーティンワークに費やされているのではないでしょうか?
RPAやAIは、そういった単純作業を人に代わって遂行してくれます。
 
では、これまで行ってきた単純作業から解放された人は、何をすれば良いのでしょうか?
答えは簡単です。
RPAやAIではできない、より創造的で価値のある仕事に従事すべきです。
しかし、「より創造的で価値のある仕事」とは、より高い知見を必要とする仕事です。より難しい仕事をしないと、RPAやAIに仕事を奪われて終わりです。
 
人は成長しなければならない。
でも、どうやって成長すればよいのか?
 
その答えであり、方策のひとつが、ワークライフインテグレーションというわけです。
 
 
冒頭のエピソードを思い出してください。
仕事のヒント、そして自らを成長させるヒントは、生活のありとあらゆるところに隠れています。
ワークライフインテグレーションは、受け身ではなく、自分自身を成長させるべく積極的に日々を過ごすことで、仕事とプライベートの両方で成功を目指すことを求めているのです。
 
 
以下、私見です。
「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざがありますが、ワークライフインテグレーションにおいては、仕事と生活(プライベート)の二兎を追うことを求めています。
 
これは簡単ではないでしょう。
できない人もいるでしょう。努力も、そしてセンスも必要でしょう。
 
RPAやAIと協働する社会はすぐそこに迫っています。
企業としてはRPAやAIに負けない人材を求める必要がありますが、これも簡単ではないでしょう。
 
私は、これはとてもおもしろい流れが来た!、と思っています。
高度成長期以降、少し元気がなくなっている日本社会において、ワークライフインテグレーションは、皆が元気を取り戻す転換になるかも知れないな、と期待もしております。
 
 
皆さまはどのようにお感じになりますでしょうか?
 
 
 

出典および参考

 
21世紀の新しい働き方 「ワーク&ライフ インテグレーション」を目指して (2008年5月 公益社団法人経済同友会)
 

https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2008/080509a.html

 

経済同友会が示した本提言書は、10年前に作成されたものにもかかわらず、輝きを失わずむしろ今のほうがより時代にマッチしている感すらあります。
記事中に取り上げたは、ワークライフインテグレーションに関わるごくごく一部のみ。
興味のある方は、ぜひ本文をじっくりとお読みいただくことを推薦いたします。

 

労働生産性の国際比較 (公益財団法人日本生産性本部)
 

https://www.jpc-net.jp/intl_comparison/

 
労働生産性の国際比較について、毎年情報をリリースされています。
 

 

RPA(Robotic Process Automation /ロボティック・プロセス・オートメーション)とは

簡単に言えば、ホワイトカラーのための産業用ロボットを指します。
ただし、自動車工場内で溶接や組み立てなどを行う産業用ロボットと違い、PCやサーバ内で働くRPAに実体はありません。

事務作業上のルーティンワークなどを人よりも早く、かつ正確に行うことができる半面、判断したり自ら考えることはできません。ここがAIと違う点です。
そのため、複雑な処理を行い際にはAIと組み合わせてシステム化されます。

記事中に登場したソフトバンクでは、現在月2000時間におよび業務削減をRPAによって成し遂げていると言います。
RPA導入は大企業を中心に進んでおり、働き方改革における具体的手法のひとつとして注目を集めています。

 
ソフトバンクの決算発表、そして孫正義氏の発言については、以下から引用しています。

 『営業利益前年同期比62%増で過去最高を更新! ソフトバンクグループ 2019年3月期 第2四半期 決算説明会レポート』 (ソフトバンクニュース)

https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20181106_01

 

「ソフトバンク孫氏『AI・RPAの社内取り組み2000件』」 (日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33887950X00C18A8000000/

 
 
 


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