秋元通信

腸内細菌が、うつをもたらす??

  • 2019.9.30

皆さまの腸内は、きれいですか?
 
「何を突然!?」と思う方もいるかもしれませんね(笑
 
人間の腸内には、約3万種類、100兆~1000兆個の腸内細菌が生息していると言われています。腸内細菌のバランスが崩れると、下痢や便秘、肌荒れなどに、健康にも悪影響を与えることは、よく知られていますが、最新の研究では、うつや自閉症にも、腸内細菌の影響があることが分かってきました。
 
さっそく、その驚きの研究内容をご紹介しましょう。
 
 

うつ病マウスに、プロバイオティクスを与えてみると…

 
動物において、母親と子供を出産直後から引き離して生活させると、引き離された子供が大人になった際に、人間における不安障害やうつ病のような行動をすることが知られています。
 
実験では、幼いマウスの子供を母親から引き離し、人為的にうつ病のマウスを生み出しました(ちょっとかわいそうですね…)。
生み出されたうつ病マウスに対し、プロバイオティクスを投与、腸内環境の改善を図ったところ、うつ病行動に改善が見られたそうです。
 
 
人間においても、腸内環境の改善が、うつ病の改善につながった研究事例が報告されています。
古くは、1910年。メランコリー親和型うつ病※の患者18名に対し、乳酸菌を与えたところ、11名が回復(治癒)、2名が改善したという報告があります。
 
※「メランコリー親和型」とは
うつ病になりやすい性格のことを、「メランコリー親和型性格」といい、秩序やルールに忠実であり、非常に献身的であり、頼まれると嫌と言えない、真面目、仕事熱心である、責任感が強いなどの特徴を持つ。
 
 

プロバイオティクスとプレバイオティクス

 
乳酸菌など、「宿主に有益に働く生きた細菌(=有用菌)によって構成される添加物」をプロバイオティクスと呼びます。
プロバイオティクスには、乳酸菌の他、ビフィズス菌、納豆菌やヨーグルトなどの発酵乳なども、プロバイオティクスに分類されます。
 
なお、似たような言葉で、プレバイオティクスもあります。
プレバイオティクスとは、「大腸に常在する有用菌を増殖させるか、あるいは有害な細菌の増殖を抑制することで宿主に有益な効果をもたらす難消化性食品成分」のことであり、オリゴ糖類や抵抗性デンプン、食物繊維などのこと。
 
プロバイオティクスとプレバイオティクス。
このふたつは、うつ病や自閉症などに効果があることが分かってきたのです。
 
 

自閉症と腸内環境の相関性

 
心身症を患う方々の中には、同時に過敏性腸症候群や、慢性疲労症候群などの消化器症状を伴う方が多いことが分かっています。
自閉症(自閉症スペクトラム障害)の子供においては、23~70%(※研究によって異なる)が、腹痛、腹部膨張感、便秘、下痢、嘔吐、嚥下困難などの消化器症状が持っているとされます。さらに、消化器症状を持つASD児においては、持たないASD児よりも不安、攻撃性、自傷行動といった問題行動が強くなる傾向も知られています。
 
 
うつ病や自閉症などの患者の腸内を確認すると、身体に悪い影響をもたらす毒素などを生み出す腸内細菌が存在、もしくは多いことが観察されています。
 
誤解を恐れずにまとめれば、悪い腸内細菌を駆除して、良い腸内細菌を増やせば、心身症が改善される可能性があります。
 
目論みは当たりました。
 
ある研究では、ASD児に対し、プロバイオティクスやプレバイオティクスを投与し、同時に腸の細菌移植を行いました。
腸の細菌移植とは、ごく単純に言えば、健康な人の便を、患者の腸に移植することです。この実験では、抗生物質を用いて腸内を浄化した後、便による腸内細菌移植を行いました。
 
結果は目覚ましいものでした。
実験対象児18名の8割において、消化器症状が消失し、自閉症の行動異常も改善が見られたそうです。また、その効果は腸内細菌移植の8週間後に行われた追跡調査でも継続していたとのことです。
 
 

「漏れる腸」が、うつ病や自閉症を引き起こす

 
では、なぜ腸内環境を改善すると、うつ病や自閉症が改善されるのでしょうか。
 

  1. 腸内環境が悪化すると、腸管の透過性が増加(※腸の透過性亢進)、腸から血中に取り込まれる細菌が増加する。
  2. その結果、炎症性サイトカインと呼ばれる、炎症反応を引き起こすタンパク質の血中濃度が増加する。
  3. 炎症性サイトカインによって、脳の一部が損傷して、自閉症やうつ病などを引き起こす。

