「パーパス(Purpose)」
目的、意図、(ものの使用の)用途、(目的達成への)決心、決意、効果、適切
(出典:Weblio英和辞典・和英辞典)
2021年に話題となったビジネス・キーワードに、「パーパス」(もしくは、「パーパス経営」)があります。
この場合の「パーパス」は、「存在意義」を意味します。
つまり、企業がパーパスを掲げる場合には、その企業の存在意義を、世に掲げることになります。
今回は、話題のビジネス・キーワード「パーパス」を解説しましょう。
従来から、企業が掲げるものとしては、ビジョン、ミッション、バリューやカルチャーなどがありました。
ボストン・コンサルティング・グループでは、その違いをこのように説明しています。
- パーパス
「WHY」(なぜ社会に存在するか) - ビジョン
「WHERE」(どこを目指すか) - ミッション
「WHAT」(何を行うべきか) - バリュー・カルチャー
「HOW」(どのように実現するか)
この区別は、とても分かりやすいです。
2019年夏、アメリカの主要企業が名を連ねる財界ロビー団体であるビジネスラウンドテーブルは、「企業の目的に関する声明」を発表しました。
この声明は、以下のように締めくくられています。
「どのステークホルダーも不可欠の存在である。私たちは、会社、コミュニティ、国家の成功のために、その全員に価値をもたらすことを約束する」
この宣言は、それまで企業を支配していた、シェアホルダー至上主義(株主至上主義)から、ステークホルダー至上主義への転換を意味します。
企業は利潤を追求し、株主に還元すべしとしたのは、ノーベル経済学賞も受賞した、ミルトン・フリードマン(米シカゴ大学教授)でした。1970年のことです。
しかし、行き過ぎた利潤の追求は、多くの弊害を生み出しました。
水俣病、イタイイタイ病などの公害病は、その最たる例でしょう。
新疆ウイグル自治区で生産された綿を製品に使用しているアパレルメーカーが、世界的に非難されたのも、この文脈によるものです。
ステークホルダーとは、企業の経営者、従業員、その家族、株主、取引先、金融機関など、企業の事業活動に関係する、すべての利害関係者を表す言葉です。
仮に儲かっていたとしても、企業に関係する人たちが苦しんでいたり、悲しんでいる、そんな企業は良い会社ではありません。
パーパスはそんな反省から生まれました。
- パーパス(存在意義)
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」 - バリュー(価値観)
夢と好奇心──夢と好奇心から、未来を拓く。 - 多様性──多様な人、異なる視点がより良いものをつくる。
- 高潔さと誠実さ──倫理的で責任ある行動により、ソニーブランドへの信頼に応える。
- 持続可能性──規律ある事業活動で、ステークホルダーへの責任を果たす。
現在のソニーは、ビジョンを掲げていません。パーパスが、ビジョンに代わるものとして、グループ経営のみちしるべとなっているのです。
日本のインターネット広告における草分けであり、現在はゲーム事業や、『ABEMA』などのメディア事業も手掛けるサイバーエージェントでは、以下のようにパーパスとビジョンを定めています。
- パーパス
新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する - ビジョン
21世紀を代表する会社を創る
先ほど、「パーパス=WHY(なぜ社会に存在するか)」、「ビジョン=WHERE(どこを目指すか)」と説明しましたが、サイバーエージェントのパーパス、ビジョンは、その関係性が分かりやすいです。
ちなみに、サイバーエージェントのWebサイトでは、パーパス、ビジョンの順番で並んでいます。
ビジョンとパーパス、どちらがより優先順位の高いものか?、という議論がありますが、ソニーとサイバーエージェントにおいては、パーパスを重視しているのでしょうね。
MVVという言葉があります。ミッション、ビジョン、バリューの頭文字を取ったものです。旧来、企業における理念やコンセプトを表すものとしては、このMVVが代表格でした。
近年のパーパス・ムーブメントを診ていると、ミッション、ビジョン、バリューに対し、パーパスが割って入った印象を受けます。
ミッション、ビジョン、バリュー、そしてパーパス。
お叱りを恐れずに言えば、これらの違いを学ぼうとすると、言葉遊びをしているような感覚に襲われるのは私だけではないはずです。
それでも、パーパスが注目を集めるのは何故でしょうか?
ソニーグループの会長兼社長 CEO 吉田 憲一郎氏の言葉には、そのヒントがあります。
「ソニーが企業として持続的に価値を創造していくためには、戦略立案よりも実行力が重要であり、その実行力を担保するのは、Purposeに支えられた企業文化です。
CEO としての私の3年間を振り返ると、Purposeを定義し、これを企業文化として定着させてきたことが、最も重要な成果だと捉えています」
出典
Corporate Report 2021
9ページ 「Purposeに支えられた企業文化」
かつてソニーは、ウォークマンによってイノベーションを起こしましたが、ウォークマンの起こしたイノベーションにこだわるあまり、iPod、そしてiPhoneに、音楽プレイヤー・メーカーとしてのAppleに奪われました。
参考記事
“過去の成功例に囚われることの危険性”
「何をしている企業なのか、よく分からないよね…」──ゲーム機器やフルサイズ一眼レフカメラ、エンターテイメントなど、それぞれの製品やサービスを診れば評価に値するソニーですが、ともすればそれは、事業の軸足が定まっていないようにも捉えられることがありました。
ソニーが軸足を再定義するために、「Purposeに支えられた企業文化」、すなわち、「ソニーは○○のために存在する」という存在意義を、社会、そして従業員を含めたステークホルダーに対し、声高に宣言することが必要だったのでしょう。
もう一つ、注目すべきは、「CEO としての私の3年間を振り返ると、Purposeを定義し、これを企業文化として定着させてきたことが、最も重要な成果だと捉えています」というソニーグループCEO吉田氏の言葉です。
「企業文化として定着させた」対象は、グループ企業の従業員です。
パーパスが注目されるようになった背景には、シェアホルダー至上主義からステークホルダー至上主義への変遷があると申し上げましたが、吉田氏の言葉からは、ステークホルダーの中でも、とりわけ従業員を意識していることが伺えます。
考えてみれば、身内である従業員に理解されない企業文化が、株主や取引先などに理解されるわけがありません。だからこそ、ソニーでは、CEO最大の成果を、「パーパスを企業文化として定着させたこと」とアピールするのでしょう。
「そう言えば、ウチの従業員は、ウチの企業理念を覚えているのかな?」──そう思った経営者の皆さま、それは問題ですよ!
「いや、うちそもそもビジョンもミッションも定めてないし…」──これは論外です。
パーパスが注目を集める背景には、そもそも企業のあるべき姿を言語化、スローガン化することの大切さを、社会が求めていることがあります。
そもそも、企業理念やビジョンを定めていないというのは…、経営者としての資質を問われかねませんよ。
- パーパスとは 「存在意義」会社が自ら定義 (日本経済新聞)
- ミッション、ビジョンを超える経営理念「パーパス」って何だ (特集 ビジョンと経営)
経済界 2022.1 - 起業家自身を鼓舞し、取引先の支持を集め、チームを団結させる なぜスタートアップの成功にはパーパスが欠かせないのか (特集 ステークホルダー資本主義 : パーパス主導の経営で新たな未来をつくる)
ランジェイ グラティ, スコフィールド 素子 訳
Harvard business review 2021.10 - 「パーパス」を策定する会社が急増 京セラにも危機感 改革に動く大企業 (特集 良い社風、悪い社風 : 不祥事の根源か、改革の妙薬か)
日経ビジネス 2021.8.16