秋元通信

提案型営業が、営業マンにもたらすもの

  • 2020.9.30

かつて、私は携帯電話を量販店に卸す代理店に勤めていました。
 
ある時、私は担当しているディスカウントストアの営業部長から、「この秋商戦に、ぜひ協力して欲しい」と言われました。
そこで、私は上司とも相談し、ほぼ仕入値に近い、競合他社を圧倒できる安売り価格を提案しました。
 
絶対の自信があったわけですよ、私には。
当然です。
だって、他の営業からは、「その価格でやられたら、俺の(私の)担当量販の売上が下がるぞ! ふざけるな!!」とブーイングを浴びながら、社内で勝ち取った安売り価格なので。
これで、お客様である営業部長も、きっと喜んでもらえるだろうと、いそいそと商談に向いました。
 
ところが…
自信を持って提出した価格表に、件の営業部長は、ニコリともしてくれませんでした。
険しい顔で、価格表を突き返してきたのです。
 

「この価格表を受け入れるわけにはいきません。再考してください」

 
まさか、これ以上の条件を出してこいというのか…
私は青ざめました。
 
すると、私の内心を見透かした営業部長は、こう言ったのです。
 

「この提案には、あなたがいません。私は、あなたの気持ちが入った提案が欲しいのです」

 
 
提案型営業という言葉があります。
御用聞き営業とか、押しの強い売り込み型の営業に対するアンチテーゼとして、提案型営業は取り上げられることが多いようです。
 
今回は提案型営業について、あらためて考えつつつ、提案型営業を実践する営業マンにとって、提案型営業がもたらすメリットについても考えましょう。
 
 
 

提案型営業とは

 
御用聞き営業とは、馴染みのお客様を定期的に訪問し、「何かご用命はありますか?」と自社製品ないしサービスに対するニーズをヒアリングする営業手法を指します。
 
対して、提案型営業とは、お客様の状況を分析し、お客様の課題解決に対し、自社製品/サービスを用いて解決する方法を提案する営業手法を指します。
 
提案型営業に対し、旧来の営業手法は、製品/サービスの取り引きによって得られる利益を、売り手と買い手の双方が交換するものでした。これを、仮に利益交換型営業と呼びます。
利益交換型営業では、買い手(お客様)は、ある製品/サービスを購入することによって、自社の利益を満たします。
 
例えば、それがコピー機であれば、事務業務の生産性向上などの利益を得ます。
例えば、それが自社製品に組み込む部材であれば、自社製品の完成という利益を得るわけです。
一方、売り手は、製品/サービスを売ることで、売上という利益を得るわけです。
 
提案型営業という言葉が生まれ、また注目されるようになった背景には理由があります。
 
ひとつは、利益交換型営業では、思うような結果が得にくくなってきたため。
また、利益交換型営業では、結局、価格競争に陥りがちであり、また競合他社との差別化も図りにくいためです。
 
当たり前と言えば、当たり前です。
利益交換型営業では、お客様が購入しているのは、製品/サービスに過ぎません。勘違いも多いのですが、お客様は、あなたの会社であり、もしくは営業マンである、あなたを評価し、製品/サービスの購入に至っているとは限りません。
 
下手をすれば、製品の選別もお客様が行い、売り手側はなんら関与していない可能性すらあります。
豊富な製品ラインナップが掲載されたカタログをお客様に渡す。お客様は、カタログから、自社ニーズにマッチした製品を選び、発注する。
 
これだけの関係であれば、同等の性能を持つ製品を持ち、かつ値段の安い競合製品があれば、お客様は簡単に購入先を変えてしまいます。
 
中には、「それはお客様との人間関係が足りないからだ!」と言って、ゴルフ、会食などの接待などで、お客様との間に人間的な結びつきを構築し、お客様を必死に囲い込む会社もあります。
接待を否定するつもりはありませんし、またお客様との人間関係を築くことは、とても大切なことです。しかし、接待だけに頼るのは、違うでしょう。
 
提案型営業は、利益交換型営業が思うような結果を生まなくなり、また市場競争力強化にも効果が薄いことから、生まれてきた背景があります。
 
 
 

提案型営業に、御用聞きは不要?

 
では、提案型営業に、御用聞きは不要なのでしょうか?
むしろ逆で、提案型営業を推進するためには、より高い御用聞き能力が、必要になります。
 
提案型営業では、お客様の課題を抽出することが前提となります。提案は課題を解決するためのものでなくてはならないからです。
しかし、お客様が抱えている課題に、お客様自身が気づいているとは限りません。むしろ、お客様が気がついていない課題にこそ、売上向上や生産性向上、業務改善などのヒントが潜んでいることもあります。
 
提案型営業を行うためには、前提として、お客様を深く知ることが不可欠です。
提案のヒントは、お客様の中にあります。
 
そのため、お客様と、雑談も含めた会話を何度も重ね、お客様の現状を把握する必要があります。
なので、ここで言う御用聞きとは、「相手(お客様)に製品/サービス購入の意思を問う、Yes/No型の単純ヒアリング」ではなく、「お客様内にある、顕在的/潜在的ニーズを発掘するコンサルティング型ヒアリング」になります。
その意味では、前述した旧来型の御用聞きとは、違います。
 
提案型営業を成功させるためには、コンサルティング型ヒアリングを伴う御用聞きとのハイブリッドが必要となります。そして、これは、営業を行う側を守るためのものでもあります。
 
