秋元通信

営業に必要なのは、営業トーク、それとも確率?

  • 2021.7.28

もう25年ほど前の話になります。
トラックドライバーを辞した私は、営業としての可能性を試したいと考えました。そこで、世間からも営業がキツイとして知られていた会社に入社しました。
 
私が配属されたのは、アウトバウンドのテレマーケティングで、今となっては懐かしい、PHSをセールスする部門でした。事務所にいるアポインターがアポを取り、外回りの営業が向かうわけですが、常にアポがあるわけではありません。アポがないときには、飛び込み営業を行っていました。
 
向いていたのでしょうね。私は、3ヶ月目には全国TOPになっていました。
やがて私は、営業スキルを買われ、外回りではなく内勤として、アポインターたちを教育するトレーナーになります。
 
当時の私は、営業成績を上げる秘訣は、営業トーク能力とモチベーションだと考えていました。
そのため、アポインターのための営業トークマニュアルを作成し、徹底的にアポインターたちのトーク力を鍛え上げました。また、アポインターたちのモチベーションを維持するため、時には自ら道化(というよりはお笑い芸人だったかも 笑)を演じ、時には鬼になり、アメとムチを使い分けていました。
 
私のチームは、やがて社内TOPの成績を上げるようになります。
「自分のやり方は間違っていない」──、私は、自信を持っていたのですが…
 
 
 

営業は確率なのか?

 
ある時、会社は、飛び込み営業だけしか行わない、子会社を設立しました。表向きのコンセプトは、「強い営業の復活」です。
 
問題の子会社(以下、A社とします)は、営業研修と称して、他部署の営業部員を1週間づつレンタルし、営業活動を行うこととなりました。
 
A社が設立して間もない頃、私も「営業研修」とやらに参加しました。
取り扱う商材と、契約書の書き方に関する1時間ほどの研修を行った後、渡されたのはA4用紙一枚にまとめられた営業トークマニュアル。15分ほどロールプレイングを行った後で、早くも飛び込み営業に向かいます。
A社の営業を取り仕切るのは、個人宅への訪問営業で、当時有名だったメーカーからヘッドハンティングされた人物です。とまどう私たちに、彼が命じたことはひとつだけです。
 
「一日、必ず120件の飛び込み訪問を行え!この商材の契約獲得率は約3%だから、120件訪問すれば、必ずノルマである日々3件以上の契約が取れる。営業は確率だ!!」
 
「バカを言うな!」
私も、営業チームを率いていた立場です。いくら社員を回してもらい、営業を行わせるといっても、中には飛び込み営業を一度も行ったことがない者もいます。
なにより、商材が異なります。
私が在籍していた親会社では、さまざまな商材を扱ってはいたものの、基本法人向け商材ばかりでした。しかし、A社が取り扱うのは、個人向けの商材であり、飛び込み営業先も個人宅となります。
 
営業とは、トーク能力とモチベーションだと考え、実践してきた私です。
モチベーションはともかく、トーク能力を軽視する子会社のやり方に納得できるわけがありません。
 
「この子会社は失敗するな」──、同僚ともそう話していました。
 
しかし、A社は業績を上げ続けます。
研修名目で、親会社の人員を使っているわけですから、人件費が浮き、粗利が出るのは分かります。粗利だけではなく、契約獲得件数も右肩上がりでした。
 
「営業は確率だ!!」、結果が出ているのですから、認めないわけにはいきません。
 
 
 

確率以前に存在するもの

 
先の会社から転職した私は、外資系IT企業のグループ会社であり、WebサイトやWebアプリケーションの制作を行う会社で働き始めました。
 
以前の職場、以前の営業スタイルと違い、新天地では即決即断を迫る営業はできません。お客様の課題を知り、解決に貢献する提案を行わなければ、契約は頂けません。
 
転職先の会社には、SEやデザイナーなどの技術職・専門職はたくさんいましたが、営業経験がある者は、ほぼ皆無でした。
そこで、私は営業兼ディレクターとして、Webサイト・Webアプリケーションの開発に携わることになります。新天地での営業手法は、私自身があらたに作り上げなければならない状況だったのです。
 
紆余曲折の挙げ句、私がたどり着いたのは、訪問回数と、提案書の提出件数でした。
 
一日に最低2件のお客様を訪問すること。
1週間に、必ず最低1通の提案書を作成すること。
 
このふたつを自らに課し、営業活動を続けます。
特に、提案書の方はきつかったです。3~4枚で収まる提案書もありましたが、多いものでは、20枚30枚のボリュームになります。これを最低週イチのペースで続けるわけですから。
また、そもそも提案するネタがないこともあります。それでも、お客様に食らいつき、新たなネタを探し、提案書を書き続けました。
 
そんなある日、私は気が付きました。
 
「私がこだわっていたのは、数ではなく、確率だったのではないか!?」
 
かつて私がバカにした、「営業は確率だ!!」という方法論に、私は知らず知らずのうちに、たどりついていたのです。
 
 
 

A社が成功した理由

 
ここで言う営業トークとは、広い意味で、営業のテクニックやスキルも含むものとお考えください。
 
結論を言えば、営業トークと確率(契約獲得率、もしくは獲得平均値)は、両輪の輪のような関係にあるものと、今は考えています。
 
営業トークも確率も、いきなりは育ちません。
もちろん、100人も200人も営業部員がいるような大企業で、かつある程度の年数、その商材を販売し続けているのであれば、統計として確率(契約獲得率)を算出することは可能でしょう。
しかし、新人営業マンにおける契約獲得率は、もちろん全体の契約獲得率とは一致しません。
こと新人育成に関して言えば、営業トークをある程度身に付けないと、会社平均の契約獲得率レベルには達しないのです。
 
