秋元通信

ゾンビ部長、ゾンビ役員が生まれてしまう理由 【ゾンビ業務、ゾンビ社員の課題】

  • 2022.5.24

その方(以下、Aさんとします)は、あるITベンチャー企業にヘッドハンティングされました。
大手商社で社会人としてのキャリアをスタート、その後、IT業界を中心にキャリアを積み上げてきたAさんの人脈をITベンチャー企業は欲し、1億円を超える年収を提示、Aさんを招いたそうです。
 
当時、Aさんはすでに60歳を越えていました。
対して、ITベンチャー企業の社員平均年齢は30歳前半です。社長も30代なかばでした。そのITベンチャー企業としては、初めて迎えた60歳オーバーの社員でした。
 
Aさんには、女性秘書を一人つけていました。本当は、秘書は社長を含め、他役員のスケジュール管理等の秘書業務も行っていたのですが、いざAさんが入社すると、Aさんだけの仕事で秘書が手一杯になってしまったのです。
 
秘書は、Aさんが出社する1時間半前に出社します。
Aさんのメールボックスを開き、メールをすべてプリントアウトし、「読むだけで良いもの」「返事が必要なもの」「社内の誰かに指示を出す(もしくは「指示を仰ぐ」)」必要のあるものに分類します。
 
Aさんは出社すると、プリントアウトされたメールに目を通し、その紙に返事を手書きします。その手書き文字を入力し、メール返信するのも秘書の役目となりました。ちなみにAさん、とても達筆(…?)なので、解読するために、秘書は何度もAさんに確認せざるを得ず、より手間がかかったのだとか。
 
さらに、会議資料、お客さまに提出する提案書等、すべて秘書がプリントアウトし、Aさんに渡します。特に、提案書や契約書等のレビューでAさんから指摘があれば、それは秘書が全部代行入力します。
 
Aさんが利用した交通費、接待交際費なども、すべて秘書が入力し、社内申請していました。
 
「私、おじいちゃんの介護しているみたいじゃないですか…?」──件の秘書は、このようにぼやいていたそうです。
そう、Aさんは、PCをまったく使えなかったため、言うならば「PC介護」を秘書がやらざるを得なくなったのです。
 
 
これだけだったら、秘書が人身御供になっていれば良かったのですが、やがてAさんの能力不足は、社内に知れ渡っていきました。
 
例えば、IT音痴ゆえに、システムの基本原理はおろか、インターネット、WebのことすらAさんは分かっていません。
システム開発の打ち合わせに参加しようものなら大変です。打ち合わせの最中に、Aさんはインターネットの原理を説明するように求めます。お客さんもあっけにとられます。当たり前です。1時間半用意し、要件定義を行うはずだった打ち合わせが、インターネットの原理の説明で終わってしまうのですから。
もっとも、元凶のAさん自身は、「私、この年齢になっても知的好奇心が旺盛なんですよ!」と意に介しません。
 
これまで常に「偉い人」であり続けたAさんには、お客様の都合を顧みず、自分中心に物事を進行してしまう悪癖があったのです。
 
お客さんからは「次からはAさん連れてこないでくださいね」と言われますが、当のAさんは楽しかったらしく、「次の打ち合わせも参加する」と言い張ります。打ち合わせの停滞を恐れたあるSEが、Aさんに内緒で打ち合わせを実施したことがばれて、Aさんから大目玉を食らったこともありました。
 
 
経理からの突っ込みもありました。
「これって、接待じゃなくて、友だちとの”楽しい飲み会”ですよね?」──経理から突っ込まれた秘書も、答えに困ったそうです。
 
Aさん、毎晩接待と称して呑みに行っていましたが、ほぼ毎回、同じ人と同じ居酒屋で呑んでいたそうです。相手も一部上場企業の役員でしたが….
 
