秋元通信

PDCAを超えるのか? 注目のOODAループとは

  • 2020.4.28


 
 
 
前回、想定外で予測不可能な現代の状況を表すキーワード『VUCA』をご紹介しました。
 
『予測不可能な現代を表すキーワード「VUCA」とは』
 
 
では、予測不可能な現代、どのように物事を進めれば良いのでしょうか。
今回は、VUCAの時代に適切なフレームワークとして注目を集める、『OODAループ』(ウーダと読むこともあります)をご紹介しましょう。
 
 
 

VUCAの時代に必要なOODAループ

 
VUCAの時代では、綿密に計画を立てて、その計画にそって行動し…、なんて悠長なことはやっていられません。
計画を立てたところで、その計画の前提となっていたマーケットや社会情勢が変わってしまうことがあるからです。
 
 
そこで注目されたのが、OODAループです。
OODAループは、「観察(Observe)」、「情勢への適応(Orient)」、「意思決定(Decide)」、「行動(Act)」という4つのステップの頭文字を取ったものです。
この4つのステップを、ループ状に回すことで、VUCAの時代にも対応ができるようになります。
 
 
・「観察(Observe)」
周囲の状況を観察します。
お客様の状況、競合他社の動向、マーケットの情勢などを、適切に観察します。
ここでは、色眼鏡をかけることなく、公正かつ公平に観察することが求められます。
 
 
・「情勢への適応(Orient)」
「観察(Observe)」で得たデータを元に、状況判断を実施します。
得たデータを元に、分析を行い、あなたのこれまでの経験や知見なども踏まえ、状況判断を行います。
なお、複数の意思決定者がいる場合には、複数の、しかも対立する状況判断が導き出されるケースもあります。この場合、最悪意見が対立し、次のステップに進むことができなくなるケースもあります。
OODAループにおいては、もっとも重要なステップです。
 
 
・「意思決定(Decide)」
「情勢への適応(Orient)」によって得た状況(分析結果)をもとに、「何を行うのか」意思決定を行います。
 
 
・「行動(Act)」
「意思決定(Decide)」で決定した内容を行動に移すステップです。
「行動(Act)」ステップでは、行動を起こしながら、その行動が最適であったのかどうかを考察します。OODAループでもっとも大切なのは、「情勢への適応(Orient)」ですから、「情勢への適応(Orient)」が適切であったのかを考えながら、「行動(Act)」するわけです。
 
 
そして、「行動(ACT)」の結果を鑑み、次の「観察(Observe)」、つまり2回目以降のOODAループを回します。
 
ここまでの説明を読み、「これってPDCAに似てるよね?」と気がついた方もいらっしゃることでしょう。
そうです、OODAループは、PDCAの「Plan」→「Do」→「Check」→「Act」の各ステップが、置き換わったものです。
 
ただし、PDCAと違う点もあります。
それは、OODAの場合、ループを回しながら、ステップの順番が変わることがある点です。
例えば、「意思決定(Decide)」や「行動(Act)」から、「観察(Observe)」を飛ばし、「情勢への適応(Orient)」に移るケースもあります。
 
これは、OODAループが生まれた背景に所以します。
 
 
 

戦場から生まれたOODAループ

 
OODAループは、朝鮮戦争で生まれました。
生みだしたのは、アメリカ空軍の大佐であったジョン・ボイド氏です。
 
朝鮮戦争において活躍した米軍のF-86戦闘機は、敵対するソ連軍および中国軍はMiG-15戦闘機に比べ、加速・上昇・旋回性能のいずれも劣っていました。
ところが、いざ空中戦になると、F-86の方が圧倒的に強く、キル・レシオ(撃墜・被撃墜の率)は、ほぼ10対1になったそうです。
 
何故か?
自身もF-86を操縦し、MiG-15と交戦したジョン・ボイド氏は、操縦士の意思決定速度の差が戦績の要因であったと分析しました。
F-86は、MiG-15に比べるとコックピットの視界が広く、また操縦も容易であったため、より早く敵機を発見し、より早く交戦行動に入れたからです。
 
つまり、「観察(Observe)」から「情勢への適応(Orient)」を行い、「意思決定(Decide)」をするまでのスピードが違ったということです。
 
OODAループは、ジョン・ボイド氏が、パイロットの意思決定プロセスを一般化したものです。
 
意思決定が遅ければ、逆に相手に撃墜される危険もあります。
そのため、ループの順番にこだわらず、都度適切なステップへと移行する柔軟な運用が求められたわけです。
 
 
 

PDCAとの違い

 
PDCAについて、おさらいしておきましょう。
前述のとおり、PDCAとは、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の頭文字をとったものです。
 
計画(Plan)を立てたら、その計画にそって実行(Do)します。
実行した結果について、評価(Check)が終わったら、評価結果に基づき、改善(Act)案を導き、次の計画(Plan)へ反映します。
このPDCAサイクルを何度も繰り返しながら、目標に向かって、一歩一歩業務を改善していくのが、PDCAです。
 
 
PDCAは、計画立案から始まります。
もっと言えば、その前に、達成しなければならない目標、改善しなければならない業務などのターゲットがあるわけですが…、そこは本記事の議論から外しておきましょう。
 
