秋元通信

子どものデジタルタトゥー問題を考える

  • 2021.11.30

ジョージ・クルーニーが、自身の子どもの顔写真を公開しないようにメディアに要請した文書が話題を呼んでいます。
 
その全文をご紹介しましょう。
 

『ビリー・ラード(※アメリカの俳優)の1歳の赤ちゃんの写真があなた方の出版物に掲載されているのを目にし、その後その写真は取り下げられたようですが、私たちの子どもの顔写真を掲載するのは控えていただきたいと思います。
 
私は公人であり、仕事の代償として、差し出がましい写真をときには受け入れています。ですが子どもたちはそのような約束をしていません。
 
妻の仕事の性質上、彼女はテロリスト集団と対峙し、裁判にかけることもあり、私たちは家族の安全を守るためにできる限りの予防措置をとっています。しかしどんな出版物でも、彼らの顔が表紙に載ってしまえば、私たちは子どもたちを守ることはできません。
 
私たちは子どもたちの写真を売ったことはありません。ソーシャルメディアも利用していませんし、写真を投稿することもありません。なぜなら、そうすることで彼らの命が危険にさらされるからです。妄想上の危険ではなく、現実世界の問題であり、現実世界の結果なのです。
 
何の罪もない子どもたちが狙われないようにすることの方が、広告を売ることよりも大切だということを理解していただけることを望みます。
 
ありがとうございます。
 
ジョージ・クルーニー』

 
 
奥様は、人権派の弁護士として知られています。
ジョージ・クルーニーが言うとおり、ご本人、もしくは奥様が恨みを買ってしまい、報復対象に子どもが狙われることもありえるでしょう。身代金目当てで誘拐される危惧もあります。
 
「いや、これは有名人の話であって、一般人がSNSで子どもを公開するのとは、事情がまるで違うでしょう?」──そう思っている方がいたとしたら、それは間違いだと断言します。
 
 

『ネヴァーマインド』(ニルヴァーナ)のジャケットで裸をさらされた男性

 
プールに潜った赤ちゃんが、1ドル札に向かって泳いでいる、『ネヴァーマインド』(ニルヴァーナ)のジャケットは、過去の音楽アルバムの中で、もっとも印象的なジャケットデザインのひとつかもしれません。
 
この赤ちゃん当人、現在は30歳になった男性が、「商業的児童ポルノを故意に作成、所有、宣伝した」「生涯にわたる損害を受けた」として、存命中のニルヴァーナのメンバー、リードボーカルだった故カート・コバーンさんの遺産管理人、および複数のレコードレーベルに対し、損害賠償を請求したのです。
 

「ネヴァーマインド」の裸の赤ちゃん、ニルヴァーナを提訴 「児童ポルノ」と主張

 
実は、このスペンサー・エルデン氏は、成人してから何度も同ジャケットを再現しており、今回の裁判については金目当てではないかと揶揄する声も挙がっているそうです。
エルデン氏は、過去にもこのジャケットに対し、不快感は表明していたそうですが。
 
 

子どもの顔写真などを世間にさらす、その課題とは

 

  • 子ども自身に判断ができないこと
    子どもと言えど、ひとりの人間です。
    しかし、親が子どもの顔写真などを世間にさらすとき、そこに子ども自身の判断はありません。
     
    年齢的に判断ができないこともあるでしょうし、判断する機会を与えられないことも課題です。
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  • 後から、当人が嫌な思いをすること
    ニルヴァーナのジャケットのように、後から当人が、その写真の存在に対し、ネガティブな思いを抱くこともあるでしょう。
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  • 当人の評価も変わること。そしてそれを受け入れない周囲の目。
    これにはふたつの側面があります。
     
    まず、小学生の頃には好ましいと思っていた自身の写真も、思春期、もしくは社会人になってからだと疎ましかったり、嫌だと思うように変わることもあるでしょう。
     
    もうひとつ問題なのは、当人の意識が変わったことに対し、責める人がいることです。
     
    ニルヴァーナのジャケット写真に使われたエルデン氏も、最初はご自身もおもしろがっていたのかもしれませんが、やがて「裸を世界中にさらした赤ちゃんでだよね?」というレッテルが常に付きまとうことに嫌気がさしたのかもしれません。
     
    人の心など、時間や環境の変化とともに移ろいゆくものです。
    しかし、それを許さない人もいるわけです。
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  • デジタルタトゥーとして、当人にとって呪縛となる可能性があること
    デジタルタトゥーとは、過去にネット上にアップした(された)情報が、いつまでも当人につきまとい、そして苦しめる原因となることをさします。
     
    今回テーマの文脈で言えば、親のしでかしたことが、永遠に子どものデジタルタトゥーとして当人を苦しめることになります。

 
 

SNSでのNG例

 
InstagramやTwitterのような公開を基本とするSNSと、Facebookのように公開範囲をコントロールする使い方がデフォルトのSNSでは事情が異なりますが、SNSにおいて、やってはいけないことを挙げましょう。
 

  • 子どもの裸をアップする
    論外ですね。
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  • 子どもの汚い姿をアップする
    例えば、よだれを垂らしている姿。
    例えば、うんちを漏らし、泣いている姿など、親からすれば愛くるしい姿でも、物心ついた当人を苦しめる可能性がある姿をアップするのはNGでしょう。
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  • 子どもの顔写真を公開する。
    InstagramやTwitter、Youtubeなどでは、原則として子どもの顔はアップすべきではありません。ジョージ・クルーニーとは違う、一般人のあなたでも、子どもを危機にさらす可能性が高まります。
     
    なお、Facebookで、友達のみに公開する場合でも、そもそも誰彼かまわず友達承認を行っている方は、同様に子どもの顔写真をアップすべきではありません。

 
 
大原則として、自分がされて嫌なことは、子どもに対しても控えるべきです。
ちなみに、これは自社の社員に対しても同様です。
 
最近では、社員に対して採用コンテンツやオウンドメディアへの掲載を強要するケースも問題になることがあります。
また、退職した社員のインタビューが、自社Webサイトに掲載され続けることで、問題が生じることもあります。
 
これも、ある種のデジタルタトゥーと言えるでしょう。
 
自社社員を対象とした肖像権の課題は、また別途考えましょう。
   


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