秘書いわく、「家庭に居場所のない仕事おじさん同士が、なるべく家にいたくないから、会社の金で時間つぶしをしているだけだ」と言います。
 
やがて、「Aさん、いらないでしょう?」と言い出す社員が現れ始めます。
当然でしょうね。
 
 

「営業は給料の3倍稼げ!」とは言われるものの…

 
筆者も、若かりし頃に「営業は、給料の3倍の売上を上げて、初めて一人前なんだぞ!」と先輩に言われたものです。
 
ただしこれって(何倍かはともかく)営業に限らず、すべてのサラリーマンに言えることです。
 
営業、製造、品質、経理、人事….、すべてのサラリーマンは、自身の給与以上の貢献を会社にしなければなりません。
会社には、存在していくだけで必要とされる経費(コスト)があります。
事務所、税金、社員の福利厚生費用、製造設備やPC、通信回線などのインフラも、すべてコストです。最低でも、一人に頭割りされるコストを上乗せした分を含めた貢献をしないと、サラリーマンは「給料泥棒!」と言われてしまうわけです。
 
若い頃は、まだ楽です。貰っている給料がそれほど多くはありませんから。
ところが、年齢を重ね、年功序列賃金制度の恩恵により給料が高くなってくると、そうはいきません。
極論ですが、20代のときと同じ仕事をしている50代のサラリーマンに、50代向けに設定された年功序列賃金をもらう資格はないわけです。
 
 

ゾンビ社員化する部長や役員たち

 
「自分の食い扶持くらい、自分で稼がないとな!」──中小運送会社の社長や役員の中には、こういって自らトラックのハンドルを握る人がいます。
 
以前、このように言っていたある社長に、「いや、社長がいくらトラック乗っても、社長のレクサスのコストは出ないでしょう?」と言ったら、激怒されたことがありました。
 
給料泥棒は、年功序列制度だけが生み出すものではありません。
部長や役員といった、高い職位にある人が、その職位や責任に見合った仕事をしなければ、当然、給料泥棒化してしまいます。
 
部長には部長の仕事があるはずです。
役員には役員の仕事があるはずです。
 
前号の秋元通信「なんのために働いているのか?──ゾンビ業務、ゾンビ社員の課題」では、「魂のない仕事をする、もしくは魂のない働き方をするサラリーマンのことをゾンビ社員と呼ぶ」と申し上げました。
 
部長が、部長が本来行うべき魂のこもった仕事をできない(していない)のであれば、その人は、ゾンビ部長です。
 
ゾンビ社員というスラングは、最近では一般社員に対してではなく、ここまで論じてきたような「給料泥棒の部長や役員たち」に対しても使われることが多くなっているそうです。
 
 

なぜゾンビ部長、ゾンビ役員が生まれるのか?

 
基本的に、平社員のときからきちんとした仕事を行い、実績を上げ続けてきたから、部長、役員といった高い役職、重要な管掌を任されたはずです。言ってみれば、このような方々は、若いときは「給料泥棒」ではなく、むしろ稼ぎ頭と見なされていたはずです。
 
それが、ソンビ部長、ゾンビ役員などと揶揄されるようになってしまった原因はなぜでしょうか?
 

  • 当人の課題は、部長の働き方、役員の働き方を身に付けることができていないこと。
  • 会社側の課題は、部長の働き方、役員の働き方を定義できていないこと。

 
予測不可能なVUCAの時代と言われる今、年齢を重ねるほど、新たな技術に精通し続けることは困難を伴います。組織マネジメントの常識も、10年20年前とはずいぶん変わりました。
Aさんの例に限らず、PCオンチの部長や役員が、テレワークやらオンライン会議についていけず、若手社員から邪魔者扱いされてしまうのも、心情的には同情します。ただ、「オンライン会議くらい、普通に参加できるように頑張ってよ!」と考える若手社員の心情は当然でしょう。
 
 
ちなみに、Aさん、その後、どうなったと思いますか?
Aさんは、専務としてITベンチャー企業にヘッドハンティングされました。しかし、社内からは、「あの人は専務にふさわしくない」と非難轟々だったそうです。
とは言え、クビにするわけにもいきません。クビにされたAさんが、社外であることないことを風潮し、企業イメージが下がってもまずいですから。
 
そこで、Aさんには「社長室長特別顧問」という、分かるような分からないような役職を与え、役員から外れてもらったそうです。もちろん、管掌の範囲も大幅に制限しました。報酬は下げず、何年か勤めてもらい、退職してもらったそうです。
 
この例は極端ですけどね。
根本的な課題は、Aさんではなく、ITベンチャー企業側にあったように、私は思います。
 
求めるミッションを検討、定義することもなく、「高キャリア人材を獲得したら、仕事をバンバン取ってきてくれるだろう!」というふわっとした考えで、億単位の投資をしたのですから。
 
 
 


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