秋元通信

DXが分かりにくい理由

  • 2021.2.17


 
 
 
突然ですが、皆さまは、DXを説明できますか?
DX=デジタルトランスフォーメーションの頭文字を取ったもの、というのはご存じの方が多いと思います。
 
では、デジタル化、IT化と、どう違うのか、説明できますか?
 
DXって、なまじ「デジタルトランスフォーメーション」という、分かるような分からないような訳語がついているから、分かっているように、勘違いする人も多いことと思います。
 
今回は、DXが分かりにくい、もしくは難しい理由を考えつつ、なるべく分かりやすく、DXを解説していきましょう。
 
 
 

定義が難しすぎる

 
DXの定義を、秋元通信流に、なるべく分かりやすく、そして噛み砕くとこんな感じです。

「DXとは、『どうやったら、お客様に喜んでいただけるのか』という精神を忘れることなく、最新のデジタル技術を用いて、業務変革を成し遂げ、かつ新たなビジネスを創り上げること」

 
ポイントは以下です。

  • クラウド、AI、ビッグデータなどの最新のデジタル技術を用いること。
  • 改善ではなく、変革。今までの業務、もしくはビジネスのプロセスに拘泥することなく、場合によってはゼロから再構築することもいとわず、デジタル技術のチカラも借りて、最適化すること。
  • 「業務変革 or デジタルビジネス創造」ではなく、「業務変革 and デジタルビジネス創造」であること。つまり、両方やらなきゃダメ!

 
日本において、DXをバズらせたのは、間違いなく、経済産業省が2018年9月に発表した、「DXレポート ~ITシステム 『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~』です。
ここで紹介された、DXの定義が以下です。

「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」

 
はっきりと言いましょう。
DXレポートを書いた人の、センスと常識を疑いたくなるレベルの難解さです。
秋元通信でも記事にしましたが、筆者も最初にこの定義を読んだ時、理解できずに何度も何度も読み返しましたよ…。
 
 
さすがに、これではマズイと思ったのでしょう。
昨年12月末に発表された「DXレポート2 中間取りまとめ」では、以下のようにDXを定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」

多少は分かりやすくなりましたね。
でも、まだ難しいかな…。
 
 
 

普及しないDX

 
DXレポート2によれば、DXに取り組んでいる企業は、5%足らず。
ただし、これは経産省のアンケートに回答してくれた約500社の回答をまとめた結果なので、国内にある企業総数:約360万社から考えると、ほとんどの企業がDXに取り組めていないと考えられます。
 
なぜ、こんなことになってしまったのでしょう。
DXレポート2では、その理由をメタボリックシンドロームにたとえ、このように説明しています。

「このような企業の行動変容が進まない理由は、生活習慣病のアナロジーで理解が可能である。誰しも、一般論としてメタボリックシンドロームの状態よりも痩せていたほうが良いことは理解している上、生活習慣病のリスクについても理解しているが、自分自身は健康だと信じている。企業のDX についても同様で、DX が必要だと理解はしていながらも、行動を変容できていない企業は多い」

「『DX が進まない理由』を生み出しているのは、企業において『DXは進めた方が良いと理解している』ものの、『自社は健全である』との誤認であるといえよう」

 
あまりと言えば、あまりにひどい言い方です。
ものすごい難題を押し付けた挙げ句、「お前ら、バカだなぁ…」と言われているような気がするのは、私だけでしょうか。
 
「『自社は健全である』との誤認」があったとするのであれば、それを生み出したのは、他でもない、経産省が説明不足だと思いますよ、私は。
 
 
 

「なんちゃってDX」の台頭

 
もうひとつ厄介なのは、単なるデジタル化、IT化を、「これこそDXです!」とうたい、システムの売り込みに利用するシステム屋さんたちが、わさわさと登場していることです。
 
先日、ある大手システムベンダーの広告を見て、思わず吹き出してしまったのですが。
経理システム、人事システム、給与システム、SFA(セールスフォースアプリケーション)、在庫管理システムなどの、それまで同社が売り出してきた各種システムに対し、DXパッケージなる冠をつけ、売り出していました。
 
「あなたの都合にあわせて、DXに取り組むことが可能です」なんて、甘いキャッチコピーを添えていましたが。
 
これは単なるデジタル化、IT化であって、DXではありません。
ただ、DXのきちんとした定義を知らず、こういう「なんちゃってDX」の売り込みからDXを知ってしまった人(企業)は不幸です。
経産省が言うところの、「だったらウチはもう大丈夫!」という勘違い、経産省が言うところの「『自社は健全である』との誤認」に陥ってしまうケースもあるでしょうね。
 
 
 

知っておきたい「DXの構造」

 
そうは言っても、経産省も反省したのでしょう。
DXレポート2では、「DXの構造」なるもので、DXをフェイズ分けして説明しています。
 
 