提案型営業には、手間がかかります。
そのため、対象とできるお客様の数は、自ずと制限されてきますし、またターゲットとするお客様からは、より効率的に営業成績を上げる必要があります。でないと、営業は長い残業を強いられることになってしまいます。
 
さらに、身も蓋もない言い方をしましょう。
かつて利益交換型営業をしていたお客様から、年間1,000万円の売上を得ていたとしましょう。提案型営業に切り替えたのであれば、年間1,000万円以上の売上を得なければ割に合いません。手間がかかる分、利益率が下がるからです。
 
提案型営業を行うためには、提案立案も大切なのですが、その前の課題抽出が肝となります。そのためには、御用聞きもしっかりと行う必要があるわけです。
 
 
 

提案型営業に求められる能力とは

 
提案型営業に求められる能力とはなんでしょうか?
私は、「考えて、考えて、考えまくる」、つまりどこまでも突き詰めて考える能力だと考えます。
 
お客様の課題とは何か?
お客様に足りないものは何か?
その課題を解決する方法とは何か?
 
煮詰まってもそれに負けることなく、より最適な解を見つけるために、突き詰めて考える能力こそが、提案型営業に、もっとも大切な能力ではないでしょうか。
 
 
突き詰めて考える能力を支えるのが、以下の能力です。
 

  • 観察力
    私たちが普段見ているものは、実は「自分が興味のあるもの」を取捨選別した結果です。自分に興味がないものは、無意識のうちに見る対象から外してしまうのです。
  •  

  • 好奇心
    興味がないから見過ごした、では、お客様の課題抽出に役立ちません。
    幅広く好奇心を持つことで、観察力を広げることができます。
  •  

  • 仮説立案能力
    観察によって得られた事象を、「これはどういうことなんだろう?」と検証し、「ならばこうすればいいのでは?」と想像するチカラです。
  •  

  • 気づき力
    仮説を立てるにしても、観察をする上でも、得た情報に対し、違和感、もしくはヒントを掴み取る、気付きのチカラが必要となります。
  •  

  • 論理思考能力
    これらによって得た情報を、論理的に組み上げ、提案へとつなげるチカラです。
    また、いくら優れた気づきを得たとしても、お客様に理解ができるストーリーで提案を組み上げないと、理解してもらえません。
    分かりやすい提案をつくるためには、論理的な一貫性が必要になります。
  •  

  • お客様を好きになるチカラ
    私は、突き詰めて考える能力の次に、このチカラが大切だと考えています。
    お客様だったり、お客様の製品やサービス、もちろん自社の製品/サービスを好きになることは、とても大切です。
     
    好きになるからこそ、本気で考えます。
    だって、嫌いなお客様のために、良い提案を考えようとは思いませんよ。好きにならないと、突き詰めて考えることは難しいでしょう。

 
 

営業とは

 
前述のエピソードに戻りましょう。
 
件の営業部長に、圧倒的な安売り価格を突き返された私は、販売促進施策を考えて、再提案に臨みました。
価格は、もう最安値ではありません。販売施策にコストが掛かるので、最安値はもはや提示できません。
 
提案をご覧になった営業部長は、にっこりと笑って、こう言ってくださいました。
 

「これ!、こういうのが欲しかったんだよ!!」

 
営業部長は、前回私の安売り価格を突き返した理由を、教えてくれました。
 

「うちはディスカウントストアだから、確かに商品を安く売らなければなりません。でも、『安い』だけを訴求し続けることは、やはりとても難しいです。利益を圧迫しますし、社内も、それから仕入先も疲弊してしまいます。
一般論から言えば、多くのディスカウントストアは、とにかく安い卸値を仕入先に求めます。同じ商品で安く卸すところがあれば、簡単に問屋を切り替えるとか、業界では当たり前です。
 
でもね、それじゃダメなんですよ。
相手の顔を見ないで、仕入値だけを見て商売するようなことをしていると、結局、仕入先も、うちの顔を見なくなってしまう。
 
『営業部長のところだったら、こんな商品、おもしろくないですか!?』、そんなお互いにワクワクするような関係を築くことができないと。
『安い』だけでつながった関係からは、結局、良いものは生まれないです。店がおもしろくなくなってしまいます。
最終的には、お客様から飽きられ、見捨てられて終わりですよ」

 
そして、こう言ってくれたのです。
 

「私は、あなたと長くお付き合いしたい。だから、これからもよろしくお願いします」

 
うれしかったですね…
思わず、涙ぐみそうになりました。
 
 
提案型営業を心がけていれば、営業は、自ずとスキルが上がるでしょう。
私だって、提案型営業を介して得たスキルをもとに、今はこういった記事を偉そうに(笑)書けるように、そして書かせていただけるようになったわけですから。
 
そして、人脈です。
言ってしまえば、提案型営業は、営業本人の人間力と、会社が持つチカラを総結集してあたる営業手法です。だから、接待などに頼らずとも、お客様との人間関係が構築されていきます。
この人脈こそが、営業としての一番の財産ではないでしょうか。
 
提案型営業って、しんどいですよ。
時には、脳みそが沸騰するくらい考え、時には裏切られたような気持ちになることだってあります。
 
でも、営業マンにとっては、自己成長を得る最適な手法なのです。
 
 
 

参考

 

  • これからの営業に必要な能力、資質と育成方法 : 「仮説検証型営業」と「企画提案型営業」に向けて
    (特集 流通における人材育成)
    太田 昌宏
    流通情報 2020
  •  

  • 御用聞き営業と提案営業のハイブリッド型営業人材を育てる
    (原理原則に立ち返る こう育てる! 営業人材)
    人材教育 2012.3

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