秋元通信

不合理な人間行動を愛でる、行動経済学の話

  • 2022.5.30

クイズです。
 
「バットとボールは、合計110円で販売されています。バットは、ボールよりも100円高いです。では、ボールはいくらでしょう?」
 
これは、認知反射テスト(Cognitive Reflection Test / CRT)と呼ばれる問題です。
 

  • ボール=10円と答えた人
    間違いです。
    ボール:10円であれば、バットは100円です。すなわち、バットはボールよりも90円高いことになります。
    以下、「直感的回答者」と呼びます。
  •  

  • ボール=5円と答えた人
    正解です。
    バットは105円となりますので、「バット+ボール=110円」かつ「バット=ボール(5円)+100円」という二つの条件を満たします。
    以下、「正答者」と呼びます。
  •  

  • その他の回答の人
    バット=10円と答えるなど、問題を正しく理解できなかったケース。
    ボール=20円と答えるなど、計算が間違っているケースなどです。
    以下、「その他回答者」と呼びます。

 
 
この問題は、直感的に答えると、ボール=10円と答えてしまいがちです。
正答を導くためには、以下の二元一次方程式を解く必要があります。
 
バット(a)+ボール(b)=110
バット(a)=ボール(b)+100
 
 
 

回答から診る、回答者の傾向

 

  • 正答者
    →直感的回答者、その他回答者よりも、宗教的信念が弱い。
  •  

  • 直感的回答者
    →正答者、その他回答者よりも、伝統的な価値観を重んじる保守主義的な傾向が強い。
    →正答者、その他回答者よりも、政府の歳出総額の圧縮と、国際の発行削減を求めるような財務的保守主義傾向が高い。
    →正答者、その他回答者よりも、超常現象を信じがちである。

 
 
分かるような、分からないような分析ですけどね。
このように列記すると、直感的回答者はダメダメな印象を受けるかも知れません。しかし、人間が健康かつ安全、円滑に生活していくためには、直感的回答の能力が必須です。
 
筆者は、この問題を見たときに最初、「ボール=10円?」と思いました。が、「なにか違う…」と思い、紙と鉛筆を用意し、二元一次方程式を解き、正答を得ました。
でも、日常的にこんなことをしていたら、命の危険にさらされることもあります。
 
 
 

直感的回答の重要性

 
「あなたは歩行者です。あなたは今、交差点で信号待ちをしています。気づくと、前方から暴走車が突っ込んできます。逃げるべきは、前か後ろか、右か左か?それとも、動かず身をかがめるほうが良いのか?」
 
「周囲の状況とトラックの進行方向を冷静に見極めて…」なんてやっていたら、考えているうちに暴走車に跳ね飛ばされてしまう可能性もあります。だからこそ、安全対策には日頃のKY(危険予知)訓練が必要なのですが…、話がずれましたね。
 
人間は常に合理的で最適解を導くことで行動を決定しているわけではありません。繰り返しになりますが、そんな面倒くさいことをしていたら、生きていけません。だから、人間には直感的、脊髄反射的な反応能力が備わっていますし、必須なのです。
 
 
 

経済人モデルと経営人モデル

 
人間は常に合理的で最適解を求めて行動を行う──初期の経営学は、このように考えていました。
しかし研究を進めていくうちに、経営学は壁にぶつかります。
 
人は必ずしも合理的ではありませんし、常に最適解を求めるわけでもないからです。
 
ソーセージ業界 巾着のような包装廃止へ プラスチック削減で
 
以前ご紹介したこの事例も、非合理な人間行動の例でしょう。
「売り場で目立つから」という、ソーセージの巾着包装は、厳密に言えば包装の最適化モデルではありません。資材の浪費だし、手間も掛かるし、何よりその資材と手間は消費者に転嫁されてきたわけですから。
 
経済人モデルとは、人は己の利益を最大化するために、完全に合理的な意思決定ができるという考え方です。
対して、経営人モデルとは、人は「完全に合理的な意思決定」ができるわけではなく、とりあえず満足できる水準で意思決定を行うという考え方です。
 
前項でご紹介したCRTのくだりは、経済人モデルと経営人モデルの違いを示唆するとともに、直感的で不合理な意思決定を行ってしまう人間の特性と必要性を示すものです。
 
そして、この不合理な意思決定のプロセスをなんとか解き明かそうというのが行動経済学なのです。
 
 
 

行動経済学のおもしろさ

 
行動経済学は、古い経済学が前提としてきた「パーフェクトヒューマン」経済人モデルに疑問を抱き、非合理だったり、ときに間違えることもある経営人モデルを前提として、人間の行動を研究・解析することで、経済学としての学びを得ようという学問です。
 
980円など、あえて端数を設けた価格設定も、行動経済学のテリトリーです。
行動経済学って、実践的かつユーモラスで、知的好奇心をくすぐられます。だから世の中には行動経済学を解説した本がたくさんあります。
 
秋元通信でも、また折に触れて行動経済学を取り上げましょう。
お楽しみに!


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