実際にPDCAに基づいて、プロジェクトを進行した経験がある方には分かると思いますが、PDCAは手間がかかります。また、時間も掛かります。
PDCAを行おうと思ったものの、最初の計画(Plan)立案で疲れてしまった…、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 
 
対して、OODAが求めるのは瞬発力を伴った対応力であり判断力です。
先に申し上げたとおり、OODAは戦争の現場から生まれたフレームワークです。戦場で判断を下すのに時間が掛かっていたら、命がいくつもあっても足りません。
 
瞬時に相手を観察(Observe)し、状況判断(Orient)を行います。そして、今後の行動を決定(Decide)し、それを実行(Act)に移します。
 
PDCAのように、時間と手間を掛けることは、OODAでは許されないのです。
 
 
 

OODAは、PDCAよりも優れているのか?

 
このように論じてくると、PDCAよりも、OODAの方が優れている、もしくは現代にはマッチしていると考える人もいることでしょう。
 
PDCA、OODA、どちらが優れているのかは、議論があります。
いろいろな方が意見を戦わせています。
 
なので、ここから先は、筆者の私見が含まれていることを、ご承知願います。
 
 
OODAは、良い方向に作用すれば臨機応変ですが、悪い方向に作用すれば、いきあたりばったりです。
 
臨機応変となるか、それともいきあたりばったりとなるかは、判断と行動、そして行動が導いた結果に、筋が通っているかどうかです。
そして、筋が通っているかどうかは、企業の理念やビジョン、経営戦略等を踏襲しているか否かで、判断されます。
 
このあたりの話は、前回記事「予測不可能な現代を表すキーワード『VUCA』とは」で議論したところですので、割愛しましょう。
 
 
OODAの肝は、ふたつ目の「O」、すなわち状況判断(Orient)にあります。
ここでは、企業に属する社員たちが、OODAを行う前提でお話ししますが。
 
あなたの会社の社員たちは、適切な状況判断を行うことができるでしょうか。
また、その状況判断は、あなたの会社の理念やビジョン、経営戦略を、的確かつ適切に反映したものとなりうるでしょうか。
 
 
企業において、OODAの実践を考えた時、スキルの低い人に、OODAの実践を任せるべきではありません。
OODAを実践するためには、極論、経営者や部門長などと同じレベルの視野と思考を持つ人材が必要です。すなわち、OODAの実践には、優れた人材の確保と、優れた人材を育成するための教育カリキュラムが必要です。
 
 
対して、PDCAは、極論、新入社員にも課すことができます。
言い方を変えれば、新入社員を筆頭とする、教育レベル/人材育成レベルが不十分なメンバーに対しても、適切な業務改善を行うことができるのが、PDCAなのです。
 
 
このように考えると、PDCAとOODAは、まるで違うものであることが分かります。
 
PDCAは、プロジェクト進行を行うためのフレームワークですが、OODAは、思考プロセスを一般化したものなのですから。確かに、形は似ていますが、中身、目的はまるで違うわけですね。
 
 
では、OODAは、企業にとってどのように捉えれば(もしくは活用すれば)良いのでしょうか。
 
経営判断レベルでのOODAは、ここでは議論しないでおきますが。
 
OODAは、人材教育のツールであり、ターゲットとして捉えるのが適切ではないでしょうか。
 
繰り返しになりますが、OODAは、戦争の現場で生まれたものです。
極限の状態で、もっとも早く、もっとも適切な結果を得るためには、とても優秀な思考プロセスです。
 
例えば、人材教育の場において、OODAを繰り返しシミュレーションさせることで、論理的かつOODAに則った思考プロセスを身につけることができるでしょう。
 
BCP対策として、OODAに則り、観察、状況判断のポイントを定めておけば、組織間の連携や、上長の判断を仰ぐことができない状況下でも、自律的に組織、各社員が、適切な行動を取ることができるでしょう。
 
昇進試験のひとつとして、OODAの実践ができるかどうか、適切な行動が取れるかどうかを、評価基準にすることもできそうです。
 
 
OODAは、一見華々しく、そして優秀なフレームワークに見えます。
実際、世間では、「PDCAよりもOODAの方が優れている」といった論調も、決して少なくはありません。しかし、私はそうは思いません。
 
しょせん、PDCAもOODAも道具のひとつでしかないわけですから。
持っている道具は多いほうが有利です。しかし、使い所を間違うと、道具の良さは失われてしまいます。
 
 
本記事が、OODAを知り、適切かつ有効に活用していただくきっかけになれば、とても嬉しいです。
 
 
 

参考・出典

 
『OODA』(Wikipedia)
 
 
 なお、OODA、PDCAの「A」は、「act」であって「action」ではありません。
 これは、「action」が、主に連続した行動を表すのに対し、「act」は、単発の行為を示すからです。
 OODA、PDCAで導かれる「act」は、いずれも単発の行為です。単発の行為(act)が連なることによって、連続した行動(action)になることはあっても、逆はないです。

 名の通ったコンサルタントでも、間違えている方、いらっしゃいますけど。

 
 
 


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