秋元通信

「お疲れさまです」を目上の方に使ってもいい?/正しい日本語を考える

  • 2019.8.9

“最近でも、「目上の人に対して、『お疲れさま』とはいかがなものか!?」と、タモリさんが問題提起して話題になりました”
 
6月にお届けした『あいさつのチカラ』では、このように触れておきながら、では使ってよいのか、それともダメなのか、その点については、触れておりませんでした。
 
 
「お疲れさま」問題に限らず、読者の皆さまも、「あれ、この表現は良いのかな?」と文章を書きつつ迷うこともあるでしょう。
また、せっかく書いたレポートやら文章なのに、先輩や上司からダメ出しをもらって落ち込んだこともあるのではないでしょうか。
 
今回は、「お疲れさま」を考えつつ、正しい日本語とは何かを考えてみましょう。
 
 

結論から言えば、「お疲れさまです(でした)」は目上の方に使っても良い!…らしい

 
結論から言えば、「お疲れさまです」は、上司や先輩など、目上の方に使っても問題がなさそうです。
 

  • 立場が下の人が、目上の方をねぎらうことは、何ら失礼に当たらない。
  • 目上の方から、立場が下の方に対するねぎらいの表現としては、古来より「大儀であった」という言葉がある。一方で、「お疲れさま」は「大儀であった」と違い、使い方を制限される言葉ではない。
  • 「ご苦労さま」は、目下の者が、目上の方に対して使ってはいけない。
    苦労をねぎらうのは、目上の者が目下に対して行うこと。逆はNG。

いろいろと調べてみると、こんなことらしいのですが。
私としては、どこかこじつけが過ぎる気がしてなりません。
 
 

「下さい」と「ください」、どっちが正しい?

 

「問題点を話して下さい」
「問題点を話してください」

 
さて、正しいのはどちらの表現でしょうか?
 
内閣訓令第1号「公用文における漢字使用等について」(平成22年11月30日)内では、このように書かれています。
 

「次のような語句を、( )の中で示した例のように用いる時は、原則として。仮名で書く。
・・・・てください(問題点を話してください)」

 
同訓令では、同様に「頂きます」ではなく「いただきます」と仮名にひらくように書かれています。
 
私がライターとして学び始めた頃は、まず公用文の用例を学び、次に全国紙新聞社における用例辞書を学びました。
したがって、「下さい」なんて書いた日には、先輩に随分と嫌味を言われたものです。
「ください」「いただきます」、そして「いたします」(致します)は、仮名で表現すべきと叩き込まれました。
 
ところが、平成22年11月30日版の内閣訓示第1号では、「ください」「いただきます」は記載があるものの、「いたします」はありません。それ以前に公用文における用例を定めた、昭和56年版では確かに書かれていたはずなのですが。(入手できなくなっているようで、確認が取れませんけれども)
 
「いたします/致します」はともかく、例えばTVのテロップなどでも、「下さい」という表記が日常的に行われています。紙、Webを問わず、多くのメディアでも、「下さい」は多用されています。
 
これは、すべて間違いなのでしょうか?
 
 

言葉は変わるもの

 
例えば、1997年に発刊されたある本では、日本語における誤用の例として、「お米を洗う」が挙げられています。同書における正解は、「お米を研ぐ」。
 

『米粒と米粒をすり合わせるようにしないと、糠が取れず美味しくない。だから、米は研ぐのだ』と同書では主張しています。

 
しかし、現在では、米は優しく洗うものとされています。
現在の品種は柔らかいため、強くすり合わせると割れてしまうんだとか。
 
「いたします/致します」についても、現在ではどちらでもOKと言えます。
少なくとも、公用文では許されているわけですから。
(注:漢字で書ける言葉を、ひらがなで書くのは、原則として間違いではありません。勘違いされがちですが)
 
言葉は、時代とともに変わるものです。そして増えていきます。
「バズる」とか、「インスタ映え」なんて言葉は、以前はなかったわけですし。
 
個人的には、言葉が変わっていくのは、少し寂し気もしますが、これは仕方ないことなのでしょう。
 
 

正しい文章とは、「伝わる文章」のことである

 
小説家でもあり、文学者でもある高橋源一郎氏が、興味深いことをおっしゃっています。
 

「正しい文章が必要なのは、『伝わらない』からだ」

 
たしかにその通りです。
この文脈から鑑みれば、「ください」だろうが「下さい」だろうが、その違いで「伝わらない」ことはないでしょう。文意が誤解されることもないでしょう。
 
私の感覚としては、こういった用例に関しては、以前よりもずいぶんと緩やかになった気がしています。プロの編集の方が行う校正のポイントも、昔とは変わってきていると感じます。
 
ただ、「伝わるかどうか」については、変わらず大切にされています。
逆に言えば、「伝わる」ことに直接関係がない要素については、寛容になりつつあるのかもしれません。
 
「お疲れさま」は、相手をいたわる気持ち、ねぎらう気持ちから発する言葉です。
大切なのは、気持ちが相手に伝わるかどうかでしょう。
もし、後輩や部下から「お疲れさまでした」と言われ、ムッとしてしまう方がいるとしたら、それは日本語における用例の問題ではなく、当人のメンタリティのような気がします。
 
日本語は、おもしろいですね。そして、美しいです。
例えば、「僕」、「ぼく」、「ボク」のどれを一人称として使うのか。意味は同じでも、相手に伝わる印象は変わります。
 
その複雑さゆえに、こうして悩まされることも多いですけれども…
 
 
 

参考及び出典

 
「あなたの日本語ここが間違い! : 知らずに使っていた自分が恥ずかしい(Kawade夢文庫)」 日本語倶楽部 編
河出書房新社 1997.1
 
「日本語間違い探し」 日本語力検定委員会 編
彩図社 2019.3
 
「間違いだらけの文章教室」 高橋源一郎
朝日新聞出版  2019.4


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