秋元通信

科学はスポーツをつまらなくするのか?

  • 2021.6.24

「繋ぐ野球」の大切さは、日本の野球界ではよく言われることです。
そして、「繋ぐ野球」を支えるのが、送りバントです。
 
ですが、最近のメジャーリーグでは、送りバントが激減しているのだとか。
 
送りバントは“消えゆく戦術”なのか!? MLBで激減する理由を探る
 
本記事は2017年9月に発表されたものですが、メジャーリーグでは、当時から既に送りバントが激減していたそうです。
 
記事によれば、2016年の犠打数は、一試合、一球団あたり0.21でした。さらに、別記事によれば、2019年には、0.16まで減少しているそうです。
ちなみに、日本のプロ野球での犠打数は、2019年で0.63なので、だいぶ差があります。
 
ではなぜ、メジャーリーグでは、送りバントがこれだけ減ったのでしょう?
 
「1死二塁よりも無死一塁の方が得点が入る可能性が高いのであれば、なにも2番打者に送りバントをさせる必要はない。むしろ2番に長打力のあるバッターを置いて、一気にかえしてしまおう──。そんな考えから、近年のメジャーリーグではチームきっての強打者を2番に置くことが多くなっている」、記事中ではこのように分析しています。
 
アメリカでは、野球における戦術を、過去のデータをもとに解析する、「セイバーメトリクス(野球統計学)が発展したことによって、送りバントが激減したのです。
 
 
送りバントが少なくなることが、野球をつまらなくするかどうかは、議論の分かれるところとは思いますが。
野球に限らず、サッカー、ラグビーなどでも、過去試合データの統計を取り、「もっとも有効な次の一手」を求める戦術分析は、広く普及しつつあります。
 
 
 

「残り体力を数値化して敵を打ち倒す」、サイクルロードレースのパワーメーター

 
『ドラゴンボール』では、スカウターという道具が登場します。
これは、スマートグラスのような形状の機器で、その画面を通して敵を見ることで、相手の攻撃能力を測定することができます。
 
『ドラゴンボール』では、圧倒的な攻撃力を持った敵に遭遇するたびに、孫悟空らは絶望します。しかし、修行を積んで、敵を倒せるだけのチカラを新たに身に付けることで、ストーリーが進行していきます。
 
しかし実際のスポーツの世界では、自身の攻撃力を圧倒的に、しかも短期間に成長させる方法などありません。
もし、敵の攻撃力、もしくは自分自身の攻撃力を把握する方法があるとしたら、それは、勝負にどのような影響をもたらすのか?、サイクルロードレースの世界では、既に垣間見え始めています。
 
 
ツール・ド・フランスなどに代表される、サイクルロードレース界では、パワーメーターを装備して練習、レースを行うことが一般化しています。パワーメーターとは、自転車に乗る選手の出力を測定するための機械です。また、現在の出力は、ハンドルに取り付けられたメーターで、速度や心拍数などとともにリアルタイムに確認することができます。
 
練習からレースまで、日常的に出力を測定しているわけですから、選手も、そしてチーム監督も、「◆◆選手は、▲▲ワットで走り続けるのは5分が限界だけど、△△ワットならば30分以上走り続けることができる」ということが分かっています。
さらに言えば、ライバル選手の出力も計測し、把握することが可能です。
ゲームで言えば、自分自身だけでなく、敵のMPやHPも把握した状態で戦うことができるわけです。
 
すると、どうなるのか?
2013年、2015年、 2016年、 2017年と4度のツール・ド・フランス総合優勝を飾り、他レースでも目覚ましい成績を残しているクリストファー・フルーム選手は、レース中、ずっとパワーメーターを注視しながら走っていました。ライバルが、例えばヒルクライムでフルーム選手を蹴落とそうとスピードを上げても、無視することも間々ありました。
 
「このペースで、あいつが俺から逃げ切れることなどありえない。俺は、このペースで淡々と登り続ければ、やがてあいつ失速し、俺は追いつくことができるから」
 
多くの場合、それはフルーム選手に勝利をもたらしました。
しかし、ファンにとって、それは望ましいレース展開ではありません。
 
アタックするライバル選手に対し、闘争心をむき出しに追いかけ、逆に追い抜き、勝利を勝ち取る。「俺に逆らうものは許さない」、過去にツール・ド・フランスで総合優勝してきた選手たちは、レースへの圧倒的な支配力を見せつけ、勝利を勝ち取ってきました。
 
「クリストファー・フルームはクレバーだが、チャンピオンにふさわしくない」、ファンからも、そしてサイクルジャーナリストからも、そんな声さえ挙がるようになりました。
 
これも、スポーツ科学がもたらした弊害なのでしょう。
 
 
 

スポーツ科学は、天才を潰すのか?

 
トレーニング、フォーム、もしくは戦術まで、スポーツ科学は、勝利への最適な方法を導き出すために活用されます。最適な方法とは、過去の実績から統計的に導かれることもあれば、シミュレーションによって算出されることもあるでしょう。
 
そこで導かれるのは、平均点を積み上げることで、勝利へと近づく方法かもしれません。
選手の育成方法が、平均点の積み上げを前提とすると、過去の統計や、シミュレーションでは計り切れない、天才性を備えた選手を潰す可能性すらあります。
 
天覧試合(1959年)でサヨナラ弾を放った長嶋茂雄。
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC/2009年)決勝で、10回2アウトから勝ち越し打を放ったイチロー。
 
どんなスポーツであっても、記憶に残る名選手には、こういった勝負強さがあります。
こういった勝負強さは、きっとAIでも解析できないでしょう。
そして、勝負強さを持つような天才肌の選手は、もしかするとスポーツ科学が導く常識からは、異端とされ、評価が低くなる可能性もあります。
 
 
科学がスポーツにもたらすものが、ファンにとって望ましいものなのか、それとも勝利への効率性だけをもたらすものなのか。
これは、神のみぞ知る未来なのかもしれません。
 
 
 


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