秋元通信

罰金制度の落とし穴【アメとムチはどちらが効果的なのか?】

  • 2022.5.24

興味深い記事がありました。
 
保育所のお迎え「遅刻したら500円」と制度変更した結果、起こったこと
 

「16時がお迎えの時間で、それを過ぎると保育士さんは残業しなければならない。保育士さんに迷惑をかけてしまうことがわかっているから、遅れてしまった母親は申し訳なさそうに『迷惑をかけてすみません』と言いながら駆け込んでくる。
 
 ところがある日から、保育所側が『30分遅れたら500円のお支払いをお願いします』と制度を変更した。すると、どうなったか。支払い額を増やさないため、時間通りに迎えにくる親が増える、と保育所側は期待していたのに、実際は逆でした。遅れてくる人数は倍になり、申し訳なさそうな態度も示さなくなった。遅刻の代償としてお金を支払うんだから遠慮や気遣いは必要ない、というわけです」

 
ん~~、なるほど…
筆者は、同じような話を聞いたことがあります。
 
あるシステム開発会社で、「バグを出したら罰金」というルールを定め、システムを開発したSEから、バグの数×100円の罰金を徴収することにしたそうです。
 
これは、会社が課した制度ではなく、SE同士で取り決めたルールだったのだとか。
システム開発会社に在籍するSEは5名で、開発したシステムに関して、お互いにテストを実施していたそうです。ところが、一人問題児がいて、その方が開発したシステムには、バグがいつもたくさんあったのだとか。
 
「いやいや、他人にテストを依頼する前に、自分できちんとテストして、ある程度バグは潰しておこうよ」──このような不満が出始めたのだとか。
SEは、自分の開発業務の合間をぬってテストを行います。他人の開発したシステムでバグがたくさん発見されると、その後、バグが解消されたことも確認しなければなりません。すなわち、自分が開発する時間が削られてしまうわけです。
 
困ったSEたちは話し合い、そして「バグを出したら100円」というルールを定めました。
溜まったお金は、皆で呑みに行くときの資金にするつもりでした。
 
が、しかし…
罰金用の貯金箱を用意した途端、問題児が1000円札を貯金箱に入れたそうです。
いわく、「いやどうせ皆さんに迷惑をかけるのだから、あらかじめ入れておこうかと思って」とのこと。
 
断っておきますが、当人に悪気はありません。
当人も、「自分はテストが下手で、バグをたくさん出してしまい申し訳ない」と思っています。その申し訳ないという気持ちが、「お金をだすことで解消できる!」と勘違いしてしまったわけです。
 
 
 

罰金が招く心理

 
非定期連載「アメとムチはどちらが効果的なのか?」、久しぶりの登場です。
前回は、昨年の4月でしたから、約1年ぶりの出番ですね。
 
今回は、罰金というムチが招く弊害について考えましょう。
 
保育園のケースにしても、SEのケースにしても、罰則的な意味合いを備えるお金は、勘違いされるケースがあります。
保育園のケースでは、500円=時間延長の対価。
SEのケースでは、100円=「申し訳ない」という気持ちの解消手段と勘違いされてしまいました。
 
どちらも、罰金を取ることが目的ではなく、その対象となる行為(遅刻であり、バグの発生)を抑制することが目的だったのですが、勘違いされてしまいました。
 
これでは、罰金を設けた本来の目的を達成することはできません。
 
 
 

フレックストラベラー制度は応用が効くのか?

 
「搭乗便の変更にご協力いただけるお客さまはいらっしゃいませんか?」──空港で搭乗便を待っていたら、このように声を掛けられた経験がある方もいらっしゃるでしょう。
 
これを、フレックストラベラー制度と言います。
 
航空会社では、キャンセルの多い路線や運行日、運行便について、多めに予約を取ることがあります。しかしこれは予想よりもキャンセルが少ない場合、オーバーブッキングが発生します。
 
そこで、該当する搭乗便の予約客に声を掛け、搭乗便の変更をお願いするわけです。ANAの場合、当日の他の便への変更は1万円、翌日以降の場合は2万円の協力金がもらえます。(当日の状況により、さらに上乗せされるケースもあります)
 
実は筆者も、このような場面に出くわしたことがあります。
妻と二人、宮崎~羽田便の登場を待っていた時、声を掛けられました。私たちが搭乗予約をしていた便は正午前で、対して振替便は17時過ぎでした。
 
「早く帰りたい…かな」、妻と応じないことに決めましたが、家に着いてから、妻がポツリと言いました。
「二人で2万円貰って、後半日ゆっくりできたら、もっと美味しいもの、食べられたね」
 
確かにそうなんですよね…
私たちの脳裏には、「損をしたかも?」という気持ちが残っていました。
 
しかし勘違いしないでください。
フレックストラベラー制度のように、アメ、すなわち報酬として対価を支払うことが、常に良い方向に働くとは限りません。
 
「アメとムチ」は、どちらが効果的なのか?
 
当非定期連載の一話目では、毎月目標達成をしていた営業チームが、たった一回だけ、目標を達成できなかっただけで崩壊したエピソードをご紹介しました。
 

「達成金をもらえなかったAチームのアポインターは、それをバツだと感じました。
実際、『これまでずっと頑張ってきたのに、たまたま目標を落としただけで、なぜ達成金がもらえないのか!!』と、部長に直談判したアポインターもいました」

 
お金って、人の感覚を狂わせてしまいます。
このエピソードに登場した常勝チームのメンバーは、「達成金がもらえることはご褒美である」ではなく、「達成金が貰えないことは罰である」と感じているようになってしまっていたのです。
 
人は、常に合理的に、自分がもっとも得する選択(もしくは判断)をし続けるわけではありません。
損をしてでも人に尽くそうとする人もいれば、500円という不合理な対価(※500円で保育士さんたちの残業代に足りるわけがありません)でも当然だと思ってしまうこともあります。
 
理論上の人間像と、実際の行動とのギャップを研究する学問として、行動経済学があります。
 
行動経済学は、また秋元通信でご紹介しましょう。
お楽しみに!


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