秋元通信

フィジカルインターネットとは?、秋元通信流に噛み砕いて解説

  • 2021.11.24

本稿では、フィジカルインターネットについて、秋元通信流に解説しましょう。
 
 

貨物輸送の根本的課題とは?

 
「貨物輸送の根本的課題とは?」──いきなり、大上段から難しい問いになりますが。
皆さまは、どう思いますか?
 
運賃が安いこと(荷主さまからすれば、「運賃が高いこと」)。
手配に手間がかかること。
「指定時間に届く?、ホントに大丈夫?」といった、輸送ビジネスに対する根本的な不安を抱えている方もいるでしょう。
 
現在、国内すべてのトラック輸送における平均積載率は、40%を下回っていると言われています。
 
極論、平均積載率が80%になれば、もはや社会課題となりつつあるトラックドライバー不足は解消します。だって、単純計算で、必要なトラックの台数は半分になりますから。
 
運賃だって、大幅に安くなるでしょう。
 
「運送会社はやっていけなくなるんじゃないか?」─いや、そうとも言えません。
一回の運行で、倍の貨物を運べるとなれば、当然トラック一台が上げる売上は増えます。もちろん、単純に倍になることはないでしょうが、それでも運送会社の生産性は、大幅に向上します。
トラックドライバーの雇用維持ができるのかどうかは、微妙なところですけれども。
 
 

フィジカルインターネットとは

 
フィジカルインターネットというキーワードの創造主である、ジョージア工科大学 ブノア・モントルイユ教授の著書『フィジカルインターネット 企業間の壁を崩す物流革命』(日経BP刊)において、フィジカルインターネットは以下のように定義されています。
 

『フィジカルインターネットは、相互に結びついた物流ネットワークを基盤とするグローバルなロジスティクスシステムである。その目指すところは効率性と持続可能性の向上であり、プロトコルの共有、モジュラー式コンテナ、スマートインターフェースの標準化を図る』

 
難しくて、よく分からないですね。
端的に言うと、フィジカルインターネットに必要な要素は3つです。
 

  • トラック、倉庫などの、すべての物流リソースがリアルタイムにシェアされること。
  • 標準化されたコンテナ。貨物の内容やサイズに合わせて、複数のサイズ・仕様のものが必要。
  • 貨物と物流リソースなどの情報をやり取りするための標準化された情報通信規格(プロトコル)と、それらを処理し、最適な輸送手段を算出する配車の仕組み。

 
フィジカルインターネットに参加する、すべての輸送手段(トラック、鉄道、船、航空)は、その運行状況であり、配車状況(※未来、すなわち予定されている運行状況のこと)に関する情報を共有します。
倉庫もしかりです。庫内の空き状況はもちろん、バースの稼働状況・予約状況なども共有されます。
 
荷主は、標準化されたコンテナに貨物を収納します。
その上で、フィジカルインターネットで管理された輸送ネットワークに対し、「この貨物を、A地点からZ地点まで輸送して欲しい」と依頼します。
 
フィジカルインターネットを管理する配車マンは、トラック、倉庫などの物流リソースを確認し、最適な輸送手段を算出します。
 

「発地であるA地点から、B地点までは、JR貨物で輸送しよう。
B地点に、C社の大型トラックDを回送し、貨物を積み込み。
E地点にある、F社の倉庫に半日ほど仮置してから、今度は、G社の2tトラックで配送先である、Z地点まで輸送しよう」

 
こんな具合です。
 
標準化されたコンテナを必要とするのは、中継輸送を前提とするからです。
中継するたびに、貨物を手積み・手卸ししていたら面倒ですし、貨物事故の原因となります。
 
また、トラックや倉庫などのスペックも予め共有されている必要があります。
トラック・倉庫は、それぞれ冷凍・冷蔵に対応しているか、バースの仕様などですね。
もっとも、標準化されたコンテナには、もしかしたら冷凍冷蔵機能が備えられた、リーファーコンテナのようなものが用意される可能性もありますが。
 
そして大切なのは、これらの情報をやりとりするための情報通信規格です。例えば、トラックの積載容量について、才数と立方メートルが混在していたら、スムーズにデータをやりとりすることはできません。
 
このように、フィジカルインターネットとは、荷主間にある壁、物流事業者間にある壁、運べる/運べない貨物の壁などを取り除き、限りなくオープンな物流ネットワークを創り上げることで、究極に最適化された物流を目指す、物流革命なのです。
 
 

フィジカルインターネットはいつスタートするのか?

 
先日開催された、第一回フィジカルインターネット実現会議では、フィジカルインターネット実現に向けた検討が、産業別に部会を設けて行われることになっています。
フィジカルインターネット全体の社会実装は2040年ですが、スーパー(※食品配送)では、前倒しし2030年の社会実装を目指すことも発表されました。
 
フランスで行われたシミュレーションでは、フランスの小売大手カルフールとカジノがフィジカルインターネットを実現すれば、物流コストを1/3に圧縮できると算定されました。
 
これだけ効果のある取り組みですから、早く社会実装したいと考えるのは当然でしょう。
 
ただし、実現を急ぐ理由は、もう一つあります。
フィジカルインターネットを早く実現すれば、その仕組み(仮に、「日本版フィジカルインターネット」と名付けましょう)を海外に販売することが可能になるからです。
 
新幹線が海外に輸出されているように、日本版フィジカルインターネットが優秀な仕組みであれば、海外に販売することが可能となるはずです。
 
逆に、日本版フィジカルインターネットの実現が遅れれば、フィジカルインターネットの世界標準との差異が生じ、日本のフィジカルインターネットがガラパゴス化する危惧も生まれます。
 
海上コンテナなどは、その好例でしょう。
50フィートコンテナは、国内の道路を輸送できませんし、JR貨物では、海上コンテナには(原則として)存在しない、12フィートのコンテナが存在します。
海外のフィジカルインターネット対応コンテナと、国内の対応コンテナの規格が違ってしまうと、通関ないしその前後のタイミングで、バンニング・デバンニング作業が発生することになります。
このような事態を防ぐためにも、世界に先駆けて日本版フィジカルインターネットを実現し、標準規格の一角を担うことは、とても大切です。
 
 
フィジカルインターネットという概念は、とても複雑で分かりにくいです。
しかし、すべての物流従事者にとって、フィジカルインターネットはもはや常識として知っておくべきものです。
 
本稿が、その一助となれば幸いです。
 
 
 


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