秋元通信

アドラー心理学が、「ありがとう」を大切にする理由

  • 2021.1.29

明治安田生命では、「いい夫婦の日」(11月22日)にちなみ、毎年夫婦をテーマとしたアンケートを実施、公開しています。
 
これがなかなかおもしろいです。
個人的にツボだったのは、「生まれ変わっても、もう一度同じ相手と結婚したい」というアンケートです。
「結婚したい」と答えたのは、男性49.1%、対して女性38.8%です。
男性って、悲しいですね(笑
 
他にも、夫婦間で行うプレゼントの平均予算(※ちなみに、2020年アンケートでは、14,528円でした)やら、理想の有名人夫婦投票(※ちなみに、一位は、三浦友和・山口百恵夫婦)など、興味深いアンケートが多数あります。
 
興味がある方は、以下からアンケート結果全文をご覧ください。
https://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2020/pdf/20201116_01.pdf
 
 
同アンケートでは、「配偶者から言われたい一言」もアンケートしています。
その結果は、以下のとおりです。

  1. ありがとう
  2. お疲れさま(ご苦労さま)
  3. あなたがいてくれて良かった
  4. 結婚して良かった
  5. 料理が美味しい

 
前号記事において、日本人が好きな言葉の一位が「ありがとう」であったことをご紹介しましたが、ここでも「ありがとう」が登場しています。
 
他にも、同アンケートでは、興味深い結果がいくつかあります。

  • 約8割の人が、夫婦仲を「円満である」と回答している。
  • 「円満である夫婦」「円満でない夫婦」では、日常の会話時間に3倍の開きがある。
  • 「円満である夫婦」では、子供の話題以外の「テレビなどのニュース」や「休日の予
    定」、「夫婦のこと」についても、話題にすることが多い。

 
家族は、人間社会におけるコミュニティの最小単位であり、ベースとなるコミュニティです。そのコミュニティの円満さが、コミュニケーションの質と比例関係にあることは、当然でしょう。
 
 
 

アドラー心理学における「共同体感覚」

 
アドラー心理学では、「共同体感覚」を大切にしています。
ちなみに、アドラー心理学は、フロイトやユングと並ぶ心理学者であるアルフレッド・アドラーが生み出した心理学です。「個人心理学」が正式な名称ですが、日本ではアドラー心理学という呼び名の方が広まっています。
 
アドラー心理学では、自分のためだけの利益を追求する行為に、警鐘を鳴らしています。
私たちは、さまざまなコミュニティに所属しています。家族、学校、会社、趣味の集まりもコミュニティですし、自身が住まう地域もコミュニティです。コミュニティの存在を忘れ、もしくは軽んじて、自分のためだけの利益を追求しようとすれば、コミュニティに良くない影響が発生します。誰もが自己の利益だけを追求しようとするコミュニティは、健全ではありません。
ここで言うコミュニティが、アドラー心理学における共同体に該当します。
アドラーは、「共同体感覚が発達している人は、自分の利益のためだけに行動するのではなく、自分の行動がより大きな共同体のためにもなるように行動する」と説明しています。
同時に、「共同体感覚は、生まれつき備わった潜在的な可能性で、意識して育成されなければならない」と、共同体感覚の重要さを語っています。
 
 
 

共同体感覚を備えた人の特徴

 
共同体感覚を備えた人の特徴としては、以下の5つが挙げられています。

  1. 【共感】仲間の関心に、関心を持っている。
  2. 【所属感】自分は所属しているコミュニティの一員だという感覚を持っている。
  3. 【貢献感】仲間のために、積極的に貢献しようとする。
  4. 【相互尊敬・相互信頼】関わる人たちと、相互に尊敬・信頼し合う。
  5. 【協力】進んで協力しようとする。

 
共同体感覚を身につけるために、アドラー心理学では、「勇気づけ」を利用します。勇気づけとは、困難を克服するチカラを与えること。そして、勇気づけに効果的なのが、「ありがとう」という感謝の言葉です。
 
 
 

