秋元通信

「効果的に励ます」方法を学ぼう!

  • 2019.2.21

仮に、あなたが少年野球チームの監督だとします。
今日は大事な試合、格上チームとの勝負です。
 
あなたは監督として、チームの4番バッターを「励ます」言葉をかけなければなりません。
 

A:
『相手のピッチャーはコントロール抜群だ。高めの球には手を出すなよ!』
 
B:
『相手のピッチャーはコントロール抜群だ。低めの玉を狙っていこう!』

 
さて、適切な励まし方は、どちらだと思いますか?
正解は、Bです。なぜでしょうね。
 
今回は、励ます方法を考えていきましょう。
 
 
peptalk(ペップトーク)をご存知でしょうか。
「pep」とは、「元気」とか「活力」、「活気」という意味です。
 
peptalk(ペップトーク)とは、スポーツにおけるコーチングの一種であり、選手たちにやる気を出させ、励ます声がけのことを指します。
 
歴史に残るpeptalkとして称賛されるエピソードがあります。
時は1980年2月22日、レークプラシッド冬季オリンピックのアイスホッケーにおいて、このpeptalkは生まれました。
 
背景を説明すると、当時、ソビエトのアイスホッケーチームは無敵を誇っていました。冬季オリンピックで3連覇中のソビエトチームに対し、アメリカは無名の学生たちを中心とした寄せ集めチームでした。しかし、アメリカ・アイスホッケーチームは破竹の勢いで勝利を重ね、ついにソビエトチームと対戦することになります。
 
とは言え…
同年2月9日、両チームはエキシビジョンマッチを行いましたが、10-3でソビエトチームが圧勝していました。
当然、オリンピックでも、ソビエトチームがアメリカチームを破り、金メダルを獲得するであろうというのが、おおかたの予想でした。
 
そんな中、アメリカチームのコーチであるハーブ・ブルックスは、試合前の選手たちにこのように声をかけたと伝えられています。
 

『偉大な瞬間は偉大なチャンスから生まれる。
お前たちのチャンスは今夜だ。
それをその手で掴み取ったんだ。
1試合だ。
10回戦えばソビエトが9回勝つだろう。
でも今日のこの1試合は違う。
今夜は敵と肩を並べとことん食らいついていく。
そして完全に封じ込めるんだ。
必ずできる!
今夜は俺たちが世界で最も偉大なチームだ。
お前たちはホッケーをやるために生まれてきた。
今夜、お前たちがここに来たのは運命だ。
その時がきた。
ソビエトの時代は終わった。
もういいだろう。いい加減、聞き飽きた。
どこへ行っても ”ソビエトはすごい”という話ばかりを聞かされ続けた。
でも、もう古い!
時代はお前たちのものだ。
さあ、必ず奪い取ってこい!』

 
 
選手たちに自信とプライドを与える、素晴らしい言葉が並んでいます。
そして、アメリカチームはソビエトチームを破り、勝利を得ます。結果、アメリカは下馬評をくつがえし、金メダルを獲得することになります。
 
このエピソードは『ミラクル』というタイトルで2005年に映画化されています。
ところが…
先のpeptalkの肝である、「10回戦えばソビエトが9回勝つだろう」という部分が、映画の中では、「10回戦えばうちが9回負けるだろう」と日本語訳されていたそうです。
 
これが、日本人のメンタリティなんですかね…
peptalkとしては、ダメダメです。
 
 
アスレティックトレーナーである立花龍司氏は、peptalk、つまり優れた励まし方に必要な要素として4つのポイントを挙げています。
 

  • 事実の受け入れ
  • 捉え方の変換
  • 「して欲しい」変換
  • 背中のひと押し

これをまとめると、例えば以下のようなpeptalkが成立します。
 

『今日は決勝戦。全国大会常連の**チームと対戦できるなんて、みんなすごいじゃないか!?
この試合は、お前たちの強さを証明するチャンスだ!
お前たちらしく、しっかり守って、ワンチャンスをものにしよう!
さあ、おもいっきりグランドで暴れてこい!』

 
 
否定的な言葉は使わないこと。
例えば、「負けるかもしれないなんて弱気なことは思うなよ!」ではなく、「この試合は、お前たちの強さを証明するチャンスだ!」と捉え方の変換を行うこと。
例えば、「エラーをするなよ」といった「して欲しくない」ことを伝えるのではなく、「しっかり守って」と「して欲しい」ことを伝えるように心がけることが大切なんだそうです。
 
