秋元通信

もうフィクションじゃない? 現実に成りつつある「管理社会」の恐怖…

  • 2019.6.20

突然ですが、皆さんはアニメが好きですか?
筆者は年甲斐もなく大好きでして…、通勤の電車内では、スマホでアニメを観て過ごすことが多いです。
 
先日も、『ルパン三世 Part5』を観ていたら、「ヒトログ」なるものが登場しました。
これ、架空の巨大IT企業が開発したシステムで、SNSなどのネット上に存在する特定人物の行動履歴を元に、AIが行動分析を行なうことで、該当する人物の行動を先読みするというもの。
IT企業側は、犯罪抑止への効果を世界にアピールするため、ルパン三世の行動を解析すると発表します。さらに、「ヒトログ」を確認した一般大衆が、ルパン三世の行動を先読みし、隠れ家や逃亡先など現れ、ルパン三世の行動をSNSにアップし続けます。
宿敵である銭形警部だけでなく、言うなれば「ヒトログ」と「一般大衆」が警察化してしまったため、行動が丸裸にされたルパン三世は窮地に陥ります。
 
これは、『ルパン三世』作品なりに、管理社会の恐怖を描いたエピソードです。
同作に限らず、これまでも小説、映画、マンガ、アニメなど、さまざまな作品で、管理社会の恐怖は取り上げられてきました。
 
今回はいつもの秋元通信とは毛色を変えて、時代を変えて描かれてきた、フィクションにおける管理社会と、テクノロジーの進化によって現実のものとなりつつある管理社会を比較しつつ考えてみましょう。
 
 

管理社会を描いた名作『1984年』

 
管理社会の恐怖について描かれたフィクションと言えば、1949年に発刊されたジョージ・オーウェル著『1984年』は外せません。
本作は映画化もされ、またその基本フレームをモチーフに、『未来世紀ブラジル』という別の映画も生み出しています。
 
『1984年』について、そのあらすじをご紹介しましょう。
 

舞台は、架空の大国です。
1984年を迎えたその大国では、体制を強化し万全なものとするため、「テレスクリーン」と呼ばれる双方向テレビでありカメラが国民の生活を監視しています。
主人公は、真理省の役人です。
真理省は、国民の思想や言論を統制し、また過去の歴史を国家によって都合の良いものに改ざんする役所です。
例えば、主人公は「自由」という言葉を抹消します。
あらゆる媒体から「自由」という言葉を亡き者にすることで、「自由」という概念そのものを殺してしまうわけです。
 
ところが、主人公はあるきっかっけから国家であり体制を裏切る、「自由に思想する」という行為に手を染めていきます。
秘めたる行為は、主人公に生きがいとささやかな幸せをもたらしますが…

 
 
『1984年』は、共産主義や全体主義に対する批判シンボルのひとつとして、しばしば議論されます。
確かに、旧ソ連、もしくは現在の中国等でも、言論統制が行われてきました。
 
しかし、最近のフィクションにおいては、テクノロジーの進化が、新たな形での管理社会を予言しています。
 
 

犯罪者予備軍をITが取り締まる 『PSYCHO-PASS』

 
『PSYCHO-PASS』(サイコパス)という、日本のアニメ作品があります。2012年に公開された同作の舞台は、2112年の近未来です。
 
その世界では、「シビュラシステム」なるものが社会を見かけ上の平穏を保つ役割を果たしています。
「シビュラシステム」とは、人の性格や行動、心理状態をもとに、犯罪を犯す可能性を数値化するシステムです。この値は「PSYCHO-PASS」と呼ばれています。
「PSYCHO-PASS」は、ストレスなどによって増大してしまいます。
この世界での警察は、犯罪を犯した者を取り締まるのでなく、「PSYCHO-PASS」が悪化した者、つまり犯罪を犯す可能性があると見なされた者を逮捕し、社会的に隔離することを主な業務としています。
 
気持ち悪いですね…
 
作品中では、それまで普通の生活を送っていた主人公の友人が、ふとしたストレスから「PSYCHO-PASS」を悪化させ、警察に連行されるシーンが登場します。
健全過ぎる社会を維持するため、異物を容赦なしに排除する描写には、本能的な嫌悪と恐怖を感じます。
 
