メルマガ『秋元通信』読者の多くは、物流業界の方々です。
したがって、トラックドライバーの人不足に関しては、多くの方が実感していらっしゃることでしょう。
しかし、トラックドライバーの人不足って、他の業界や職種と比べると、どれくらいのレベルなんでしょうか?
実は過去、『秋元通信』をご覧いただいている建設業界の方から、「建設業界の人不足は、トラックドライバーの比じゃないぞ!」と指摘されたこともあります。
厚生労働省が公開している『職業別労働市場関係指標』から、最新となる2021年7月時点での有効求人倍率を確認してみましょう。
※有効求人倍率の高い順に並び替えています。
※全職業の平均有効求人倍率は、1.02倍。
- 建設躯体工事の職業 8.59
- 保安の職業 5.91
- 土木の職業 5.8
- 建築・土木・測量技術者 5.27
- 建設・採掘の職業 4.96
- 建設の職業 4.04
- 機械整備・修理の職業 3.86
- 採掘の職業 3.85
- 介護関係職種(注2) 3.69
- 家庭生活支援サービスの職業 3.66
- 介護サービスの職業 3.64
- 電気工事の職業 3.42
- 生活衛生サービスの職業 3.15
- 医療技術者 2.85
- 外勤事務の職業 2.83
- 社会福祉の専門的職業 2.79
- 保健医療サービスの職業 2.69
- 金属材料製造、金属加工、金属溶接・溶断の職業 2.58
- サービスの職業 2.42
- 包装の職業 2.15
- 製品検査の職業(金属除く) 2.12
- 自動車運転の職業 2.07
本統計では、68の職業に分類されています。
その中で、「自動車運転の職業」は、22番目、有効求人倍率は2.07倍です。
「自動車運転の職業」には、バスやタクシーなどのドライバーも含まれるため、トラックドライバーだけではありません。
ただしそのことを加味しても、世の中にはトラックドライバーよりもはるかに人不足で悩んでいる職種があることがわかります。
もっとも高い、「建設躯体工事の職業」の有効求人倍率は、なんと8.59倍!
トラックドライバーの有効求人倍率の4倍以上です。
「躯体工事:
建築工事において主要構造部分を形成する工事の総称。 鉄骨工事、型枠工事、鉄筋工事、コンクリート工事などがこれに含まれる。 これにたいして、木工事、塗装工事などの内外装の工事を総称して仕上げ工事という」
出典:Weblio
日本建設躯体工事業団体組合のWebサイトには、以下のように書かれています。
「優秀な技能工の育成・確保は、われわれ躯体工事業者にとって永遠のテーマです。『人が構造物(もの)を作る』ことは、不変です。その構造物が、ユーザーのニーズに応え得るかはひとえにわれわれの技能にかかっています。いかにスピードの時代といえども、技能者は一朝一夕に育つものではありません」
先のランキングを診ると、ワースト1位、3~6位を建設関係の職種が占めています。
6位の「建設の職業」でも、有効求人倍率は4.04倍。「自動車運転の職業」の倍です。
技能の習得が必要となる建設業界では、ここ何年も慢性的な人不足に悩まされています。
続いて目立つのは、医療・福祉関係の職業です。
9位に入った、「介護関係職種」は、「『福祉施設指導専門員』、『その他の社会福祉の専門的職業』、『家政婦(夫)、家事手伝』、『介護サービスの職業』の合計」であると、厚生労働省の統計資料には注釈が付けられています。
医療・福祉関係は、技能が必要なことに加え、感情労働と呼ばれる職業です。
顧客となる患者や要介護者に対し、自身の感情を抑えて、適切・的確なサービスを提供することを求められます。
このように診ると、技能の習得が必要であったり、精神的、体力的なストレスを必要とする職業は、人不足に悩んでいることが分かります。
結論から言ってしまうと、トラックの自動運転、無人運転技術が商業ベースにのるまでは無理ではないでしょうか。
2021年3月1日時点の日本の総人口は、1億2548万人です。
その年齢別構成比は以下のとおりです。
- 15歳未満 12.0%
- 15~64歳 59.3%
- 65歳以上 28.8%
少子高齢化が、日本社会の深刻な課題であることは、皆さまご承知のとおりです。
2060年には、総人口は8,674万人。65歳以上の高齢者は3,464万人、構成比で約40%となり、日本の2.5人にひとりが65歳以上の高齢者という社会が予測されています。
これはトラックドライバーに限った話ではありませんが、今後、人口が減少傾向にある日本国内において、潤沢に人を集められる、もしくは潤沢に人を使うことができる産業は、ごく一部に限られていくことは明白です。
ではどうすればいいのでしょうか?
「人を集めること」に苦心するのではなく、技術革新や業務改善によって、省力化・省人化を実現することが、今後の人不足解消における重要な要素となるはずです。
これは私見ですが。
トラックドライバー不足の問題を、採用によって解消する、すなわち「他社より人を集めること」にのみ注力して、問題解決を図る考え方は、少し近視眼が過ぎる気がしてなりません。
もちろん、今年、来年、再来年といったレベル感では、採用活動にチカラを入れることは必要です。しかし、5年後、10年後を考えると、輸送効率のアップを図る施策にも、積極的に注力するべきだと私は思います。
なにしろ、国土交通省は、2025年以降に自動運転トラックの実用化を図ることを明言していますから。トラック輸送が、すべて無人になることはありえないでしょうが、技術革新によって、トラックドライバー不足が解消に向かう前に、ドライバーの有無に関係なく、競争力を備えた輸送施策を武器として身につけることは、とても大切なことではないでしょうか。
ハード面では、スワップボディや二段活用ラック、もしくはパレタイズの推進など。
ソフト面では、共同輸送や中継輸送や、積み込み最適化ソリューション、自動配車システムなど。
トラックドライバー不足は、依然として頭の痛い課題です。
ですが、おそらく…と言うか、間違いなく、トラックドライバーが突然人気職業になることはありえませんから。
私たちは、もう一歩踏み込んだ対策に取り組んでいかなければなりません。