確かに、「エラーをするなよ」といった注意をすること、否定的な言葉を使うことは、ついついやってしまいがちかもしれません。
 
スポーツのコーチングに限らず、さらに「励ます」方法を一般化して考えましょう。
「励ます」には、以下みっつの代表的なバリエーションがあります。

  • 現状を肯定すること。
  • 共感を示すこと。
  • 視点を変えて希望を灯すこと。

 
少しわかりにくいですね。
例を挙げて説明しましょう。
 
不器用な部下がいたとします。物覚えも悪い、要領も悪い、そんな部下が、ある時発注内容を間違え、お客様に迷惑をかけてしまった。そんなケースを考えましょう。
 

『今回はやらかしちゃったけどな、今まではちゃんとやれていたじゃないか。
俺も新人の頃、お客様の請求を間違えたことがあったよ。
でもな、今回の間違いをきちんと受け入れることで、君は間違いなく成長するから。自信を持て!』

 

『君はだいたい注意散漫なんだよ。いつかは大きなミスをやるんじゃないかと心配してたけど…
普通にやっていれば、こんなミスは起こさないって。俺は一度も失敗したことがないけどな。
今回の失敗、肝に銘じろよ!それじゃなくても、君はどんくさいんだからさ!!』

 
どちらが適切な励まし方か、比べれば一目瞭然です。
というか、後者は自分の鬱憤を部下にぶつけているだけのようにも見えます。
 
 
励ませば、相手は必ず頑張ると思いますか?
答えはNoです。
ついつい使いがちな、「頑張りなさい」とか、「やればできる」という言葉には、落とし穴もあります。
ひとつは具体的な解決策が示されていないこと。そして「頑張りなさい」とか、「やればできる」という言葉の裏には、相手の現状に対する否定が含まれているからです。
壁にぶつかっている人は、どうやったらその壁を超えられるのか、分からず悩んでいます。どうやって頑張れば良いのか、それが分からないから悩んでいます。その相手に、「頑張れ」という言葉をかけるのは、これまでの頑張り(努力)では足りませんよ!、と否定的な評価を与えていることになりかねません。
 
一説によれば、「頑張る」という言葉は、江戸時代までは否定的な意味で使われていたと言います。
「頑張る」の語源は、「我を張る」という仏教用語であり、「無理をする」、「我執にこだわる」という、つまりは「無理をしてでもやれ!」というニュアンスが含まれていると考えられます。
ところが明治時代に入り、欧米諸国に対する競争意識が高まるにつれ、「無理をすることが必要」、「無理をしてでもやる人が優れた人」と社会認識が変わっていったという説です。
 
う~ん、考えてみると、私どもは日常的に「頑張れ」もしくは「頑張る」という言葉を安易に使いすぎなのかも知れませんね。
 
 
では、あとふたつクイズを出しましょう。

質問1
学習をする子供に対して、より効果の高い(学習成績が上がる)声がけは、どちらでしょうか?

 
1-A:
これまで勉強を続けていることに対して、「よく頑張ったね」と声を掛ける。
 
1-B:
これから勉強を続けていくことに対し、「頑張ることは大切なんだよ」と声を掛ける。

 

質問2
子供に対するテストの成績に対する声がけとして、より効果の高い(学習成績が上がる)声がけは、どちらでしょうか?

 
2-A:
「よい点数だね。頭がいいんだね」
 
2-B:
「良い点数だね。頑張ったね」

 
 
これらの結果は研究によって実証されています。
正解は、それぞれ1-A、2-Aとなります。
 
大切なことは、これからの努力の意義を説明する(1-B)の前に、これまでの努力を認めてあげること(1-A)。
さらに、努力そのものを褒める(2-B)よりも、その努力が効果的であったことを褒める(2-A)のほうが効果的なんだそうです。
 
励ますって、簡単じゃないです。
叱るほうが、はるかに楽です。
だから、「頑張れ!」って言葉で逃げてしまうのかもしれません。
 
ここに書いたことを、実際に、そして自在に実践するのは簡単ではありませんが、励ますという行為は、特にこれからの時代、求められるマネージメント能力となっていくのではないでしょうか。
 
少しづつでも、「励ます」をマネジメントツールとして使いこなせるよう、ともに勉強していきましょう!
 
 
 

参考および出典

 
『スポーツ少年のやる気に火をつける! 励ます技術』
立花龍司 株式会社竹書房
 
 
『励ますということ その原理について』
汐見稔幸 児童心理2015年9月号
 
 
『励ませば子どもは必ず頑張るか』
中山 勘次郎 児童心理1994年5月号


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