秋元通信

管理社会につながる?、信用スコアを解説

  • 2021.6.24


 
 
例えば、飲食業や宿泊業の皆さまにとって、予約のキャンセル、もしくはキャンセル連絡すらしない無断キャンセルをする人は、売上に悪影響をおよぼすこともあり、迷惑な存在です。
 
「『キャンセルを繰り返す人』『無断キャンセルを行った過去がある人』に関する情報を共有することで、被害にあう事業者を救うことはできないのか?」、当然、そう考えますよね。
 
今回は、こういった「社会道徳的に問題のある行動を行う不埒な輩を減少させることができる」かもしれない、信用スコアについて解説しましょう。
 
 
 

これまでの信用情報とは?

 
例えば、クレジットカードを新たに作るとき。
例えば、家を買うために住宅ローンを組もうとするとき。
 
対象となる人は、信用調査機関に照会され、過去の支払い実績、借り入れの有無などを調べられます。
 
しかし例えば、量販店の店頭などで、「10分でハウスカード(※量販店ブランドのクレジットカード)が発行できます!」などと加入者を募っているケースがありますが、あのような審査でも、信用調査機関への照会を都度行っているのでしょうか?
 
答えは、原則としてNoです。
信用調査機関への照会を行っているところが絶対ないとは断言ができないので、「原則として」という補足をしますが。
 
カード会社では、既存会員を分析することで、優良顧客、もしくは不良顧客の人物モデルを把握しています。信用調査機関に照会することなく、社内のナレッジデータベースに照会を掛けることで、カード入会希望者に対する一次審査を行うわけです。
もちろん後日、信用調査機関には照会をかけます。その照会の結果として、限度額が引き上げられることもれば、据え置かれることもあります。
 
 
少し話がずれますが。
かつて私が働いていた会社は、ベンチャー企業でした。
社員の平均年齢が若く、かつ給与も良かったため、派手な遊び方をする社員が多くいました。
 
会社が、あるクレジットカード会社と業務提携を結んだことがありました。
 
「皆、クレジットカードを作るように!」、社命が下り、私たちは強制的に、業務提携先のクレジットカードを申し込みました。
すると、係長以上の役職にある社員が、そろって審査で落ち、クレジットカードを作成することができませんでした。
 
どういうことだ!?
慌てたのは、業務提携を決めた会社上層部です。
業務提携先のクレジットカード会社に説明を求めたところ、こんな回答があったそうです。
 
「貴社係長以上の皆さまは、生活も派手で、かつ既に借り入れを行っているケースも多いため、弊社ナレッジデータベースで、審査NGパターンに登録されております」
 
笑い話にもなりません。
 
 
これまでの信用調査では、審査の対象としていたのは、原則としてお金に関係する情報でした。
しかしこれからご紹介する信用スコアは、あなたの行動履歴を信用を測るものさしとする点で、旧来の信用調査とは異なります。
 
 
 

「個人の信用度」をスコア化する、信用スコアとは

 
信用スコアとは、ECの利用状況を始めとする、個人に紐づく情報を収集、総体的に分析することで、「この人は信用できる人物であるかどうか」という、個人の信用度をスコア化し、信用スコアを必要とする企業各社に提供するサービスを指します。
 
日本国内では、LINE Score、Jスコア(※ソフトバンクとみずほ銀行が共同展開)などが、既にサービスを開始しています。
 
 
 

先行する、芝麻信用(中国)の状況。

 
芝麻信用(セサミクレジット)は、アリババグループの系列会社が提供しています。
 
もともと、中国における個人融資への信用調査サービスは、中国人民銀行が行っていました。2015年、中国当局は、民間企業8社に対し、信用調査機関の設立準備許可を与えました。
そのひとつである、芝麻信用は、年齢や学歴、職歴、資産情報に加え、人間関係やEC・ITサービスの利用履歴など、今まで与信審査に使われなかったデータを加味した信用評価サービスを開始します。結果、芝麻信用を用いた個人向けローンの貸倒率は1%未満となり、従来の評価方法に比べ、はるかに高い結果を生み出しました。
ところが2018年、中国当局は方針転換し、信用調査機関を半公営の百行征信に統一しました。
 
言わば、はしごを外された格好になった芝麻信用は新しいサービスを考案します。
クレジットカードの場合、ゴールドカード、プラチナカード、ブラックカードのように、ユーザー自身が上位のカードへ申込みを行わなければ、優遇サービスが向上することはありません。しかし、芝麻信用は、「ECや電話代を滞納しない」「シェアサイクルなどのサービスを正しく利用する」といった、模範的な行動を続けることで信用スコアがアップし、自動的に優遇サービスを享受できる仕組みを提供し始めたのです。
 
