秋元通信

日本が、自動運転の「世界初」にこだわる理由

  • 2020.11.27

2020年11月11日、国土交通省は、レジェンド(ホンダ)に対し、自動運行装置を搭載した自動運転車(レベル3)として、世界で初めて形式指定を行いました。
 
この発表には、ふたつのポイントがあります。
ひとつは、世界初の自動運転自動車が、日本で誕生したこと。
 
もうひとつは、日本が世界に先駆けて、「このクルマ(レジェンド)は、自動運転自動車ですよ」というお墨付きを与えたことです。
 
自動運転については、すでに多くの方がご存知とは思いますが。
今回は、「世界初の自動運転自動車」の意義と、日本が国を挙げて取り組む自動運転マーケット開発の現状を確認しましょう。
 
 
 

世界初の自動運転、その内容は?

 
国土交通省がお墨付きを与えた、レジェンド(ホンダ)に搭載された自動運行装置(名称:Traffic Jam Pilot)が実現した自動運転車の内容は以下のとおりです。
ちょっと煩雑ですが、プレスリリースから全文を転記します。
 
 
・主な走行環境条件

  1. 道路状況及び地理的状況
    (道路区間) 高速自動車国道、都市高速道路及びそれに接続される又は接続される予定の自動車専用道路(一部区間を除く)。
     
    (除外区間/場所) 自車線と対向車線が中央分離帯等により構造上分離されていない区間。急カーブ、サービスエリア・パーキングエリア、料金所など。
  2.  

  3. 環境条件
    (気象状況) 強い雨や降雪による悪天候、視界が著しく悪い濃霧又は日差しの強い日の逆光等により自動運行装置が周辺の車両や走路を認識できない状況でないこと。
     
    (交通状況) 自車が走行中の車線が渋滞又は渋滞に近い混雑状況であるとともに、前走車及び後続車が自車線中心付近を走行していること。
  4.  

  5. 走行状況
    (自車の速度) 自車の速度が自動運行装置の作動開始前は約30km/h未満、作動開始後は約50km/h以下であること。
     
    (自車の走行状況) 高精度地図及び全球測位衛星システム(GNSS(Global Navigation Satellite System))による情報が正しく入手できていること。
     
    (運転者の状態) 正しい姿勢でシーベルトを装着していること。
     
    (運転者の操作状況) アクセル・ブレーキ・ハンドルなどの運転操作をしていないこと。

 
 
端的に言うと、世界初の自動運転は、渋滞した高速道路上でしか、動作しないことになります。
確かに、渋滞時に自動運転のはメリットは多そうです。運転者も楽ですし、渋滞内での追突事故を防ぐ効果もあります。
とは言え、渋滞中だけって、あまりに中途半端な機能に感じます。
 
なぜ、国土交通省は、こんな中途半端な自動運転を「世界初」とアピールするのでしょうか?
 
 
 

日本が自動運転にこだわる理由

 
その理由は、国が発表した、「官民 ITS 構想・ロードマップ 2020」(以下、ITSロードマップと略記します)に書かれています。
 

「世界一のITSを構築・維持し、日本・世界に貢献する」

 
これは、ITSロードマップに登場する言葉です。
ITSは、「Intelligent Transport Systems」の頭文字を取ったものであり、「高度道路交通システム」と日本語訳されます。
ITSとは、交通システムを、ITなどに代表される最新テクノロジーを利用することで、今以上に高度で安全、利用しやすいものへと進化させる、一連のシステムを指す言葉です。自動運転はもちろんですが、対象は自動車に限ったものではなく、鉄道、海運、航空なども、対象とし、幅広い交通システムを対象としています。
 
言うまでもなく、自動車産業は、日本にとっては、とても重要な産業です。
ところが、今後の自動車産業では、プレイヤーチェンジが発生する可能性があります。自動運転では、ウーバーやグーグルが存在感を発揮していることはご承知のとおり。電気自動車に関しては、自動車メーカーではなく、モーター、電池などを製造しているメーカーが、主役に躍り出る可能性もあります。
 
自動運転、電気自動車、もしくは燃料電池車といった、次世代の自動車が主役となる将来の自動車マーケットにおいて、トヨタを筆頭とする、日本の自動車メーカーが、そのチカラと存在感を維持することは、決して平坦な道ではないのです。
 

