秋元通信

接待について考える

  • 2021.3.15

 
 
私が、40歳前後の頃だったと思いますが、父とふたり、わりと頻繁に呑みに行っていた時期がありました。
当時、父は会社を定年退職して数年が経った頃。新橋、神田、銀座など、現役時代に接待で利用していた店を、父は私に見せたかったのでしょう。
 
そうか、父は、接待のとき、この店に来ていたのか…
父が、店の主たちと交わす会話を聞いていると、サラリーマンだった頃の父の姿が、なんとなく思い浮かぶようでした。
 
 
永田町界隈では、役人さんたちと民間企業の接待が、問題になっています。
普通の飲食では、ちょっと考えられないような高額な金額であることが、さらに非難を浴びています。
 
私自身の経験もご紹介しながら、接待について、考えてみます。
 
 
 

高額な接待の是非

 
私が以前在籍していた会社は、極端な営業を行う会社でした。
なにせ、接待のための、特殊専門部隊がいたくらいですから。(さすがに、すぐに廃止されましたが)
 
 
事業部長に大抜擢された方がいました。
理由は、接待によって、とても大きな利益を挙げたからです。
 
その方は、取引先の役員を香港へと誘いました。
空港を出るときから赤絨毯を敷き、リムジンへとエスコート。その後は、豪勢な食事と観光で、お客さまをもてなします。
使った金額は、数日で1千万円以上に及んだそうです。
 
素晴らしい!
当時の取締役は、彼のことを絶賛しました。
彼は取引条件の改善を実現し、粗利ベースで数億円の効果を引き出しました。
 
「お前たちも、あいつを見習って、ガンガン接待しろよ!
 ただ、結果が伴わなかったら、すべて査定に反映させるけどな」
 
取締役が会議で発した言葉を今でも覚えています。
 
 
ただし、私は、違和感も感じていました。
私も、その取引先、その役員は存じ上げていました。当時、私は係長でしたが、はるかに役職に差がある私のことも、その役員は、面倒を見てくれたからです。もっと言ってしまうと、面倒を見てもらっていたのは、私だけではありません。当時、その取引先に関係していたすべての営業は、多かれ少なかれ、その役員に目をかけてもらい、ときに怒られ、ときにほめられ、営業のいろはを教わっていました。
 
「あの人だったら、1千万円なんて馬鹿げた接待をしなくたって、うちに協力してくれたんじゃないのか…?」
 
私は、そのように感じたのです。
 
 
 

協賛金に踊った量販店

 
流通業界には、協賛金という悪習が存在していました。公正取引委員会の活躍もあり、現在は以前ほどの極端な協賛金要求はないと思いますが。
 
ある時、私は取引先の量販店から、1200万円の協賛金を要求されました。
 
どうしたものか…
思い返してみると、私が過去、もっともビビった瞬間だったかもしれません。押しつぶされそうな気持ちのなか、いろいろな経緯があったものの、最終的には、その協賛金を払うことになりました。
ですが、私の営業目標が変わるわけではありません。
1200万円のキャッシュアウトを補うため、私は文字通り死にものぐるいで、その量販店との取引に取り組みました。結果、その取引先における売上は、3倍以上になりました。
 
 
ですがある時、その取引先との取引を解消せざる得なくなりました。
私の在籍していた会社に、経営を揺るがすような問題が生じ、利益の薄い取引先は、すべて関係を解消する方針が出されたのです。
 
取引を解消させてほしい。
件の量販店に対し、交渉に赴いた私に対し、先方の営業部長は、ポカンとしてこのように言いました。
 
「なんで?
 だって、協賛金1200万円をポンと払えるくらい、おたくは、うちとの取引で儲けているわけでしょ?
 そんなに会社の…、経営が厳しいの?」
 
いやいや、あんたのせいでもあるんだよ!
1200万円の粗利を上げるために、どれほどの苦労が必要なのか、それくらい想像もできないのか!?
頭に血が上りそうになるのを必死に堪えながら、私は取引の停止を申し入れ続けました。
 
 
私の会社との取引が解消された後、件の量販店は、別の商社と取引を開始しました。
が、そもそも商売に関し、根本的な勘違いをしていた同社は、あっと言う間に売上を落としてしまいました。かつての1/10になったいうことなので、私が担当していたピーク時と比較すると1/30まで、取り扱い商材の売上が落ち込んだことになります。
 
「どうすればいいのでしょうか!?!?」
 
一度だけ、私のもとに、同社のバイヤーから電話が掛かってきたことがあります。
バイヤーは、言うまでもなく切羽詰まっていて、どうにもならず私に電話を掛けてきたようですが。
 
私には、もはやどうすることもできません。もっとも、手を差し伸べるつもりもありませんでしたが。
 
 
 

