秋元通信

私たちの趣味嗜好が追跡される?、行動ターゲティング広告とは

  • 2021.7.20

現在放送されている、iPhoneのCMがあります。
 

 
男性が、コーヒーを買います。コーヒーを手に男性が店を出ようとすると、すかさず店員が男性を尾行し始めます。
次のシーンで男性は、何やら契約書らしきものを交わしてます。隣には、先のコーヒー店店員と、新たな登場人物である女性が登場し、契約書の内容を男性の手から奪うようにして確認します。
男性はドラッグストアに向かいますが、その道中には、10人以上の人たちが追随します。ドラッグストア店員から、おすすめ商品を教えてもらう男性、しかしその背後には、店員と男性の会話をメモする人物も登場します。
 
ようやく、男性は帰宅します。
自室には、なぜか大勢の人が入り込んでいます。
 
ソファーに座り、iPhoneを手に取る男性。その両脇には女性がふたり、iPhoneを覗き込んでいます。
 
ここで、画面にメッセージが登場します。
 
「どのアプリにトラッキングを許可するか」
 
男性のiPhoneには、以下の設定メッセージが表示されます。
 
「”友だちサーチ”が他社のAppやWebサイトを横断してあなたのアクティビティを追跡することを許可しますか?──、あなたのデータが追跡され、他社に販売されます」
 
画面に表示される選択肢はふたつ。
 
「Appにトラッキングしないように要求」
「許可」
 
男性は、「Appにトラッキングしないように要求」を選択します。
すると、室内にいた男性以外の人物たちが、弾けるように消えます。
 
そして、テロップが流れます。
 
「自分で選ぼう」
「プライバシー。これがiPhone」
 
 
このCM、ご覧になった方もいらっしゃることと思いますが、皆さま、(失礼ながら)意味が分かりましたか?
これは、行動ターゲティング広告をコントロールするiPhoneの機能、アプリトラッキング透明性(App Tracking Transparency/ATT)を紹介するCMなのですが、私の妻などは、まるで意味不明なCMに感じていたようです。
 
今回は、行動ターゲティング広告について、前後編に分けて解説しましょう。
 
 
 

行動ターゲティング広告とは?

 
行動ターゲティング広告とは、ターゲットとなるWebサイトの閲覧者や、モバイルアプリなどの利用者(※まとめて生活者と呼びます)の閲覧履歴、検索履歴などの行動を追跡することで、生活者の趣味嗜好、行動パターンなどを絞り込み、生活者によりマッチした広告を配信する手法を指します。
 
一例を挙げましょう。
先日、私はポータブル電源を購入しました。
仕事柄、私は遠隔地へ取材に行くこともあるのですが、コロナ禍の今、移動は極力クルマにしています。電車移動だと、カフェや駅の待合スペースなど、立ち寄り先で充電する機会もありますが、クルマだと、PCやスマホの充電が難しいことから、ポータブル電源を購入したいと思い至ったわけです。
 
私は、ポータブル電源に関する情報を収集するため、ネット上で検索を行いました。いくつかのポータブル電源メーカーのWebサイトも訪問しました。
すると、Facebookや、定期的に購読しているニュースサイト、もしくは別の目的で閲覧した初見のWebサイトでも、やたらとポータブル電源の広告が表示されるようになりました。Amazonでめぼしいポータブル電源を確認したところ、今度はその商品の広告も表示されるようになりました。(これをリターゲティング広告と呼びます。行動ターゲティング広告の一種です)
 
こういった経験をしたことのある方って、私以外にもたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?
 
 
 

行動ターゲティング広告の仕組み

 
私の例をもとに、行動ターゲティング広告の仕組みを解説しましょう。
 
私は、ポータブル電源の情報を得ようと、ポータブル電源に関する商品レビューを掲載しているWebサイトを訪問しました。
そのWebサイトでは、私のPC(もしくはスマホ※)内に、Cookieを置きます。Cookieについては、以前ご紹介していますので、ここでの説明は割愛させてくださいね。
 

個人情報流出よりも怖いもの【話題のWeb用語「Cookie」(クッキー)とは? 前編】

 
と同時に、「この人は、ポータブル電源に関する記事を閲覧したよ!」という情報を、業者に提供します。さらに、業者はこの情報を利用して、広告収入を得ている他のWebサイトに対し、「この人が、もしあなたのサイトに訪問したら、ポータブル電源に関する広告を表示してね」と知らせるわけです。
 
実際の仕組みはもっと複雑ですし、説明を簡単にするため、一部正確ではない説明もありますが、行動ターゲティング広告の仕組みは、概ねこのようになっています。
 
※スマートフォンの場合、Cookieだけではなく、携帯電話に紐付いた契約者固有IDを用いて行動ターゲティング広告が配信されます。
 
 
 

