秋元通信

フィットネスクラブから考える箱物ビジネス

  • 2019.1.31

「女性だけの30分健康体操教室」
「24時間トレーニングジム」
 
最近、こんな看板を掲げた小型のフィットネスジムを街なかで見かけます。最近の健康ブームを追い風に、フィットネスクラブ産業は売上を伸ばし続けているとのこと。しかし、そのビジネスは、ここ30年ほどで大きく変わろうとしています。
 
今回は、フィットネスクラブと箱物ビジネスについて考えましょう。
 
2017年のフィットネスクラブ産業の売り上げは約3349億円。2015年は前年比103.2%、2016年は102.3%、2017年は100.6%と、フィットネスクラブ産業は、ここ数年堅実に売上を伸ばしています。
ちなみに、延べ利用者数は、約2億5248万人です。ちなみに、日本の人口が1億2632万人(2018年8月時点)です。こう診ると、フィットネスクラブの利用者は結構多い気がします。
 
また、フィットネスクラブ産業に従事する人は、2015年では39,376人でしたが、2017年には43,538人、2018年11月時点で45,082人に増加しています。増加率で考えると、2015年から2017年の3年間で110.6%の増加です。同じ3年間の売上増加率が105.8%ですから、産業全体の拡大が先行している状態と考えられます。
 
 
ところで、皆さんがイメージするフィットネスクラブってどんな施設でしょうか?
マシンジムがあって、エアロビクスなどを行うスタジオがあって、そしてプールがあるような総合型施設を想像する方が多いのではないでしょうか。
フィットネスクラブ産業全体は拡大しているものの、実は総合型フィットネスクラブは苦戦を強いられています。2016年の統計によれば、一施設あたりの売上高はピーク(2006年)に比べて約11%減少。一施設あたりの会員数もピーク(2005年)に比べて約11%減少しているそうです。
 
総合型フィットネスクラブに代わって人気を集めているのは、24時間営業のマシンジム単体施設や、ヨガなどの特定レッスンのみを行うスタジオ単体施設、スピニング(※自転車)やトランポリン、ボクシングなど専門性の高い施設なんだとか。
 
フィットネスクラブがどのように変遷したか、少し振り返ってみましょう。
 
1981年、オリビア・ニュートン・ジョンが歌う『フィジカル』が大ヒットしました。同時に、世界的にエアロビクス・ブームが訪れます。ピチピチのレオタードにヘッドバンドを着けて踊る『フィジカル』のミュージックビデオは、皆さんも記憶に残っているかも知れませんね。
80年代から90年代にかけてのスタジオレッスンは、エアロビクスを始めとする有酸素系、ダンス系プログラムがメインでした。日々行われるレッスンにおけるプログラム内容は、インストラクターが考えます。人気のインストラクターは、ダンスの上手さに加えて、カリキュラムを考える力を求められ、カリスマ化していきました。筆者がフィットネスクラブに通い始めたのは1995年頃でしたが、カリスマ・インストラクターが行う1時間のレッスンに参加するために、1時間以上、時には2時間も並んだことがありました。本末転倒ですね。
 
しかし、カリスマ・インストラクターに頼るスタジオレッスンには、箱物ビジネスならではの致命的なビジネス上の欠陥がありました。
 
スタジオレッスンの売上はレッスン参加者の数で決定しますが、スタジオ(箱)の大きさには限界があります。収容人数が100名、200名といった巨大レッスンスタジオもありましたが、広すぎると参加者の満足度が下がります。また、人気インストラクターを招くには、高額なギャラが必要となり、利益率が下がります。また、スタジオの広さは有限ですから、売上を伸ばすにも限界があります。
 
 
そのジレンマを解決するビジネスモデルのひとつが、スタジオレッスンの標準化モデルでした。
ニュージーランドで生まれ、1997年に始まった『BODYPUMP』を提供するLESMILLS(レスミルズ)は、その最たるものでしょう。エアロビクス、ダンス、格闘技、ヨガなどさまざまなレッスンカリキュラムは、すべて本部で作成されます。世界100カ国で活躍するインストラクター13万人のもとには、三ヶ月ごとに新しいカリキュラムのDVDと教本が提供され、各国に存在する認定資格機関が実施するワークショップへの参加を義務付けられています。
つまり、それまで属人化していたエアロビクスを、マニュアルと認定資格というふたつのツールで標準化することで、人気インストラクターを量産できる仕組みを創り上げたのです。
これによって、高いギャラを要求するカリスマ・インストラクターに頼らず、自社社員を人気インストラクターに育成し、コストの低いスタジオカリキュラムを構成することができるようになったのです。
 
 
2000年を前後する頃、総合型フィットネスクラブは、巨艦店化していきました。
温泉施設を付帯したり、バーやレストランなどを設けた高級フィットネスクラブも登場しました。
この背景にも、箱物ビジネスならではのジレンマがあったと考えられます。
1970年代から1980年代に作られた総合型フィットネスクラブの施設は、老朽化していきました。老朽化した施設をすべて建て替えるわけにもいかず、しかし老朽化した施設は少しづつ売上を下げていきます。既存店の売上減少を補う目的で、新たに建築された複合型フィットネスクラブは、巨艦店化していったのです。
 
ただし、巨艦店だっていずれ老朽化するわけです。しかも、巨艦店は運用コストが高くなります。典型的な箱物ビジネスのジレンマに、ここでも総合型フィットネスクラブはさらされたわけです。
 
 
最近のフィットネスクラブは、施設が小型化し、また設備投資も抑える傾向があります。
例えば、ヨガスタジオ。多くの教室がオフィスビルの一室を利用しています。入浴施設はおろか、シャワーすらないところだってあります。
健康体操を売りにする高齢者向けフィットネスクラブの中には、最低限のトレーニング機器しか取り揃えていないところもあります。あるのはダンベルやトレーニングチューブなどで、ランニングマシンやエアロバイクといった基礎的なトレーニングマシンがないところもあります。
プール等を持たないスタジオ特化型のフィットネスクラブの場合、防音設備がしっかりとしていないところもあります。レッスン中に、近隣住民が「うるさい!」と怒鳴り込んできた、なんて笑うに笑えないエピソードも聞きます。
 
箱を小型化し、また設備投資を抑えることで下げたコストは、会費や利用費に還元されます。言い方は悪いですが、価格勝負のフィットネスクラブ・ビジネスです。
 
 
一方で、付加価値の高いコンテンツによって差別化を図るフィットネスクラブ・ビジネスの潮流も生まれてきています。
ライザップなどはその代表例のひとつです。TVやダイエット本などで名を馳せるカリスマ・トレーナーが運営するフィットネスクラブも、付加価値の高いコンテンツで勝負する潮流にあるでしょう。VRや映像技術を駆使したスタジオ機器を備え、一回数千円の料金を取るスタジオレッスンも登場しています。
 
値段で勝負するか、それとも高付加価値を備えた中身で勝負するのか?
同じ箱物ビジネスである物流不動産ビジネスにも、共通する観点があるとは思いませんか?
 
 
他産業のビジネスモデルを考察し、物流業界と比べるのはおもしろいですね。新たな気づきも得られますし。
またいずれ、ネタを見つけてお届けしましょう。
 
 

参考

 
経済産業省
「特定サービス産業動態統計調査」
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/index.html
 
 


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