昨年秋くらいから、ゴーストライターの仕事を、いくつか頂戴しています。今までもWeb媒体でのゴーストライターは経験していましたが、本一冊まるまるゴーストライターを担った経験は初めてのこと。
既に、RPA本と、筋トレ本が出版されているのは、以前お伝えしたとおりです。
今回は、ゴーストライターを通じて私が感じた、下積み経験の大切さを考えましょう。
「新宿鮫」シリーズ、「佐久間公」シリーズなどを代表作とする小説家、大沢在昌氏が、自身の小説が、アニメ化、映画化された時に感じたことを、なにかのエッセイで読んだことがあります。
氏は、確か小説と映像作品との情報量の多さ、違いを再認識した、といったことを述べていらっしゃいました。
小説であれば、「男が歩いている」と一言書けば終わるところを、映像作品では周りの風景、男の風体、歩き方、他の通行人の存在など、すべてを描く必要があります。
私がゴーストライターの仕事をしている時に思い出したのが、このエピソードでした。
「ゴーストライターって、まさしくこういう仕事だなぁ」と…
ゴーストライターである私は、編集者と一緒に、著者(もしくは監修者)から話を聞くわけです。率直に言えば、私はゴーストライターとは、口述筆記に近いものであったり、口語を文章に変換(校正)する仕事だと想像していたのですが、実態はまるで違いました。
多くの場合、著者が発する言葉には、情報量が足りていません。
それを補填し、エビデンスと説得力を加えて、文章を伝わるものにするのが、ゴーストライターの仕事です。
例えば、「猫はカワイイ」と著者が言ったとします。
著者は、「猫がカワイイ」のは当たり前だと思っているので、「猫はカワイイ。だから…」と次の主張に移ってしまうのですが、ゴーストライターは、この「猫はカワイイ」を世間が納得するように、本としての説得力が増すように、情報を足すわけです。
猫をカワイイと感じる感情に、なにか科学的なエビデンスは存在するのか?
ペットマーケットにおいて、猫の取引数は伸びているのか?
例えば、Youtubeにおける猫の動画再生回数を調べてみると、「ほら、世間は猫をカワイイと持っている人が多いですよ!」ということの説得材料にならないか?
著者の主張に対し、文章や図表を用いて、どのように「伝わるチカラ」を加えていくのか。
これがゴーストライターの仕事ですね。
これって、私が過去行ってきた事業企画の仕事と、まったく同じです。
むしろ、事業企画系の仕事をしてきたことが、ゴーストライターの仕事に大きく役に立っています。
事業企画の仕事は、アイデアをビジネスとして成立させていくことです。
会社が「◯◯をビジネスにするぞ!」と言った時に、それを実現するためのありとあらゆる準備を行い、実現させなければなりません。
30歳くらいの頃、私は、代理店事業の立ち上げに携わったことがあります。
事業企画書から損益シミュレーション、代理店向け/メーカー向けのプレゼンテーション資料、代理店契約書、候補リストの作成まで、ありとあらゆるものを作成しました。
中でもしんどかったのが、プレゼンテーション資料の作成でした。
役員が撒き散らす(とあえて言いましょう)、とりとめのないビジョンや方策を、ひとつひとつ拾い集め、プレゼンテーション資料にまとめます。ところが、それを見せると「いや、俺が言いたいことは違うんだよ!」と、ダメ出しされるわけですよ。
遅くまで残業をして作成した資料に、「そうじゃない!」と言われ、また残業して資料を作成。それでもダメ出しされれば、「言ってること、変わっちゃってるし…」と、私もイライラします。
ところが、事業企画の仕事を続け、毎回資料を作成している時に、ふと気が付きました。
「上司の言うことが変わるのは、私が作成した資料から気づきを得ているからだ」と。
言われた内容だけを文書にするのではなく、「伝わるチカラ」を加えるために、エビデンスや説得材料を足していたら、上司が自分の主張の弱さに気が付くようになっていたわけです。
このことに気づいてから、私の作成する資料は、次第に社内外から大きな評価をもらえるようになっていました。
以前お届けした記事です。
記事中には、「下積み時間もったいない」と断言する20代の女性が登場します。
私は、下積みを無駄と切り捨てる発想こそ、もったいないと思います。
下積みを無駄にするも、良き経験とすることも、本人の取り組み次第ではないでしょうか。
何が将来に役立つ経験となるかは、即断的な目線では判断がつかず、数年後、数十年後に気づくことも多いと、私は考えます。
話がもとに戻りますが。
ゴーストライターって、もっと気楽なものだと思っていましたが、まったくそんなことはありませんでしたね(笑
これも、ひとつの下積みです。
次のステップを目論みながら、今与えられたチャンスを楽しんでいきたいと思います。