スーパー銭湯で接待

 
ある時、私は仕入先の営業課長とともに、同行営業を行うことになりました。
メーカーとして、私の販売先を巡り、販売状況や、ユーザーの声を直に聞くことが、課長の目的です。
 
こういった同行営業の際は、終了後、接待をするのが恒例でした。
当然、件の課長も期待していることでしょう。
同行先から戻り、繁華街に繰り出し、旨い料理を食べ、キャバクラに行き、場合によってはその後、風俗も…というのが、通常のパターンでした。
 
ですが、私は、そのパターンの接待が好きにはなれませんでした。
そして、件の課長とは、もっとしっかりと人間関係を築いておきたい、という気持ちもありました。
 
 
そこで、私は、同行営業終了後、彼を温泉に誘いました。
温泉といっても、源泉が温泉なだけで、単なるスーパー銭湯です。
ふたり、スーパー銭湯で風呂に浸かり、スーパー銭湯の食堂で食事をしました。彼も、ハンドルキーパーの私に気を使い、酒を我慢しています。
その後、地元に戻り、キャバクラに行ったのですが、1時間ほどで、彼がバーに行こうと言い始めました。
 
バーに落ち着き、彼とはいろいろな話をしました。
取引の話もありましたが、家族の話、業界の問題点、サラリーマンとしての生き方など、話は尽きませんでした。
 
「ありがとう。今までで、一番楽しい接待でした」
 
別れ際、彼はこのように言ってくれました。
私も、とても楽しかったです。
 
 
 

心を通わせることと、金額は関係あるのか?

 
最初にご紹介した、香港での大接待のエピソードに戻りましょう。
接待を行った数日間、接待を行う側だった私の会社の部長は、こんこんと事業計画、営業戦略を取引先の役員に説き続けたそうです。
結果的に、大幅な取引条件の改善が実現したのは、豪勢な接待だけではなく、相手が納得するだけの材料を、きちんと示したからです。
 
 
1200万円の協賛金を要求した量販店のエピソードは、接待ではありません。
ですが、相手を供するために、どのようなお金の使い方をすべきなのか、という観点においては、参考になるのではないでしょうか。
 
はっきりと言えば、私は、件の量販店からすれば、憎むべき存在でしょう。
1200万円という金額で、商売を惑わせたのですから。あのとき、協賛金を払わないという選択肢は、とても難しいことでした。おそらく、払わなければ、取引を切られていたでしょうし。
 
協賛金を払ったことで、相手は大きな勘違いをしました。
協賛金を支払った後のことですが、私は件の量販店における拡販のため、大きな営業施策を打とうとしました。
大きな営業施策ですから、店舗などにも、負担をかけます。結果、その施策は大当たりしたのですが、本部を説き伏せ、店舗を説き伏せ…、実現に至るまでには、とても大変でした。
 
その大変さに辟易した、同社のバイヤーはこう言ったのです。
 
「こんな面倒な根回しなんて、しなくていいよ! また、ポンと協賛金払ってくれれば、ウチはそれでOKなんだけど」
 
甘えていますよ。そんな、濡れ手に粟な商売など、続くわけがありません。
でも、同社は、高額の協賛金を得たため、完全に勘違いしてしまったのです。そして最終的に、しっぺ返しを喰らいました。
責任の所在はともかく、その因果関係は、協賛金を払ったという行為にあります。
 
 
接待の目的は、いくつかあります。
オフィシャルな場ではないからこそ得られる、情報を得ること。
ビジネスの場だけでは分かりあうことが難しい、信頼関係を構築すること。
もっとも、ただ単純に、接待するもの、されるものが、楽しい時間を過ごすことが、目的になることもあるでしょう。
 
信頼関係を構築するというのは難しいですね。
一方の努力だけで成立するわけではありませんから。
接待をする側も、される側も、お互いに道理を分かっていなければ、接待は、かえってお互いの関係をいびつにする可能性もあります。
 
 
冒頭の、私と父とのエピソードに戻りましょう。
私が父に連れていかれた、ある店は、父がいた業界の社交場のようになっていたそうです。その店には、業界各社の役員、部長などが、かつては入り浸っていたのだとか。
お店のママと、懐かしそうに話す父を見ながら、「私の経験には、こういう店、こういった形の接待はなかったなぁ」と、営業スタイルの違い、時代の変化を感じたものです。
 
 
今、国会を騒がせている政治家、もしくは役人の皆さまがもつ感覚は、私には理解できませんが。
庶民感覚からかけ離れた、高額な食事を接待して、信頼関係は得られたのでしょうか。
役人の皆さまのミッションは、最終的には国民への利益還元です。高級なお料理の数々は、国民にとって、有益なものとなったのでしょうか。
金額の多寡よりも、そちらのほうが、私は気になります。
 
  


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