勘違いされやすい、個人情報との違い

 
ここまで説明すると、中にはこう思う方もいることでしょう。
 
「えっ!?、Webサイトを閲覧すると、個人情報が盗まれるの?」
 
ここ、とても難しいところです。
ポイントを変えながら、説明していきましょう。
 
 
 

定義としての個人情報

 
個人情報とは、特定の個人を特定できる情報を指します。
氏名はもちろん、生年月日や住所が紐付いたり、顔写真も個人情報です。
 
また、昨年公布された改正個人情報保護法では、仮名加工情報という定義が登場します。仮名加工情報とは、「他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報」(第一条9項)とされています。
 
なお行動ターゲティング広告は、氏名などの直接的な個人情報(もしくは狭義の個人情報)を特定すること、つまりスパイ行為を目的としたものではありません。この点は勘違いしないでくださいね。
 
 
 

広告目的における個人情報

 
行動ターゲティング広告とは、その名のとおり、広告です。
すなわち、「商品やサービスを売り込むこと」を目的としています。
 
そのため、行動ターゲティング広告では、ターゲットの趣味嗜好を重視します。ポータブル電源を探している人に対し、化粧品を売り込もうとしてもミスマッチが生じる可能性がありますから。
 
例えば、TV CM、ラジオCMといった広告は、多くの人に広告情報を伝達できる代わりに、広告を出稿する側と、広告を受け取る側の間にミスマッチが生じることがあります。と言うよりも、こういった広告は、ミスマッチが生じることを覚悟した上で提供される広告と言えます。
 
対して、行動ターゲティング広告では、より広告宣伝効果の高い生活者にターゲットを絞って、広告を配信します。
 
そこで大切になってくるのは、「坂田良平」(※筆者の氏名です)という直接的な個人情報ではなく、「ポータブル電源に興味がある人」という情報です。ただし、「ポータブル電源に興味がある人」という匿名ではありますが、個人が特定されていることがポイントとなります。
つまり、広告ターゲットとして、「日本国民1億2千万人のなかの、匿名者A」として、ユニークに特定されているわけです。
 
このように考えると、氏名等の直接的な個人情報も、「ポータブル電源に興味がある、匿名者A」という情報も、同様に保護されるべき対象であることが分かります。
 
 
 

行動ターゲティング広告は、生活者にも利益を提供する

 
冒頭に挙げた、iPhoneの新機能(正確には、iOS14.5の機能)であるアプリトラッキング透明性(App Tracking Transparency/ATT)とは、簡単に言えば、行動トラッキング広告を遮断する機能です。
そのことを知ってか知らずか、同機能がリリースされて2週間後のATTオプトイン、つまり、生活者の行動追跡をアプリに許可したiPhoneユーザーの割合は、グローバルで37%、日本で31%だったそうです。
 
ここまでの説明を読めば、行動ターゲティング広告に対し、悪い印象を持つ人が多いでしょう。
 
ですが、行動ターゲティング広告は、広告出稿側だけの都合を実現するものではありません。私ども生活者にとっても、行動ターゲティング広告はメリットもあります。
 
例えば、ニュースサイト。
ニュースサイトでは、読者の好むニュースを検知し、そういったニュースを多く表示させるようにする行動ターゲティング分析をベースにしたサジェスト機能が実装されています(※すべてのニュースサイトで本機能が提供されているわけではありません)。
私の場合、物流関係、もしくはIT関係のニュースを好んで読みますが、サジェスト機能がなければ、膨大なニュースの山から、物流ニュースやIT関係ニュースを探し当てなければならなくなります。
 
さまざまなWebサイトを閲覧する時に表示される広告にしても、まったく自分と関係のない広告が表示されるよりは、自分自身の興味がある広告が表示される方が良いはずです。
 
行動ターゲティング広告は、膨大な情報があふれる現代社会において、あなたが有益な情報を探す手助けをしてくれるメリットもあるのです。
 
 
ただし、行動ターゲティング広告の精度が悪ければ、やはり自分にとって興味のない広告が表示される現象が、やはり発生します。
 
最近、私の閲覧するWebサイトやYoutubeでは、やたらとAGA(男性型脱毛症)や加齢臭防止化粧品の宣伝が表示されます。
おそらく、「50代男性」をターゲットとする広告なのでしょうが。一応、私自身は、どちらも必要ないと考えているので、こういった広告は目障りかつ不快なだけです。
 
行動ターゲティング広告とは、生活者のWebサイト閲覧履歴などを解析し、生活者の趣味嗜好をデータとして蓄積する手法です。つまり、生活者に紐付けられた趣味嗜好の分析結果は、機械的に解析された結果であり、生活者自身が望む情報提供の形とは、異なっている可能性があります。
 
このような、広告を提供する側、提供される側のミスマッチを防ぐ方法が、現在ビジネス化しつつあります。
それが、情報銀行です。
 
情報銀行については、次回、ご紹介しましょう。
 
 
 

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