これが、現在考えられている、腸内環境と心身症を関連付けるメカニズムです。
逆に言えば、腸内環境を改善すれば、「漏れる腸」(※腸の透過性亢進)を改善し、心身症を改善すると考えられています。
 
 

まだ研究半ばにある「脳腸相関」と腸内細菌

 
皆さんも、緊張しすぎてお腹が痛くなったこと、ありませんか?
これは、脳が自律神経を介して、胃腸にストレス信号を発することが原因であると考えられます。
このように、生き物にとって重要な器官である脳と腸は、お互いに影響を及ぼすことが分かっています。これを、「脳腸相関」と呼びます。
 
腸内細菌がうつ病や自閉症につながるというのも、脳腸相関のひとつでしょう。
しかし、この関係はまだ研究半ばであり、まだそのメカニズムがはっきりと解明されたわけではありません。
 
前述のとおり、人間の腸にはおよそ3万種類の腸内細菌がいます。
「どの腸内細菌が、心身症の犯人(原因)なのか?」、これは特定できていません。容疑者は何人か挙がっていますが、真犯人を特定できていない状態なのです。
 
なにせ、3万種類、100兆を超える腸内細菌から犯人を探すわけですから、おいそれと見つかりません。
さらに言えば、A+Bといった、特定の細菌における組み合わせが、心身症を引き起こしている可能性もあります。脳腸相関の究明には、さらなる研究が求められます。
 
 

脳内細菌は、うつ病の原因なのか?

 
子供の腸内細菌叢は、胎生期における母親の食事、抗生物質の使用歴、自然分娩か帝王切開か、母乳を与えられたかどうかなどによって変化することが分かっています。
 
また、腸内細菌は、今回取り上げたうつ病や自閉症などの心身症だけでなく、アトピー性皮膚炎やアレルギー症状などにも影響を与えることが分かってきました。
 
これを申し上げると、「帝王切開をすると、うつ病の子供が生まれるの!?」と勘違いする方がいるかも知れませんが、それは違います。
 
心身症の方々の中には、消化器症状を持つ方が多いのは事実ですが、逆が成り立つわけではありません。つまり、消化器症状がある方が、全員うつ病になるわけではありません。
腸内細菌叢の状態と心身症に関連性はあるものの、腸内細菌が心身症を発症するただひとつの原因ではないことを留意しなければなりません(将来研究が進むと、心身症の直接的な原因となる細菌が見つかる可能性は、ゼロとは断言できませんが)。
 
 
これは私見ですが。
 
例えば、うつ病の人を指して、「あの人は心が弱いから…」と断定的に決めつける考え方は、残念ながら存在します。
自閉症の子供を持つ親が、「私たちの育て方が悪かったから、子供が自閉症になったのだろう」と自責の念に苦しむケースもあるでしょう。
 
うつ病や自閉症は、心の強さや育児方法とは無関係な、腸内細菌という別な要因が作用し、状況・症状を悪化させている可能性が広く知られることで、救われる人もいるのではないでしょうか。
 
以前秋元通信でも取り上げた正常性バイアスは、本能が最善の判断を狂わす一例です。
人間って、たぶん自分が考えているほど、自分の意思や行動を、知性や理性でコントロールできていないのでしょう。
それを知ることで、いくぶんなりとも他人に優しくなれる気が、私はするのですが…
 
 
 

お断り

 
本文中にも触れたように、脳腸関係、そして消化器症状と心身症との関係は、まだ研究半ばの状態にあります。
また、記事中では分かりやすく伝えるために、専門用語などを使用しないようにしています。
本記事は、医学的なエビデンスや治療方法を伝えるものではありません。治療方法などは、専門医にご相談の上、ご判断ください。
 
 

出典・参考

 
腸内細菌 (Wikipedia)
 
腸脳相関 (ヤクルト中央研究所)
 
「腸内細菌とうつ病 (特集 菌叢と宿主のクロストーク : 腸内細菌研究の最前線と,精神科領域における今後の展望)」
真田 建史
日本生物学的精神医学会誌 = Japanese journal of biological psychiatry  2019.6
 
「うつ病・自閉症と腸内細菌叢 (特集 脳神経系と腸内細菌叢Microbiota)」
功刀 浩
腸内細菌学雑誌 / 日本ビフィズス菌センター 2018.1


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