 
ここで、A社が成功した理由を考えましょう。
 

  • ずぶの新人ではなく、(他商材とは言え)基本的な営業スキルを備えた人材を活用したこと。
  • 前述の人材が実現可能な契約獲得率を元に、事業計画を立て、実践したこと。

 
補足しましょう。
A社の取り扱い商材を営業する上で、理想的な営業マンのレベルが100だとします。
しかし、実際に営業を行う、各部署からの寄せ集め人材における、「A社取り扱い商材の営業レベル」は、40だとします。
 
だったら、最初からレベル40の営業マンにおける契約獲得率をもとに、事業計画と、営業マンへの目標を設定すればいいだけです。
 
ポイントは、ずぶの素人ではない点です。
取り扱う商材は違うとは言え、そもそも皆、厳しい営業会社で、営業マンとして活躍している人ばかりです。したがって、契約獲得率は予測しやすかったと考えられます。
 
A社は、最初からレベル100のパーフェクト営業マンを戦力として考えていたわけではないのです。
だから、たいした教育を行うこともなく、すなわち営業トークを鍛えることをスキップし、結果を出すことができたのです。
 
 
 

経験の少ない営業マンが陥りがちな罠

 
「これだけ営業トーク(もしくは営業手法)を考えたのですが。なかなか成績が出ません。なぜなのでしょうか?」──、これまで私は、新人、もしくは成績が出ない営業マンから、こんな悩みを相談されたことが何度もあります。
 
飛び込み営業や、テレマーケティング営業では、営業トークはとても大切な武器となります。ですがそれゆえに、営業トークを作ることが第一義になってしまい、お客様と会う回数を減らしてしまう人が、とても多いことを、私は経験してきました。
 
営業部のトレーナーだった頃、私のチームにある営業マンが異動してきました。
経験は長いのですが、営業成績はずっと下の上くらい、つまり落ちこぼれの営業マンでした。
 
彼は私に悩みを打ち明け、そして自らが作成した営業トークノートを見せてくれました。根がまじめなのでしょう、大学ノート4~5冊分はあったものと記憶しています。
 
「君の努力は認めるけど、努力の方向性が違う。事務所で営業トークを考える暇があったら、とにかく飛び込み営業を行いなさい」、私は彼に指示しました。
そして、営業後帰社した彼から、その日契約獲得できた案件(もしくはできなかった案件)について、毎日話を聞くようにしたのです。
話を聞くと言っても、基本、話を聞くだけです。どういったお客様で、どういったニーズがあり、どういったトークをした結果、契約を獲得できた(もしくは、「できなかった」)のか。
私からのアドバイスは控え、彼自身が気づきを得ることを狙ったのです。
 
 
やがて、彼は自らの成功の法則を、把握し始めます。
「この営業トークに持ち込めば、ほぼ100%契約を獲得できる」という、自分なりの成功体験が見えてきたのです。
 
成績は右肩上がりに上昇し、最終的には全国3位の成績を上げました。
 
 
 

営業は、トークなのか?、それとも確率なのか?

 
営業って、筋トレではないでしょうか。
 
筋トレでは、トレーニングを重ねなければ筋肉がつくことは絶対にありえません。
「こうやって筋トレすれば、筋肉がよりパンプアップするかな?」、考える行為そのものは尊いかもしれませんが、考えるだけで筋肉がつくのであれば、そんなにかんたんなことはありません。
 
営業も同じです。
あなたにマッチした営業方法を教えてくれるのは、あなたの想像力ではなく、お客様です。
だから、ひたすら額に汗し、失敗も繰り返しながら、あなたにとっての営業における成功法則を探し続けるしかないのです。
 
そして、そのためには、とにかくお客様との接触頻度を上げることが、とても重要になります。
 
お客様と会い、営業トークを磨き、そしてまたお客様と会う。
これを地道に繰り返していけば、自ずと営業トークが洗練されます。
 
と言っても、100回200回じゃだめです。
自分自身における営業の成功法則は、1000回、2000回、そして1万回と数を重ね、ようやく見えてきます。
契約獲得の確率は、言わば副産物です。言い方を変えれば、ひたすら汗を流し続けた結果のギフトなのです。
 
「営業は、トークなのか?、それとも確率なのか?」──、この問いに、皆さまはどうお考えになりますか?
 
実は、私は、営業トークでもなく、確率でもなく、もっとも大切なのは打席数だと思っています。
営業トークも確率も、とても大切ではありますが、営業が育成される順番を考えると、まず必要となるのは打席数、つまりお客様との接触回数だと考えています。
 
「考える前にまず動け、結果は自ずとついてくる」、一見頭の悪そうな営業育成論かもしれませんが、私自身が実践してきたのは、これでした。
 
誤解のないように補足すると、私が設定した訪問件数や、提案書の提案数といったKPI(Key Performance Indicator 重要業績評価指標)は、打席数を増やすために、自ら課した枷です。決して、最初から契約獲得確率を把握していたわけではありません。
 
自らの営業成績に悩む方、もしくは部下、チームの営業成績に悩む方もいるでしょう。
私の経験が、皆さまのお役に立てれば幸いです。
 
 
 


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