フェイズ1:デジタイゼーション

 
かんたんに言うと、「デジタルデータ化」です。

  • FAXや電話でのやりとりを、メールに切り替える。
  • ノートに書いていた情報を、Excelに切り替える。

例を挙げれば、こんな感じです。
 
「デジタイゼーション」という言葉が、また分かりにくく、覚えにくいのですが。
私は、「デジタ 『イ』ゼーション」の「イ」を最初の一歩というニュアンスの、「いち(一、壱)」の「イ」として覚えています。
 
 

フェイズ2:デジタライゼーション

 
かんたんに言うと、「部分的なデジタル変革」です。
 
こちらも例を挙げましょう。

  • 業務の一部だけを、システム導入などによって、デジタル化、IT化する。
  • ECを始めるなど、営業プロセスの一部をデジタル化/IT化する。

ただ、変革が伴っているかどうかは、こだわりたいところです。
 
ちなみに、私は「デジタ『ライ』ゼーション」の「ライ」を「来(ライ)」とイメージし、「デジタルデータ化の次に『来る』べきプロセス」として覚えています。
 
 

フェイズ3:デジタルトランスフォーメーション

 
「部分的なデジタル変革」から、「全体的なデジタル変革」、つまり業務とビジネスの両方において、デジタル変革を成し遂げれば、デジタルトランスフォーメーション、つまりDXというわけです。
 
DXって、「デジタルデータ化」から「部分的なデジタル変革」を経由して、「全体的なデジタル変革」になるものなんだよ、と考えると、意味と、プロセスの両方をイメージしやすくなるのではないでしょうか。
 
 
 

まず大切なのは、「無理だと諦めないこと」

 
私自身、DXに関しては他メディアでも多数の記事を執筆しています。数えてみると、昨年9月から、8つもDXに関する記事を書いていました。
 
自分自身が書いた記事に対する反省も含め、DXに関するレポートや記事全般に感じているのは、以下です。

  1. なぜかDXに関する記事の多くが、高圧的である。なぜ皆、「DXをやらなきゃダメですよ!」と脅してくるのか?
  2. DXを本当に成し遂げた企業の事例記事は皆無。すべて「部分的なデジタル変革」(デジタライゼーション)レベルの記事ばかり。
  3. デジタルトランスフォーメーションを本当に実現できる企業なんて、ほんのわずかじゃないのかと思ってしまいます。現実的には、多くの企業が目指すべきは、デジタライゼーション(部分的なデジタル変革)じゃないかな…。

 
まず、1.に関して。
経産省のDXレポート1&2も含め、あれだけ高圧的に「やらなきゃダメよ!」と言われたら、むしろやる気をなくすんじゃないでしょうか。
さらにしかも、2.に挙げたように、参考とすべき情報が少なすぎます。というか、これはもともと、DXという先行開拓者がいない領域について、「やらなきゃダメよ!」論が繰り広げられている時点で、どうにもなりません。
 
そして、3.です。
いや、デジタル化による業務変革は、多くの企業でもできるかもしれませんよ。
でも、デジタル化によるビジネスの変革って、要はイノベーションを起こせってことじゃないですか。
日本国内だけで、約360万社ある企業のすべてが、ビジネスのデジタル・イノベーションを起こしなさいって、それは荒唐無稽じゃないかと。
 
1割(36万社)だって無理ですよ。
もしそんなことが実現したら、GDPの成長率が2,000%くらいになってしまうんじゃないかと思います。(本気で思っています。ちなみに、「イノベーションは、GDP上昇の決め手になるか?」なんて議論も、最近盛んなようですが、ここではあえて触れないでおきます)
 
 
 
アドラー心理学では、「高すぎる目標は勇気を挫(くじ)く」と諭します。
ただ、だからと言って、企業においてデジタル化への取り組みを先送りにすることは、大きなリスクになることも確かです。むしろ、先送りすればするほど、難易度も高く、掛かるコストも高くなるというのは、2025年の崖でも提唱された課題です。
 
大切なのは、身の丈にあったデジタル化を模索し続けることだと、私は考えています。
DXのものさしって、共通ではありません。
ある企業では、DXに向かう最初の一歩は、社内システムのクラウド化とレガシーなオフコンの廃止かもしませんが。紙FAXからPC-FAXへの切り替えだって、DXの第一歩になるケースもあるし、あって良いのだと私は考えます。
 
無理だと諦めてしまったら、そこで終わりです。
「変わろう!」「変わらなければ!」という意識、そして目標は常に心に留めつつ、自分の足並みにマッチしたものさしで、コトを進めていくこと。
大切なことです。
 
今回記事では、抽象的なことしか、まだ書けませんが。
当社でも、拙いながらにDXには取り組んでいます。
 
いずれ、その情報は、本メルマガでお届けしましょう。
 
 
 

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