「ありがとう」で変わった、自閉症児とその学級

 
自閉症でパニックを起こす女の子(以下、Aちゃんとします)がいたそうです。
担任になった先生は、アドラー心理学を応用し、以下を実施したそうです。

  • Aちゃんがパニックを起こした時は注目せず、平穏な状態の時に注目する。
  • Aちゃんが、挙手したら、的外れな発言でも認める。
  • 他の子どもたちには、「Aちゃんの発言を聞いてくれてありがとう」「Aちゃんが泣いていても、私の授業を聞いてくれてありがとう」「私のやり方に協力してくれてありがとう」と、感謝の言葉を伝え続ける。

 
すると、次第にAちゃんのパニック行動は治まっていきました。
また、Aちゃんの発言も的を得た内容に変化を見せ、周囲の子どもたちも、Aちゃんに対する嫌悪感がなくなり、クラスはひとつにまとまっていったそうです。
 
 
「不適切な行動には注目せず、適切な行動を勇気づける」、「当たり前の行動に感謝する」というのは、アドラー心理学では基本的なセオリーです。
Aちゃんと、そのクラスメートたちは、「ありがとう」という言葉で健全な共同体感覚を身につけていったのです。
 
 
 

「ほめる」ではなく、「ありがとう」が大切な理由

 
ここまで読むと、このように感じる人もいるかもしれません。
 
「『ありがとう』ではなく、『頑張ったね』のようにほめても良いのでは?」
 
確かに、先生から子どもたちに対する発言なわけですから、「頑張ったね」「偉いね」でも良い気もします。
 
ですが、アドラー心理学では、「ありがとう」を重視します。
 
「相互信頼・相互尊敬」の観点から考えましょう。
「ありがとう」では、相手と自分を対等にとらえます。対して、「頑張ったね」「偉いね」という発言には、発言者が上位にいるという上下関係が存在すると、アドラー心理学は警告します。
例えば、生徒と教師のような、役割上の上下関係はあっても、人間としての関係は対等であるとするのが、アドラー心理学です。だから、共同体感覚では「相互信頼・相互尊敬」を大切にするわけです。
これが、アドラー心理学が、「ほめる」よりも「ありがとう」を重視する理由です。
 
 
 
冒頭に挙げた、「いい夫婦の日」アンケートに話題を戻しましょう。

  • 「円満である夫婦」「円満でない夫婦」では、日常の会話時間に3倍の開きがある。
  • 円満である夫婦」では、子供の話題以外の「テレビなどのニュース」や「休日の予
    定」、「夫婦のこと」についても、話題にすることが多い。

これらからは、共同体感覚に必要な、【共感】を伺うことができます。
また、以下の「配偶者に言われたい一言」からは、【所属感】【貢献感】【相互尊敬・相互信頼】を望む気持ちが伺えます。

  • ありがとう
  • お疲れさま(ご苦労さま)
  • あなたがいてくれて良かった
  • 結婚して良かった
  • 料理が美味しい

 
かつての私の上司は、お客さまなどを訪問した後、いつも「ありがとう」と言って別れていました。私は、「私は部下なんだから、『お疲れさま』でいいのに…」と、最初不思議かつ少し恥ずかしく(「むず痒い」の方が適切かもしれません)感じていました。
 
ですが、彼はきっと、部下である前に、私をひとりの人間として、信頼してくれていたのでしょうね。そのことは、今になって分かるようになってきました。
 
 
「ありがとう」のような感謝の言葉って、意外と言わなくても生活できます。
少なくとも、「お願いします」(要求)や、「○○したい」(欲望)に比べれば、必要性は薄い言葉かもしれません。
 
でも、欲求や欲望ばかり口にする人は、イヤですよね。少なくとも、旦那さま、奥さまが、「〇〇したい」「〇〇しておいて」ばかりを口にする人であれば、夫婦関係も歪んでしまうでしょう。
 
もし、心当たりがある方は、一日一回からで良いです。「ありがとう」と意識して口にするようにしたら、自分と周囲の人たち、両方が変わっていくかもしれません。
 
 
 

参考および出典
  • 教師からかける「ありがとう」の言葉 : アドラー心理学の勇気づけ (会沢 信彦)
    (特集 「ありがとう」が言えない子 ; カウンセリング技法に学ぶ「ありがとう」の気持ち)
    児童心理 2012.3 / 金子書房

 
 

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