秋元通信

「教育ってなんだ?」 企業の新人教育に必要なこと

  • 2019.4.15

「確かにトークは教えてもらいましたよ!! だけど、知らない人と話す勇気は教えてもらっていないです」

 
 
私は以前、ゴリゴリの営業会社にいました。一時期、新人の導入研修を担当していたこともあります。
私が担当していたのは、商品知識と営業トークに関する研修でした。事は、座学研修を終え、営業部に配属、先輩営業との同行を済ませ、初めて単独での飛び込み営業を経験したその日に起きました。
 
ある新入社員が2~3件、飛び込み営業を行った時点で、「会社を辞める!」と電話してきたのです。朝9時から飛び込みを開始し、電話を掛けてきたのは10時過ぎ。そして、彼が発したのが、冒頭の言葉でした。
 
客先に入れば怒鳴られる。
先輩に助けを求めても、「とにかく頑張れ!」と言われ、「でも…」と言うと、怒られる。
誰も優しくしてくれない。
こんな会社、もう嫌だ。
 
涙ぐみながら、彼は直属の上長に訴えたそうです。
飛び込み営業をした方ならば、気持ちは分かるのではないでしょうか?
でも、「さすがにそれは根性がなさすぎるのではないか??」と感じる方も多いことでしょう。
 
ちょうど春。
新入社員を迎える時期でもあります。
 
今回は、企業の新人教育について考えましょう。
 
 
企業における新人教育において、教えるべきこととは何でしょうね?
あるエピソードをご紹介しましょう
これは、2014年4月に、『無事故を続けた新入社員』というタイトルでお届けした、人気エピソードです。
 
 
そのメーカーでは、新入社員は必ず配送ドライバーを経験することになっています。彼/彼女が、事務職希望であろうが、研究職希望であろうが、関係ありません。会社の製品が使われている現場を知ることが、その後の会社員人生において、とても大切だと考えられているからです。
 
ある新入社員がいました。
彼は、はた目から見てもどんくさかったそうです。
 
「なぜ、こんな人を採用したのか? 人事は何を考えているんだ!?」
 
彼を見た物流部部長は、ホンキでそう思ったそうです。
 
「最悪、人身事故さえ起こさなければいいか…」
 
配送ドライバーとして、彼を送り出す時、部長はこのように覚悟しました。
しかし、一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎ、半年が過ぎても、彼は商品事故も、配送事故も起こしません。お客様からの評判も上々です。
 
実は同社において、入社後半年間何も問題を起こさなかったドライバーというのは皆無。
劣等生のはずの彼は、その記録を塗り替えたのです。
 
いったい、どういうことなんだ??
 
不思議に思った部長は、ある日、彼のトラックに同乗することにしました。
 

「今日は俺が昼飯を奢るから。好きなもの食べていいぞ!」
「では、すごく不味いラーメン屋がありますので、そこで食べましょう」

 
ああ、こいつも冗談を言えるくらい、社会人として馴染んできたんだな。
彼の言葉を好意的に解釈した部長の想いは、見事に裏切られます。
 
彼に連れられて行ったラーメン屋は、ホントに不味かったそうです。
 
もしかして、俺に対する嫌がらせか!?
そう思った部長に、彼はこのように説明したそうです。
 

「僕は運転が下手くそなので…。僕の運転技術で、安全に駐車できるところって、あのラーメン屋くらいしかないんです」

 
味が災いしているのでしょう、確かにラーメン屋の駐車場は、その広さがもったいないくらいガランとしていました。
 
言われて、部長は気が付きました。
確かに、彼の行動はもったりとしていて、お世辞にも機敏とは言えません。
しかし、仕事ぶりはひとつひとつ丁寧であり、よくよく診れば、遅いなりに守るべきポイントはしっかりと抑えていたそうです。
 
 
このエピソードは、安全に対する考え方として、とても有益なヒントを含んでいます。
そして、教育について、とても重大なヒントも含んでいるのではないでしょうか?
 
 
皆さんの会社では、新たに仲間として加わる新人社員に対し、どういう人物になることを期待していますか?
 
倉庫作業員として、今行っている業務におけるプロフェッショナルになること。
事務員として、入出庫業務の全般を任せることができる、会社の窓口となること。
 
こういった、業務に強い具体的な人材像は、確かに必要です。
しかし、このような歯車的な人材育成は、大きな危険性をはらみます。
 
 
ある運送会社の役員から、こんな愚痴を聞いたことがあります。
 

「うちの配車マンさ、仕事断りまくっていたらしいんだよ…」

 
 
件の役員は、そのことをある仲間内の運送会社から教えられたそうです。役員が近くの運送会社を回り、「仕事ください」と頭を下げ続ける一方で、自分の部下がせっかく声掛けいただいた案件を断っていたとのこと。
役員からすれば、赤っ恥をかかされた状態。自ずと責める口調になった役員に対し、件の配車マンは答えたそうです。
 

「こなすことができる配車を組むことが、私の仕事です。売上?、利益??、それは私の仕事ですか?」

 
 
配車マンのミッションは、売上の原資たるトラックであり輸送をコントロールし、売上を確保、利益を生み出すことです。
「配車を組むことができる人」と、「配車マンとしての立場から、会社経営を共有できる人」は、実はまったく違います。
前者は機能だけを求められており、後者は会社の礎となることを求められているからです。
件の配車マンは、それを理解していなかったのでしょう。
 
 
教育、とりわけ新入社員教育に必要なものってなんでしょうね?
知識は必要です。しかし、もっと大切なことがあります。
 
「確かにトークは教えてもらいましたよ!! だけど、知らない人と話す勇気は教えてもらっていないです」
 
確かに、彼は甘えています。
しかし一方で、このように言われた時、私は知識偏重の研修を行っていた自分を反省しました。
私どもは、ついつい目先のハードルに囚われ、もっと大きくて大切なものを忘れがちです。
「不味いラーメン屋」に登場する彼は、安全が絶対正義であることを、ドライバーである自分自身のマインドとして理解、育んでいたから、不味いラーメンを昼食に食べ続けるという、自分なりの安全対策を自ら選ぶことができたのでしょう。
 
 
「将来は会社の経営を支える人材になって欲しい」
そう願うのであれば、社会や経済の仕組みを知識として与えた上で、会社の理念やビジョンをしっかりと教育すべきです。
 
「物流人として、業界で広く通用する人材になって欲しい」
そう願うのであれば、特定の職種や業務にとらわれず、知識はもとより物流マインドを育む教育であるべきです。
 
こと物流業界において考えれば、お客様への敬意、貨物に対する尊敬、安全に対する絶対的な価値観など、物流人としての礎となるマインドがあって、その上で会社員として必要な売上や利益に対する価値観があるべきでしょう。業務に対する知識は、これらのマインドの上にあるべきです。
知識ばかりで頭でっかちになり、礎となるマインドがあやふやだと、先に挙げた配車マンのように大切なことを見失ってしまいます。
 
 
知識を与えることは必要ですが、知識を与えるだけだったら、極論、それは学校に任せれば良いでしょう。
マインド、つまり社会人であり、業界人であり、その会社の会社人としての心持ちであったり、価値観となるものは、単純に教えられるものではありません。新人の中に種まきを行い、種が芽吹き、きちんと成長することをサポートすることが、企業における新人教育に求められるのではないでしょうか。
 
教育というのは難しいですね。
しかし、難しいからと言って、疎かにすることはできません。何より今の社会、人材ほど価値のあるものはないですから。
 
ともに、切磋琢磨しましょう!
 


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