秋元通信

完全自動運転は、いつ実現するのか?、官民ITS構想・ロードマップを紐解く

  • 2022.4.20

運転やルート選択はクルマに任せ、人はただシートに身を委ねているだけ──そんな完全自動運転は、いつ実現するのでしょうか?
 
2021年6月に発表された「官民ITS構想・ロードマップ」(以下、ロードマップとします)を紐解きながら、自動運転・無人運転の今後を考えましょう。
 
 
 

これまでの施策に対する評価は?

 
ロードマップには、以下のように記載されています。
 

「自動運転の実現に向け、技術開発・制度整備・インフラ整備等の取組により、世界初の自動運転レベル3型式指定及び市場化、無人自動運転移動サービスを実現するなど、2020 年に向けて設定した目標については、概ね達成したと言える。また、2021 年以降の市場化等が期待されるトラックの隊列走行や、高速道路での自動運転レベル4等の達成については、実現に向けて計画どおり取組が進められている」

 
「世界初の自動運転レベル3型式指定及び市場化」については、2020年11月に配信した秋元通信で取り上げました。
 
日本が、自動運転の「世界初」にこだわる理由
 
ちなみに、「世界初の自動運転レベル3」市販車であるレジェンド(ホンダ)の販売台数は、わずか100台です。さらに言えば、販売形式はリースのみですから、このレジェンドが中古車市場に出回ることもありません。意地悪な言い方をすれば、ホンダと国の胸三寸で、いつでも市場から回収可能なクルマなわけです。
 
「無人自動運転移動サービスを実現」にも触れておきましょう。
今、商用サービスとして、「無人自動運転移動サービスを実現」しているのは、以下です。
 
・福井県永平寺町
https://www.town.eiheiji.lg.jp/200/206/208/p010484.html
 
・茨城県境町
https://www.town.ibaraki-sakai.lg.jp/page/page002440.html
 
東京駅駅前の丸の内や、千葉県柏市柏の葉地区など、実証実験は各所で行われています。ただし、あくまで実証実験なんですよね。
ロードマップでは2025年を目途に、無人自動運転移動サービスを40か所以上で展開したいとしていますが、この広い日本において、40か所というのは少ないでしょう。
 
ロードマップでは、無人運転に向けた計画の進捗に自信を示していますが、内容を診たとき、物足りないと思うのは筆者だけではないはずです。
 
 
 

無人運転は、どのように実現していくのか?

 
自動運転・無人運転では、レベル0からレベル5まで、6段階の実現技術レベルが示されています。詳しくは、先の記事 “日本が、自動運転の「世界初」にこだわる理由” に図で示していますので、ご参照ください。
 
運転やルート選択はクルマに任せ、人はただシートに身を委ねているだけ──このような自動運転は、レベル5に相当します。しかし、ロードマップではレベル5を実現させる時期を定めていません。
 
「定められない」というのが、本音なんでしょうね。
 
私が、他メディアでの執筆のため、自動車メーカーなどに取材した経験をもとに、自動運転・無人運転が、どのように実現していくのかを予測しましょう。
 
 
自動運転・無人運転の社会実装と拡大は、ある限定された環境や、指定の条件下での自動運転(レベル4に該当します)を積み重ねていくことになるでしょう。
当たり前ですが、東京23区内で完全自動運転(レベル5)を実現するのと、地方の田園地帯で実現するのとでは、まるで難易度が違います。
 
ロードマップにおいても、「地域の規模や特性を十分考慮すべく3つの地域に分類して、目指す社会を整理した」として、以下三つの都市区分を挙げています。
 

  • 地方部
    • 人口 :5万人以下
    • 自家用車分担率:50%以上
    • 想定する地域 :地方の郊外地域、小規模都市
  • 自家用車による移動が中心の都市部
    • 人口 :5~100 万人
    • 自家用車分担率:50%以上
    • 想定する地域 :地方の県庁所在地、企業城下町や周辺のベッドタウン
  • 公共交通が普及している都市部
    • 人口 :5~100 万人、100 万人以上
    • 自家用車分担率:50%未満
    • 想定する地域 :三大都市圏近郊ベッドタウン、地方大規模都市、政令指定都市、特別区

 
ロードマップでは、それぞれ以下の目標が掲げられています。
 

  • 地方部
    多様な住民が自由に移動できる社会
  •  

  • 自家用車による移動が中心の都市部
    渋滞が解消されスムーズかつ安全に移動が行える社会
  •  

  • 公共交通が普及している都市部
    ニーズに合った移動が行える利便性の高い社会

 
 
ぶっちゃけ、この目標は無視していいかと思います。
あまりにあいまいすぎて、分かるような分からないような目標ですから。
 
注目すべきは、自動運転社会の実現に向けて、地域をこのように3分類に分けたという点です。
結論から言うと、自動運転が許可されるエリアは、この3分類に分けて順次導入(社会実装)が許可されていくものと、私は考えます。
 
閉鎖された空間での自動運転・無人運転は、少しづつではありますが実証実験が進んでいます。
 
UDトラックス、日本通運、ホクレンが、国内初、一部公道を使用した大型トラックによるレベル4技術の自動運転実証実験を北海道で実施
 
上記事では、ホクレンが所有する工場敷地内を無人運転トラックが横持ちしてます。余談ですが、この工場では、繁忙期になると最大250台/日のトラックが必要となるそうですから、無人運転トラックの価値は絶大でしょう。
 
自動運転・無人運転は、企業が所有する工場や農場などの私有地から、BRT専用道などの閉鎖空間から、やがて高速道路などへと拡大していくことでしょう。
 
BRTは、「Bus Rapid Transit」の頭文字を取った言葉で、「連節バス、PTPS(公共車両優先システム)、バス専用道、バスレーン等を組み合わせることで、速達性・定時性の確保や輸送能力の増大が可能となる高次の機能を備えたバスシステム」と説明されています。
東日本大震災によって壊滅的な被害を受けたJR東日本 気仙沼線、大船渡線は、レールによる復旧ではなく、鉄道跡などを利用した専用道路を敷設、BRTとして復活を遂げました。
BRTは、他の一般車両が進入しないので、自動運転・無人運転の走行環境としては理想的と考えられます。
 
自動運転・無人運転は、人口密集度が低い地方部から、地方都市へと拡大(自動運転・無人運転の許可)していくものと、私は考えています。
 
余談ですが、そうなるとサプライチェーンにおける物流センター出店計画も大きく変わるでしょうね。
無人運転が許可されているエリアまでは、無人運転トラックが輸送。
その後、有人トラックが都市部までの輸送を担う形になれば、都市部周辺にTC型物流センター(トランスファーセンター/Transfer Center、保管よりも、積替えや中継輸送業務を主体とした物流センター)が求められることになるでしょう。
 
 
トラックやバスなどの輸送サービスにおいては、もはや少子高齢化が進む日本社会において、人手不足の根本的解決は見込めないこと。
交通事故による悲惨な犠牲者を減少させるためには、自動運転・無人運転技術の発展と普及が欠かせないこと。
 
だからこそ、自動運転・無人運転は、必要とされています。
ただ、その社会実装のあり方は、多くの人が期待・想像している形とは、ちょっと異なるかもしれません。
 
今後の動向を見守っていきましょう。
 
 
 


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