芝麻信用が提供する優遇サービスは多岐に渡ります。
シェアサイクルなどのシェアリングサービスを利用する際の、保証金の免除。
ECにおける後払いサービスの利用。
また、高い信用スコアを持つ人は、一部の国に対する個人旅行ビザ取得における必要書類の一部免除、旅行先での免税サービスにおける優遇措置なども提供されています。
 
 
 

信用スコアがもたらす可能性

 
中国のシェアサイクル事業は、大きな課題を抱え、社会問題にもなりました。
中国のシェアサイクルは、日本のものと違い、乗り捨てができます。(日本のシェアサイクルの場合、指定された駐輪場に返却しなければなりません)
 
中国では、街のありとあらゆるところにシェアサイクルが放置され、自治体が不法に駐輪されたシェアサイクルを回収しなければならなくなりました。また回収されたシェアサイクルは大量に破棄され、環境問題にもエスカレートしました。
 
こういった、不道徳な振る舞いを、警察機能のような取締りと罰則を用いて正すことには限界があります。
しかし、芝麻信用は「正しいシェアサイクルの使い方」を行った人に対し、信用スコアを授けることで、人々を道徳的に振る舞うようにリードする役目を果たしました。
 
馬を調教するためにムチを振るうのか、それとも人参を用意するのか?
芝麻信用は、人参の効果を実証してみせたのです。
 
 
例えば、信用スコアを上げていくことで、予約の取れない店の予約を、優先的に行うことができる仕組みがあったとしましょう。
これは、お客さんと店の双方にメリットがあります。
店は、ドタキャンに怯えることなく、優良なお客さんを優先的に迎えることができます。
 
ルールやモラルを実践する人たちを優遇することで、社会を健全にしていく仕組み。
信用スコアには、このような大きな可能性があります。
 
 
 

信用スコアのリスクとは

 
ただし、信用スコアに対する社会の目は、決して優しくはありません。
日本国内では、芝麻信用のような信用スコア・サービスは、まだ本格的には始まっていません。
 
『ヤフー!スコア』は、2019年7月にサービスを開始したものの、プライバシー保護の観点から批判を浴び、2020年8月にサービス撤退しました。
 
『LINE Score』も、信用スコアを第三者提供する計画を保留したままです。
 
またEUは、今年4月にAIに関する規制案を、世界で初めて発表しました。
融資審査において、AIを用いて利用者の行動解析を行い、信用スコアに反映・活用することについて、高リスクであることを指摘したうえで、算出方法に対し事前審査を行う必要性を社会に訴えたのです。
 
 
信用スコアは、何をもって当人を評価する(格付けする)かによって、その成果が大きく変わってきます。と同時に、成果が大きい評価ポイントは、その分、大きな危険性をはらみます。
 
冒頭に挙げた、料理店やホテルなどに対するキャンセルを例に考えましょう。
 

  1. 予約どおりに料理店やホテルを利用した利用者に対して、プラスの評価を反映させる。
  2. 料理店やホテルをドタキャン・無断キャンセルした利用者に対し、マイナスの評価を反映させる。

 
2.の方が、効果は高いでしょう。
しかし、ドタキャン・無断キャンセルの裏には、実は止むに止まれぬ理由があったかもしれません。
極論ですが、自然災害に被災したケースだって考えられます。つまり、ドタキャン・無断キャンセルの事情まで判定しなければ、本当の意味で公正な信用スコアの算出はできません。
 
また、1.の方式を考えると、頻繁に外食をする、もしくは外泊をする利用者が優遇され、あまり外食・外泊をしない利用者は、信用スコアが上がりにくいという懸念も考えられます。
活動がアクティブな方ほど信用スコアが向上しやすく、そうでない方は信用スコアが上がらないというのは、本当の意味での「信用」とは、少し方向性が違います。
 
 
信用スコアというコンセプトは、社会をより良い方向に導くポテンシャルを備えています。
一方で、その利用には、知性とモラルをもって望まなければ、社会格差を生み出し、最悪、ジョージ・オーウェルが小説『1984年』で警鐘を鳴らしたディストピア=監視社会を生み出してしまう可能性もあります。
 
また、信用リスクがビジネスの需要から生まれたサービスであることも忘れてはなりません。ビジネス上のメリットと、社会への貢献は、必ずしも両立しないことは、これまでの歴史が証明しています。
 
信用スコアが、今後どのように使われ、そして発展していくのか。
これは、他人事ではなく、私たちひとりひとりが、冷静に観察し、そして時には勇気を持って「NO!」と声を挙げていくべき、言ってみればパンドラの箱であるのかもしれません。
 
 
  

参考および出展

 

  • WEDGE REPORT 課題は信用スコア自体の信用性 参入相次ぐ信用スコア 利便性の先に潜む「落とし穴」
    高口 康太 / Wedge 
    2019.9
  •  

  • ディストピアを避けよ 導入成功の5カ条 (特集 ハッピーか? AI格付け社会 : 「信用スコア」の光と影)
    日経コンピュータ
    2020.2.20

 
 
 


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