「自動運転の社会実装に向けた基本アプローチ(方針)としては、自動運転のハード・ソフトの『技術』と『事業化』の両面で世界最先端を目指す。そのような観点から、技術が完全に確立してから初めて社会実装するのではなく、制度やインフラで補いながら、その時点での最新技術を活かした社会実装を進めていく」
(ITSロードマップ 31ページ)

 
自動運転においても、日本の価値であり存在感を維持継続することは、各自動車メーカーの経営や競争力に委ねるだけではなく、国策として掲げられています。
 
そして、そのためには、「技術が完全に確立してから社会実装するのではなく」、つまり高速道路状の渋滞発生時にしか使えない、物足りない自動運転であっても、「制度やインフラで補いながら、その時点での最新技術を活かした社会実装を進めていく」というのが、国の方針としてすでに打ち出されているわけです。
 
この方針は正しいでしょうね。
 
と言うのも、自動運転のように、新たな技術や製品に関しては、優れた技術力がマーケットを支配するとは限らないからです。確かに、技術開発は大切です。でも、同時に、標準規格の獲得競争もとても大切です。
 
日本は、世界に先駆けて、自動運転の形式指定を行いました。
これは、取りも直さず、他国の自動車メーカー、例えば、ドイツやフランス、アメリカの自動車メーカーに対し、「日本のマーケットで自動運転自動車を売りたいのであれば、この形式指定のストーリーに添った自動運転技術を開発しなければ通用しませんよ!」と宣言したことでもあります。
世界に対し、自動運転の標準規格の先鞭を示したわけです。
 
 

 
 
自動運転の標準規格は、すでにレベル0からレベル5までの6段階に分けた指標が、すでに周知されています。
そこに追随する形で、日本発の自動運転規格の方向を示したことは、今後の自動運転マーケットにおいて、大きな意味を持ちます。
 
ちなみに、日本は自動運転に関し、他にもさまざまな標準規格獲得のための戦略を打ち出しています。
レベル5、つまり完全な自動運転を実現する上で大切な技術のひとつに、ダイナミックマップがあります。
 
ダイナミックマップとは、かんたんに言えば、街の3D空間マップのことです。ダイナミックマップについても、日本は世界標準規格獲得を狙っています。世界標準規格の獲得を戦略的に担う、ダイナミックマップ基盤株式会社という会社を、官民ファンドにより、2016年に立ち上げたのです。ちなみにダイナミック基盤株式会社には、トヨタを始めとする各自動車メーカー、ゼンリンやパスコ、インクリメントPといった地図関連企業、三菱電機など、そうそうたる企業が出資しています。
 
ダイナミックマップに興味がある方は、筆者が別媒体に執筆したこちらの記事をご覧ください。
 

 
 
 

物流の「自動運転」はどうなっているのか?

 
ちなみに、物流、すなわちトラックの自動運転は、どうなっているのでしょうか。
ITSロードマップでは、自動運転のロードマップを以下のように定めています。
 
 

  • 自家用
    レベル3 高速道路での自動運転 2020年目途
    レベル4 高速道路での自動運転 2025年目途
  •  

  • 物流サービス
    高速道路でのトラックの後続有人隊列走行 2021年まで
    高速道路でのトラックの後続無人隊列走行 2022年以降
    レベル4 高速道路でのトラックの自動運転 2025年以降
  •  

  • 移動サービス(※旅客輸送)
    レベル4 限定地域での無人自動運転移動サービス 2020年まで
    レベル2以上 高速道路でのバスの運転支援・自動運転 2022年以降

 
 
 
トラックに関しては、隊列走行を実現し、その後、2025年以降に自動運転を実現するとしています。
自動運転だけでは、トラックドライバー不足には、なんら対策にはならないんですけどね。
自動運転中の運転手に関しては、できれば休息扱い、最低でも休憩扱いにしてもらうか、もしくは無人運転を実現しないと、トラックドライバー不足に対する効果はありません。
もっと言えば、期限を示すのではなく、「2025年以降」としているところに、自動運転を実現することの難しさがうかがえます。
 
とにもかくにも、自動運転実現に向けた第一歩が、ついに示されました。
完全なる自動運転が、より早く実現してくれることを期待しましょう。
 
 
 


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