 
『ルパン三世 Part5』における「ヒトログ」も、『PSYCHO-PASS』も、管理社会の恐怖を描いたものです。
しかし、管理社会の目的と手段は、『1984年』の世界とは異なっています。
 
「共産主義」対「民主主義」の対立構造が存在した20世紀に創作された、『1984年』で描かれる管理社会では、目的は国家体制の強化です。国家が、国家や社会体制に対して批判的な思想を持つ国民に対し、思想、行動などに対し圧力を加えることで統制しようという考え方が主流でした。
 
対して、最近創作された『ルパン三世 Part5』にしても、『PSYCHO-PASS』にしても、描かれる管理社会の目的は、犯罪対策です。そして手段は、ITツールです。
 
 

現実社会では、ITツールによる監視技術に歯止めをかける動きも…!

 
「サンフランシスコ市、顔認証技術の使用を禁止へ」
https://www.bbc.com/japanese/48276999
 
これはフィクションの話ではありません。
つい先日成立した、サンフランシスコ市の条例です。
 
報道によれば、これは公共機関がカメラを用いて顔認証、つまり特定の個人を特定することを禁じたものです。
本条例に関しては、市民のプライバシーを守る観点から評価される一方、防犯などの観点から批判する声もあるそうです。
 
『PSYCHO-PASS』に描かれた世界は、決して夢物語ではありません。
街なかにいる人々の状態をカメラで監視し、その心理状態をAIによって測定し、犯罪を引き起こしそうな人を予め感知する試みは、すでに研究されています。
 
また、『ルパン三世 Part5』で描かれた「ヒトログ」も夢物語ではありません。
本作で描かれた架空の巨大IT企業は、明らかにGoogleを意識したものです。そしてGoogleは、実際に「ヒトログ」につながるような技術を備え始めています。
 
 

Googleが目指すのは、『検索することがない社会』

 
ところで、Googleの究極的な目標ってご存知ですか?
それは、「検索させないこと」。
 
検索エンジンから始まったGoogleが、あえて「検索させないこと」ってどういうことでしょう?
解説しましょう。
 
例えば、Android端末を持っていると、さまざまなメッセージが表示されます(※設定状況によって表示は異なりますが)。
 

「次の予定に向かうためには、*時*分に出発しましょう」
「明日は雨の予定です」
「*さんの好みに合いそうなお店をご紹介します」

 
例えば、飛行機やホテルを予約すると、自動的にGoogleカレンダーに予約が反映されることがあります。これは、予約完了メールをGmailが検知し、カレンダーに自動反映されています。
Googleマップを見れば、予約したホテル、予約した居酒屋などが表示されます。
外出先では、最寄り駅の時刻表が表示される経験をしたことがある人もいるでしょう。
 
 
「検索させないこと」とは、ユーザー行動を予測し、ユーザーが求める情報を「ほら、あなたが欲しい情報は、これじゃないですか?」と先読みすることです。
 
気が利いている?、それとも気持ち悪い?
感じ方は人それぞれですが、現実的にGoogleは、それを実現できるだけの情報を、着々と蓄積しつつあります。
 
 
『1984年』で描かれた世界はフィクションです。
ここで言うフィクションとは、創作であるという意味でのフィクションと、そして現実になるには主に技術的な課題があるという意味でのフィクションでした。
ところが、ルパン三世で描かれた「ヒトログ」は、すぐにでも実現可能そうな不気味さがあります。
 
テクノロジーが進化し、人々の生活が豊かになるほど、そのテクノロジーを正しく使わなければなりません。この例で、よく引き合いに出されるのは原子力ですね。
倫理観が伴わず、テクノロジーだけが進化することの恐怖という意味で、原子力は格好の事例だと、私は思うのですが…
 
 
ところで、『PSYCHO-PASS』の「シビュラシステム」のような極端なものではなくとも、カメラをセンサーとして、人間の健康状態などを定量的に判断しようというテクノロジーは驚くような進化を続けています。
その中には、私ども物流業界にとっても、とても役立つ技術が現実のものになりつつあります。
 
近々、これは取材してお届けする予定です。
 
お楽しみに!
 
 
 
 


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