秋元通信

ミルグラムの電気ショック実験──閉塞された社会は、人を変えてしまうのか?

  • 2022.4.27

「ミルグラムの電気ショック実験」(アイヒマン実験とも呼ばれます。以下、ミルグラム実験と略します)をご存知でしょうか。
これは、閉鎖的な環境における権威者の暴力的な発信が、ごく普通の人々をも残虐な行為へと誘うことを証明した心理実験です。
 
 
 

ミルグラムの電気ショック実験とは

 
ミルグラム実験は、1963年にイェール大学(アメリカ)のスタンリー・ミルグラムが行いました。
 
被験者として集められたのは、20歳から50歳の男性です。
実験協力者は、学習における罰の効果を測定すると説明され、生徒役と教師役に分けられました。しかし実際には、生徒役は俳優が演じるサクラであり、集められた被験者は全員教師役を務めます。
 
被験者は、あらかじめ45Vの電気ショックを体験させられます。生徒役が受ける痛みの一部を認知させておくことが目的です。
 
教師役と生徒役は、別の部屋に分けられます。
お互いの様子はインターフォンを通じ──すなわち声でしか、うかがい知ることができません。
 
教師役は生徒役にあるテストを課します。
そして、生徒役がテストを間違えるたびに罰として電気ショックを与えるように指示されます。最初は45Vですが、生徒役が一問間違えるたびに、電圧を上げることを、教師役は指示されます。
 
電気ショックを与える装置には、以下のように記載されています。
 
15ボルト “SLIGHT SHOCK”(軽い衝撃)
75ボルト “MODERATE SHOCK”(中度の衝撃)
135ボルト “STRONG SHOCK”(強い衝撃)
195ボルト “VERY STRONG SHOCK”(かなり強い衝撃)
255ボルト “INTENSE SHOCK”(激しい衝撃)
315ボルト “EXTREME INTENSITY SHOCK”(はなはだしく激しい衝撃)
375ボルト “DANGER: SEVERE SHOCK”(危険: 苛烈な衝撃)
435ボルト “X X X”
450ボルト “X X X” 
 
435V、450Vに記載された「XXX」は、危険を超えた危険を暗示させるため、あえて詳細な説明を避け、このように記されました。
 
実際には、装置を操作したところで生徒役の俳優に電気ショックが流されることはありません。しかし、俳優は演技力をいかんなく発揮し、とても演技とは思えない迫力があったそうです。
 
教師役の被験者が、生徒役に電気ショックを与えることを拒否した場合、被験者を監督する「白衣を着た権威のある博士らしき男」が、感情を全く乱さない超然とした態度で次のように指示をしたそうです。
 
「続行してください」
「この実験は、あなたに続行していただかなくてはいけません」
「あなたに続行していただく事が絶対に必要なのです」
「他の選択肢はありません、あなたは続けるべきです」
 
それでも被験者が電気ショックを与えることを拒否しようとした場合は、このように言ったそうです。
 
「体に後遺症を残すことはありません」
「責任は我々がとります」
 
 
 

実験の結果は…?

 
・被験者40人中26人が、最大電圧である450Vまでスイッチを入れた。
・300Vに達する前に実験を中止した被験者は、皆無だった。
 
すべての被験者は、途中で実験に疑問を呈したそうです。
しかし白衣を着た権威者に続行を促されると、実験を継続したそうです。
 
余談ですが、この実験は、被験者に自身の秘めた残虐性を認識させるという、強い心理ダメージを負わせました。研究のためには何をしても良いのか?──心理学の研究方法においても、倫理面での問題を提起したきっかけになった事件として、ミルグラム実験は心理学におけるマイルストーンの一つとなりました。
 
 
 

ミルグラム実験は、何を検証しようとしたのか?

 
ミルグラム実験は、東欧地域数百万人のユダヤ人を、ユダヤ人絶滅収容所へ送り込む輸送責任者であった、ナチスドイツのアドルフ・アイヒマンに対する裁判開始(1961年)をうけて行われました。
 
アイヒマン自身は、アルゼンチンに逃亡、偽名を使い自動車工場の主任としてひっそりと暮らしていたと言います。妻との結婚記念日に、花束を購入したことが、アイヒマンが逮捕されたきっかけとなりました。
 
裁判において、虐殺の責任を問われたアイヒマンは、「命令に従っただけだ」と主張していました。
命令に従っただけで、あのような残虐な行為ができるのか…?
その疑問に答えを見つけるべく行われたのが、ミルグラム実験だったのです。
 
実際、裁判の過程であぶり出さされたアイヒマンの人柄は、大量虐殺をやってのける人格異常者ではなく、上司(≒アドルフ・ヒットラー)の命令に従い、真摯に「職務」に励む一介の平凡で小心な公務員だったと言います。
 
 
 
人の

行動や考えは、自分自身が考えているほど堅牢なものではない

 
“SNSに心理状態を操作される!?”
https://amlogs.co.jp/?p=3110
 
以前、秋元通信ではこのような記事をお届けしたことがありました。
記事中では、サブリミナル広告や、2012年にFacebookが行った心理操作実験などを取り上げています。
 
人は、自分自身が考えているほど堅牢な存在ではありません。
他人の意見、置かれた環境などによって、行動はたやすく変容し、また自分自身の考えは揺れ動くものです。
 
現在進行中の、ロシアによるウクライナ侵攻は、世界中に衝撃を与えています。
そして、プーチン大統領の支持率がロシア国内で8割を超えていること、ロシア軍がウクライナの一般市民に対し残虐な行為を行っていることなどから、ロシア人に対するバッシングも始まっています。
 
私が臆病なだけなのかもしれませんが。
もし、日本が他国に対し戦争を始めたときに、私は正気を保っていられるか、不安を感じています。アイヒマンのように、もしくはミルグラム実験の被験者のように、もしかしたら残虐な行為を行ってしまうのではないか…?
 
第2次世界大戦中、日本でも時の内閣に対する支持率が大幅に上がったそうです。
繰り返します。情報統制され、閉塞された社会では、人は正常な判断と人間性を維持することが、とても難しいのです。
 
だから、日本はどうあっても戦争に加担してはならないと、私は思います。
 
亡くなられたすべての方に哀悼の意を表するとともに、この悲劇が一日も早く終わることを、心から祈ります。
 
 
 

参考および出典

 

 
 
 


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