秋元通信

サービス業化するトラックドライバーに必要?、感情労働とは

  • 2021.6.15

先日、NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』にて、ヤマト運輸のドライバーが取り上げられました
見事でしたね!
 
仕事に対する姿勢、責任感、モチベーション、安全に対する意識、そして顧客に対するサービス意識。
もちろん、TVですから、ヤマト運輸としても、自慢のドライバーを出演させたのでしょうが。それにしても、とても感心しました。恥ずかしながら、私は番組を見ながら感動して、ちょっと涙ぐんでしましました。
 
番組に出演したドライバーの意識は、完全にサービス業従事者の意識でした。
 
最近では、「トラックドライバーはサービス業である」と言って、自社のドライバーにも、接客業同様の意識変化を求める運送会社が登場し始めています。
ですがその反面、そういった会社からの要求にストレスを感じ、「ついていけない」と会社を辞めてしまうドライバーの話も聞きます。
 
今回は、サービス業に不可欠な感情労働について解説しつつ、トラックドライバーが感情労働を制し、サービス業として働く上で必要なことについて考えてみましょう。
 
 
 

感情労働とは

 
以下は、感情労働に該当する代表的な例として挙げられる職業です。
 

  • 看護師などの医療従事者
  • 介護関係
  • 客室乗務員
  • 教員
  • 販売、飲食などの接客業

 
とは言え、現在では上記の仕事・職種に限らず、コンサルタント、税理士、弁護士、社労士などの士業も含め、感情労働の必要性は、幅広く求められています。
 
感情労働という概念は、アメリカの社会学者であるA・R・ホックシールドが創案しました。
感情労働とは、自分自身の感情を意識的にコントロールすることで、顧客となる対象の精神状態を、自分の職務上好ましい方向へと導くことを求められる労働を指す言葉です。
 
洋服を売る店員が、もし「あなたに売る服はありません」といった態度を取っていたら、そのお店の売上はひどいことになるでしょう。
やる気もない、覇気もない看護師に注射を打たれては、治る病気も治らないかもしれません。
 
私たちの日常は、適切な感情労働を行っている皆さまのおかげで、気持ちよく保たれているのです。
 
 
一方で、感情労働を行う方々には、時として大きなストレスがかかります。
客から理不尽なクレームを受けたところで、客を批判することなく、客の不平不満を解消することを第一義に考え、行動することを求められるのが、現在の風潮です。
 
感情労働をまっとうするのであれば、高圧的な客の態度に、強いプレッシャーを感じても、それをおくびも出さず、平静を装いつつ職務を遂行しなければならないのです。
 
肉体労働では、身体を使った作業に対し、対価を得ます。
頭脳労働では、知識やアイデアを提供することで、対価を得ます。
 
対して、感情労働は、感情をコントロールすることで、対価を得る労働と言えます。
 
 
 

「人当たりの良い人」と、感情労働のプロフェッショナルの違い

 
「トラックドライバーもサービス業にならなければならない」とは言うものの、そもそも人当たりの良いドライバーはたくさんいます。
 
当社に出入りするトラックドライバーたちも、皆さん人当たりがよく、気持ちの良い方々ばかりです。
では、こういう人たちは、サービス業の素養は備えていないのでしょうか?
 
 
感情とは、自然に湧き上がるものです。
その時、あなたが直面した出来事に対し、本能的に、もしくは反射的に生まれるものです。
 
人は、自分にとって有益なことに遭遇すれば、自ずと良い感情(感謝、うれしい、楽しいなど)が、生まれます。
逆もしかりなのですが。
 
感情労働は、感情という、極めて動物的な生理現象に対し、抗うものです。
では、トラックドライバーのサービス業意識は、そのレベルまで達しているのでしょうか?
 
あくまで一般論ではありますが、多くのトラックドライバーの場合、答えはNoでしょう。
人当たりがよい人も、ほんとうの意味でストレスにさらされることがあったときには、感情をむき出しにしてしまうかもしれません。
もしかしたら、その人当たりの良さは、同じく運送を仕事としている私たちだから向けられているもの、つまり仲間意識から生まれたものかもしれません。
 
きちんとした敬語を使うこと。
身なりにも気を使い、清潔を心がけること。
相対する相手の態度に動揺せず、自分を保ち続けること。
 
こういったことを当たり前にできる、トラックドライバーは少ないかもしれませんね、残念ながら。
 
もともと、トラックドライバーを志望する人は、人付き合いが苦手だったり、「自分の好きなように振る舞いたい」という志向が強かったりします。
今さら、「トラックドライバーもサービス業にならなければならない」と言われても、戸惑い、もしくは後ろ向きな気持ちになる方も少なくないと、私は思います。
 
 
 

トラックドライバーを感情労働の達人にするために必要なこと。

 
感情労働は、感情という、極めて動物的な生理現象に対し、抗うものだと申し上げました。
抗うことはストレスです。そのストレスを帳消しにする、対価がなければ、やがて人は壊れてしまいます。
 
「トラックドライバーもサービス業にならなければならない」と言うのであれば、もちろん教育は必要です。
サービス業としての言葉遣い、接客態度、マナーやモラルを学ぶ場は提供すべきです。
 
しかし、本当に大切なのは、感情労働を行うに値する対価を、会社側が提供することです。
 
ただし、勘違いしないでください。
ここで言う対価とは、必ずしも給料のことではありません。給料をアップさせることも大切ではありますが。
 
冒頭に挙げた、ヤマト運輸の宅配ドライバーにとっての対価は何だったのでしょうか。
番組中では、仕事が続かず、転職を繰り返していく当人が、ヤマト運輸に転職し、意識を変えていくさまが描かれました。
 
たぶん、この方は、「ヤマト運輸の宅配ドライバー」というプロフェッショナルとしてのやりがい、自負、プライドが、意識と行動を変えるきっかけとなったのでしょう。
 
 
「『トラックドライバーもサービス業にならなければならない』、そんなのは当たり前だろ?」、そんな常識論を展開する会社側からの押し付けでは、やがて破綻が生じてしまいます。
 
なぜ、サービス業として意識を新たにし、わざわざストレスの掛かる感情労働へと転じなければならないのか?
その必要性をきちんと説明した上で、感情労働を担うトラックドライバーたちに、その結果として、会社とトラックドライバー自身が、どのようなメリットを得るのか、会社側は説明する義務があります。
 
トラックドライバーだけに負担を強いては駄目ですよ。
 
「トラックドライバーもサービス業にならなければならない」と言うのであれば、運送会社側も、変わっていく覚悟と、その先に広がる未来を示す必要があるのです。
 
 
 


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